第153話 師を信じて

吸魔腕輪の恐ろしさを体感したマオは本音を言えばこの訓練を続けられる自信はなかった。しかし、バルルが意味もなくこの吸魔腕輪を渡したとは思えず、彼はこれまでのバルルの教えを思い出す。


彼女は直接指導する事は決して多くはなかったが、いつも彼女の訓練を終えた時はマオは魔術師として確実に成長していた。そんな彼女が渡した吸魔腕輪を見てマオはきっと今回の訓練もやり遂げれば自分は強くなれると信じて続行を申し出る。



「大丈夫です!!まだやれます!!」

「マオ……」

「坊主……」

「……そうかい、なら続けな」



マオの返事を聞いてミイナとバルトは心配そうな表情を浮かべるが、バルルの方は安堵した表情を浮かべた。本人が訓練を続ける意思があるのならば止める事はできず、目を覚ましたマオは二又の杖を構えた。



(今度は魔力を奪われないように気をつけないと……)



吸魔石の時と同じようにマオは自分の魔力を奪われないように気をつけ、魔法を発動させようとする。今度こそ自分の魔力を体内に収め、腕輪に吸収されないように気をつけながら彼は魔法を発動させようとした。



「アイス――!?」



しかし、先ほどと同様に魔法を発動させようとした瞬間に腕輪が発動し、彼の魔力が急速的に腕輪に吸収されて意識が途絶えた――






――この日からマオは吸魔腕輪を使用した訓練を行い、何度も魔力を奪われては気絶しながらも他の者に介抱され、意識を取り戻すと再び魔法の練習を行う。


吸魔腕輪は吸魔石とは比べ物にならない吸引力を誇り、魔力を体内に抑えようとしても上手くいかない。杖に送り込もうとする魔力を腕輪が無理やりに吸収するため、魔法を吸収させる暇もなくマオは気絶する。


しかし、何度も訓練を繰り返す内にマオにも変化が訪れ始めた。最初の数日は魔力を吸収される度に長時間気絶していた彼だったが、だんだんと慣れてきたのか意識を失ってから目を覚ます時間が短くなっていく。


一番最初の時は他の者が騒いでいたので比較的に早く意識を取り戻していたが、それ以降は声をかけずに安静に休ませると数時間は目を覚ます事はなかった。だが、少しずつではあるが訓練を繰り返す内に目を覚ますまでの時間が短くなっていく。



「……ふがっ!?い、今何時!?」

「あ、起きた」

「もう昼飯の時間だよ……あんたが眠っていたのは30分ぐらいだね。大分早く起きれるようになったじゃないかい」

「そ、そうですか……」



10日を過ぎた辺りからマオは30分ほどで目を覚ますまでになり、起きる度に頭痛感に悩まされるがそれもしばらく休めば収まっていく。



「ほら、しっかりと飯を食いな。今日はもう訓練を辞めていいよ」

「いえ、もう少しでコツを掴めそうなので……まだやります」

「そうかい……きついときはこれを飲みな」

「あ、ありがとうございます。でも、いいんですか?」

「はっ、弟子の分際で師匠の心配なんて10年早いんだよ!!」



バルルはマオのために魔力回復薬を渡し、それを受け取ったマオは申し訳ない気持ちを抱く。魔力回復薬は決して安く購入できる代物ではなく、これを買うためにバルルに負担をかけているのではないかと心配するが、バルルは豪快に笑い飛ばす。


実際の所はバルルはボーナスだけではなく、学園長に頼んで給料の前借りを行って購入した代物である。ここから三か月はバルルは給料無しになるが、一応は彼女は宿屋の主人でもあるため生活の方は問題はない。しかし、今後どれくらいの魔力回復薬が必要になるのか分からないため、彼女は他の方法でお金を稼ぐ手段を考える。



(そろそろきつくなってきたね……先生に迷惑を掛けられないし、他に金を稼ぐ方法を探さないとね)



まだまだマオの訓練が長引く事を想定し、彼女は魔力回復薬を購入する方法を考え、そしてミイナに視線を向けた。



「ミイナ、しばらくの間はマオの面倒を頼むよ」

「別にいいけど……急にどうしたの?」

「あたしは野暮用があってしばらくは来れないよ。まあ、他の教師共に目を付けられないようにあんた達は教室で訓練を続けな。カマセに頼んで定期的にあいつに教室に来るようにしておくから、何かあったらカマセに相談しな」

「は、はい。分かりました」



バルルは魔力回復薬の代金を稼ぐために学園の外に出向かねばならず、幼馴染のカマセに頼んでマオとミイナの面倒をしばらくの間見てもらう事にした――






――その後、マオとミイナは教室に籠って自主練を行う。マオの場合は吸魔腕輪の訓練に集中し、その間にミイナは気絶した彼の面倒を見ながらも自分も訓練を行う。彼女の訓練は魔爪の新しい使い方を考案するために集中し、教室の中で座禅を行う。



(ミイナ、凄い集中力だな……僕も頑張らないと)



普段の彼女からは想像もできない程に真剣な表情でミイナは座禅を行い、彼女は頭の中で自分の新しい魔爪の使い方を考える事に集中していた。それを見たマオもミイナに後れを取らないように訓練に集中する。




※実際の所


ミイナ「(´ω`)ZZZ」

マオ「す、凄い集中力だ!!まるで眠っているようにしか見えない!!(←天然)」

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