第40話 モブは魔女でお姉ちゃんでアレがついてません


 ◇◇◇



 俺は、ラブリエルから教わった方法を早速試みることに決める。俺の腹の中の異空間は飲み込んだものをそのまま保管しておけるみたいだが、瀕死のコブがそこでいつまでも生きていられるかどうかはわからない。

 


「ロッチ、もう少し待っていてくれ。目は閉じたままでいるな?」



 俺は荷車のカーテン越しに声をかけた。中からロッチの震えた声が返ってくる。



「う、うん!! でも……あ、あの、いつまで瞑っていればいいんでしょうか。それにいつの間にか、コブも隣から消えてて……僕、怖くて……」



「コブは私の側にいるよ、大丈夫。これからために少々時間がかかる。不気味な音がするかもしれないが、決して目を開けてはいけないよ? 開けたら最後、私の魔法は失敗するからな」



 俺はもう一度ロッチに念押しすることを忘れない。いざ自分を飲み込み始めれば、口が完全に塞がってしまうからだ。



「は……はい!! だ、だけどあの……一つだけお願いがあります!! トモエさんの手……手を握らせてもらうのはダメですか?? 絶対、目は開けませんから!!」



 え……? あ〜〜。手を握りたいね!

 なるほどなるほど、やっぱりまだ子供だなぁ。



 手をね、お安い御用さ。ほい、それではお姉ちゃんのすべすべの手をご堪能ください。



 にょろろん。



 ──ッて、ストォォオオオップ!!!!



 俺の顔の横に持ち上がったそれは、どう見たって腹の一部である。確かにすべすべとはしているが、どうやってもこれが手だというのには無理があるだろう。

 


 物理的に無理すぎる!! だって俺にんだからな!!



 やばい、人間じゃないことがバレてしまう。



「それは……」



(もう、しょうがないわね……差し出せる手はなくても、ならあるわ。トモエ、ここは私に任せて!!)



 頭の中が真っ白になりそうになりかけた時、横にいたセレーネが小声で囁き、ピョンと荷台に飛び込んだ。



「わ、私はセレーネ。ロッチ君……だよね? 怖いよね、不安だよね。だけど、トモエはいまから、私が側についていてあげるわ」



「あ……え。セレーネ……さん??」



(……グッジョブセレーネ!! その芝居、便乗させてもらうぜ)



「ああ、彼女は私の使い魔のウサギだ。もし不安だったら、抱きしめたってかまわない」



(……え!? ちょっとトモエ!?)



 セレーネは小さく抗議の声をあげたが、そのトーンから感じられたのは不満や不安よりもむしろ、恥じらいである。



「よ、よろしくねロッチ」



「よよよろしくお願いしま…………わわ! ふわふわだ!」



 目を閉じたまま優しく伸ばされた手にセレーネが近づけば、ロッチは驚きの声をあげた。



「あう……」



 セレーネは少し恥ずかしそうだ。



「……!? ご、ごめんなさい!! どこか痛かった??」



「ううん、大丈夫よ」



「よかった。あの、もう少しだけこうしててもいいですか?」



 ロッチの声は、先ほどまでよりも少し安心したように聞こえる。



「……ええ、もちろんよ。不安だろうけど、お友達は必ず治るわ。トモエを信じて祈りなさい」



「は、はい!!」



 さあ準備は整った。あとは、気持ち悪さに耐えるだけだ!!



 ◇◇◇

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