5年ぶりに感想書くマンがアナタの作品お読みします
及川シノン@書籍発売中
男、再び
本人確認のための茶番
ザッ……
「この町も変わらねぇな…」
砂塵吹き荒れる荒野。砂煙の向こうから、一人の男がカクヨムの町へと足を踏み入れた。
男はボロボロの茶色いコートを身に纏い、日光を遮るフードで顔を隠している。
荒れた手には無数の
まるで浮浪者――いや、誰がどう見ても一文無しと分かる、『ろくでなしの人生を送ってきたのだろう』と察せられる容貌。
干からびた脱走奴隷にも思える見た目の男は、道端で遊んでいる少年と少女に話しかけた。
「……なぁ、そこの子供達。
幼い二人は――このカクヨムの町では見かけたことがない、怪しげな男に声をかけられ――少しだけ警戒した様子だった。
しかし『小説家になろう』や『ノベルアップ+』辺りの
子供達は互いの顔を見合わせ、小さく頷いてから、男の質問に答えた。
「僕は4歳」
「私は5歳ー」
「そうか……。もう、そんなになるんだな……」
二人は、カクヨムがサービス開始された後に産まれてきた子供達だった。
男は懐から取り出した
そして小柄な子供らに再び向き直ると、しゃがみ込んで視線を合わせた。
「キミ達も小説を書いて、ココで
すると、男の子はノートパソコンを。女の子はスマホを取り出し、作品ページを開いて男に見せた。
「うん! 僕は『冒険者パーティから自分を追放した仲間達&婚約者のくせに浮気した聖女ヒロインをチートスキルでボコボコにしてエルフ娘達の下僕ハーレムを作る話』を書いてるんだ!」
「4歳が書く内容じゃねぇ」
「私は『52歳の中年独身サラリーマンが悪役令嬢に異世界美少女転生してイケメン王子様に求婚されつつ自分を連れ去った敵国の狼ケモノ王様にも「俺の
「
男はこの国の未来を心配した。
それでも、彼ら彼女らが書いた作品のあらすじや、キャッチコピーに目を通していく。
だが子供達の書いた作品には、星もレビューも応援も、ほとんどついていない。
Twitterで必死に宣伝もしているようだが、フォロワーやRTも少数だった。
「……なぁキミ達。『感想書くマン』って……知ってるかい?」
聞き慣れない単語に、二人は首を横に振る。
「知らなーい」
「誰それぇ」
「ユーザー達から投稿作品を募集して、その作品を読んだら感想を書く人だよ。たとえそれが、何十作だろうが何百作品だろうとな。昔、このカクヨムに実際にいたんだ」
しかし男の説明に対して、甲高い声で異を唱えた。
「嘘だー。そんなシンドイこと、わざわざする人なんていないよ!」
「そうだよ! 自分が好きなジャンルとか、面白そうと思った作品以外も読まないといけないんでしょ?」
荒れた親指で自分自身を、無精髭の生えた顔を指し示した。
「俺を誰だと思っていやがる?」
――だが、その言葉は続かなかった。
「……いや……。……誰でもないか」
男は正体を明かそうとして、途中で止めた。
懐には、ボロボロのコートの内側には、新人賞受賞者に送られる楯が入っていた。
だが、それを見せびらかすことはしなかった。
そんなことは、子供達には関係ないからだ。
男は親指を下ろし、自身の持つスマホを取り出す。
そして5年ぶりにログインしたアカウントを使い、少年と少女の作品にアクセスした。
「……俺で良ければ、読ませて貰うよ。最後まで読むから、感想を送らせてくれ」
思わぬ提案に、そろそろ通報しようかと考えていた子供達の顔には、驚きと共に明るい笑顔が咲き誇った。
「本当……!? ありがとう、オジサン!」
「嬉しい! 優しいんだね、オジサン!」
「はは、どういたしまして。ただ28歳は『オジサン』じゃなくて『お兄さん』だぞクソガキ共」
男はアラサーなのを気にしていた。
「でも……本当に読んでくれるの?」
「感想まで書いてくれる?」
「あぁ、読むよ。それで、感想も付けるさ。誰かに読んで欲しいから、その感想を貰いたいから、
そして男は少年と少女の隣に座り、作品を読み始めた。
男にできることは、他の
読んで、感想を送る。
ただ、それだけの
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