第255話 魔剣の秘密

――この世界において魔術師が扱える魔法は原則的には一つの属性のみであり、例外があるとすればマオのように血筋で二つの属性の中間に位置する人間ならば複数の魔法も扱えない事もない。もしくはマリアのように魔術痕を施せば魔石を利用して他の属性の魔法を扱えない事もない。


リオンは生まれた時から風属性の適性を持ち、彼は幼少期の時から高い魔力と才能を持ち合わせていた。しかし、兄の死を切っ掛けに彼は魔術師として生きていく事を諦め、兄が所有していた魔剣を受け継いで生きる事を誓う。


王国に代々伝わる魔剣の名前は「レーヴァティン」この魔剣には火竜の素材を利用して作り出された代物であり、柄の部分には火竜の体内から発見されたと言われる特別な魔石が嵌め込まれていた。


リオンの兄は火属性の適性を持ち、彼はレーヴァティンの力を使いこなしていた。しかし、兄とは違って火属性の適性がないリオンは本来であればレーヴァティンの力は使いこなせないはずだった。




だが、リオンは血の滲む努力でレーヴァティンを扱うために訓練を行い、亡き兄でさえも気づかなかった魔剣の能力を把握する。それは魔剣に取り付けられた魔石はただの魔石ではなく、竜魔石と呼ばれる代物だと見抜く。




竜魔石とは文字通りに竜種の体内から採取された魔石であり、竜種は人間とは比べ物にならない膨大な魔力を持ち合わせ、それが長い年月を過ごす事で体内で結晶化した代物を竜魔石と呼ばれる。この竜魔石は通常の魔石とは比べ物にならない程に膨大な魔力を持ち合わせ、更には本来は適していない魔力さえも吸収する事ができる。


レーヴァティンに嵌め込まれた竜魔石の属性は「火属性」この竜魔石に火属性の魔力を送り込めば魔剣の力は解放されるが、実を言えば火属性以外の魔力を送り込んだとしても竜魔石の能力は発動する。この特性を生かしてリオンは風属性の適性持ちでありながら彼は魔剣に火属性の魔力を纏わせる事ができた。



(まさかこの魔剣の力を解放する事になるとは……ここまで成長していたか、マオ!!)



汗を流しながらもリオンは魔剣に炎を纏わせ、それを見たマオは彼が苦しそうな表情を浮かべている事に気付く。火属性の適性を持たないリオンうあレーヴァティンの能力を使用する場合、常に体力と魔力を消費する。だからこそ彼は自分の魔力が残っているうちにマオに攻撃を仕掛けた。



「これで終わりだ!!」

「くっ……氷板スノボ!!」



炎を纏った魔剣を手にした状態でリオンは突っ込むと、咄嗟にマオは氷板を発動して上空へ回避した。しかし、リオンは剣を振り払うだけで凄まじい炎を放ち、上空に逃げても炎の熱気だけでマオの氷板が溶け始めた。



「あちちっ!?」

「馬鹿、何してんだ!!もっと高く飛べ!!」

「攻撃が当たらない場所に避難すればいい!!」

「いや、それはどうかね……」



ミイナとバルトはマオに急いで上空に移動すればリオンの攻撃は届かず、安全な場所からマオは攻撃できると考えた。しかし、バルトはリオンが敵が距離を取って戦う事を想定していないとは思えず、彼女の予想通りにリオンは魔剣を構えると炎を消して先ほどのように風の斬撃を放つ。



「逃がすか!!」

「うわわっ!?」

「や、やべえっ!?」

「はわわっ……」



上空に逃げたとしても今度は風の斬撃が放たれ、マオは休む暇もなく氷板を操作して避けるしかなかった。威力は調整されているとはいえ、もしも風の斬撃が当たればマオも無事では済まず、しかも氷板の操作で精一杯で彼は魔法を放つ余裕もない。


接近戦の場合は炎の魔剣で斬りかかり、距離を取られたとしてもスラッシュを繰り出して攻撃を行う。魔法剣士の弱点である遠距離からの相手の攻撃に対してもリオンは完璧に対処できていた。



(まずい、このままだと落ちる……どうすればいい!?)



氷板を操作しながらマオは地上へ降りるべきか考え、仮に降りたとしたらリオンの炎の魔剣の餌食にされてしまう。リオンの繰り出す炎はマオの氷塊を一瞬で溶かす程の威力を誇り、とてもではないが防ぎきれない。



(下に降りたら炎の餌食、上に跳んでも風の斬撃で攻撃される……くそっ、どうすればいいんだ!?)



攻撃を躱しながらもマオはリオンの様子を伺い、このまま彼が魔力切れを引き起こしてくれれば勝ち目はあるが、先ほどから風の斬撃を繰り出しているのにリオンは涼しげな表情を浮かべていた。



「どうした!?ハエのように飛んでないで降りてきて戦えっ!!」

「くっ……」

「いっておくが俺の魔力はまだまだ残っているぞ!!このまま攻撃を続ければお前の方が限界だろう!!」



リオンの魔力量はバルトをも上回り、彼の言葉は決して虚言ハッタリではない事はマオも理解していた。それでも何の策も無しに挑む程馬鹿ではなく、彼は必死に頭を巡らせて打開策を考える。

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