おまけ:攻めに強いが受けに弱い
水瀬先輩から事業開発部の本部に報告書を提出しに行く役目を任されて、俺は水瀬チームの専用会議室と同じ階にあるオフィスに顔を出した。
ふとオフィスの隅にキラキラしたオーラを感じて視線を向けると、やはりコピー機の前に水瀬先輩がいて、一人の男性社員と話をしていた。
早とちりで以前のような勘違いをしたくはないのでとりあえず聞き耳を立てていると、不思議な会話が聞こえてきた。
「水瀬さんコピー機の使い方困ってるとかなら俺が教えますけど!」
「あ、いえ大丈夫です!わざわざありがとうございます!」
聞いた感じ絡まれているわけではないようだ。
しかしふと嫌な予感がしたので、俺は静かにその場を去ろうと来た道を戻る。
「あ、黒崎君〜!助けてぇ!!」
はぁ・・・、やっぱり。
この展開はなんとなく予想できていた。水瀬先輩は策士なのだと思っていた方が良い。あの常識的な先輩がおかしな言動をする時には大抵ノクなことがない。
今でも時々考えるが、俺と出会った時に言っていた「あんなことの責任」というのも本当のことなのか怪しい。もしかすると、あれも作戦・・・?
水瀬先輩が堂々と俺の名前を呼ぶものだから、辺り一帯の社員は全員俺の方へ視線を向けた。俺は呼ばれた手前、反応しないわけにもいかず面倒そうに心無い声をかける。
「どうしたんですか、水瀬先輩。」
「コピー機の使い方が分からないの〜!」
あまりに大きな声で言うものだから「あ、そうですか。」と言って逃げる訳にもいかない。案の定、さっきの男性社員も困惑した表情を浮かべている。
「先輩、本当はコピー機使えますよね?」
「え、つ、使えないけどー?」
水瀬先輩は分かりやすくシラを切りながら「ドヤッテツカウノカナー」とコピー機をバシバシ叩く。俺はとりあえずその手を制止して、仕返しとして反撃に出てみることにした。
俺は水瀬先輩の耳元に近寄ると、多めに息を吐きながら、
「嘘はダメですよ?」
と囁く。
水瀬先輩は背筋を立たせて顔を赤くすると、「ごめんなさいぃ・・・。」と恥ずかしそうに俯いた。
先輩は果たして策士なのかどうなのか、見極めは難しい。しかし、攻めに強いが受けに弱いのはほぼ確実だろう。
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作者の酸素です。
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