第2話 転生先確定チケット、ただし転生先はモブに限る

 ◇◇◇


 パァァ……視界を埋め尽くすほどの眩しい光。


「おお、何処だここは」


 気がつけば、俺は一面の草原に立っていた。


 そして目の前には頭の上に輪っかを浮かべた桃色の髪の女性がいる。透けそうなほどに白い薄手の法衣を羽織り、微笑む様にコチラを見つめている。


「唯野萌文さんですね。私の名はラブリエル。見ての通り天使です。この度はご愁傷様でした。今生は如何でしたか? 満足のいく人生を完うされましたでしょうか?」


 ラブリエルの言葉には何の含みもなく、ただ俺に対して真摯な感想を問うているように感じた。


「正直なところ満足のいく人生は送れなかったかな。だけど、どう生きるのが最善だったのかなんて、死んだ今でもわからない。思えばずっと、何だか流されるままに生きてきたような気がする」


 自然と口をついて出た言葉は、自分でもびっくりするくらい正直な気持ちだった。


「そうですか……まあ、“エキストラ”の人生なんてそんなものですよ。あの、実はわたくし……萌文様のような方を探しておりまして。いま私が造っている世界でもう一度、新しい生をやり直したいとは思いませんか?」


 ラブリエルはニコニコと微笑んで、俺にチケットを差し出した。


「転生先確定チケット……?」


 差し出されたチケットには、見たことのない紋様と一緒にそう書かれていた。知らない文字だったが、何故か不思議と読むことができた。


「あ、はい。って、よく読めましたね!? このチケットを使えば、貴方様の次の“生まれ変わり先”を自由に選ぶことが可能です。一国の王子でも、大商人の息子でも、剣聖の隠し子でも、ありとあらゆるパターンでの転生が可能です」


 あ、枚挙された転生先が明らかに現代日本ではないあたり、何というか、とてもファンタジーだ。


「もう一度“新しい生”を得てやり直せるとすれば、貴方は“何”に生まれ変わりたいですか?」


「え、マジすか?」

「ええ、大真面目です」


 目の前の天使はコクコクと頷き、真剣な眼差しでこちらを見つめている。彼女はコチラに「転生先確定チケット」なるものを差し出して、もう一度俺に問いかける。


「さあ、何に生まれ変わりたいですか?」


 そう言うと、天使は一拍置いてから一言付け加えた。


「ただし……転生先はあくまでも、“エキストラ”に限ります」

 

 ニコリと微笑む天使の顔が、どこかビジネスライクなものに見えてきた。


 ◇◇◇

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