おまけ:水瀬先輩の噂
とりあえず水瀬先輩との約束も無事に結ぶことが出来て、当面の間彼女ヅラは収まることだろう。今朝の出来事によって周りからの目がいつも以上に冷たく感じる。
小さなため息をつきながらデスクに座ると、斜め前の清水が身を乗り出して声をかけてきた。
「なぁ、水瀬先輩の噂って知ってるか?」
先ほどまであんだけ啖呵を切っていたというのに、清水は本当に気まぐれな奴だ。
白ワイシャツに赤いネクタイをだらしなく緩ませているのが清水のいつものスタイルで、身長が低く童顔であるため社会見学に来たお偉いさんの息子みたいだ。
「噂?知らないな…。」
「だろうな、俺が教えてやんよ。」
清水はいつも一言余計だ。
だがそれにももう慣れてしまっていて今更腹立つことはほとんどな――。
「く、首絞める癖なんとかしろよぉ…!」
「あ、すまん。」
俺は思わず清水の首を絞めてしまう癖がある。生意気な清水を見ていると、中学生の子どもを思い出してとっちめたくなるのだ。
「水瀬先輩の噂って何?」
「実はなぁ、」
清水は神妙な面持ちでさらにデスクから身を乗り出す。多分今あいつは足をついていない。きっと全身デスクの上に乗ってるんじゃないか。
「水瀬先輩って…っあああ!!うしろ!!」
どうでもいいことを考えていると、清水が耳元で急に大きな声を出したので、俺は鼓膜が破れたかと思うくらいびっくりしてしまった。はっと後ろを振り返ると、きょとんとした水瀬先輩の姿がある。
「なに~、二人で内緒話?」
「ま、まぁ…。」
俺の曖昧な返事に水瀬先輩は少し怪しむ顔をしながらも、はっと何かを思い出したかのように手を叩いた。
「あっ、黒崎君!私ね、今日お弁当作ってきたから一緒に食べよ?」
「え、いや、彼女ヅ――会社では距離取るって言いましたよね?」
危うく彼女ヅラといいそうになって俺は慌てて口をつぐむ。水瀬先輩は頬を膨らませて「ちぇっ。」と言いながらツンツンと自分の席へと戻っていった。
「…んで、清水。水瀬先輩の噂って何?」
水瀬先輩が席に着いたのを確認して再び清水の方を見ると、いつの間にか清水がだらーっと伸びていた。完全に意識を失っているようだ。俺が見てないうちに何があったのか。その謎はいまだに分かっていない。
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作者の酸素です。
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