第151話 魔力の回復速度
――翌日、マオはミイナと共に早朝の学校の屋上の訓練場に辿り着くと、そこには既にバルルとバルトの姿があった。どうしてバルトがここにいるのかとマオ達は驚くが、彼は無理やりに朝からバルルに引っ張り出されたらしく、眠たそうな表情を浮かべていた。
「ふああっ……何だよ、こんな朝早くからこんな場所に呼び出して」
「あんたの力が必要になるかもしれないからね。悪いけど協力して貰うよ」
「師匠、先輩もどうしてここに?」
「むう、まさか朝早くに私達が訓練してたのバレた?」
「そんなもん、当の昔に気付いていたよ」
マオとミイナは早朝に起きて共に訓練を行う事が多く、今日も一緒に訓練する予定だった。しかし、屋上に到着するとバルルとバルトの二人が待ち構えていた事に驚き、しかも二人は見た事もない道具を用意していた。
「マオ、これからあんたには新しい訓練をしてもらうよ」
「訓練ですか?」
「どんな訓練?」
「それは……こいつを使うのさ」
バルルが用意していたのは最初の頃にマオが魔法の訓練をするときに利用していた「吸魔石」と呼ばれる水晶玉とよく似ており、吸魔石は人間が触れると体内の魔力を吸収する仕組みの魔道具だった。
吸魔石を利用してマオは奪われる魔力を体内に収め、魔力を奪われないように魔法を発動させる練習を繰り返す事で短期間に魔力操作の技術を磨く事ができた。但し、今回彼女が用意した吸魔石は小型でしかも腕輪に嵌め込まれていた。
「なあ、バルル先生……言われた通りに持ち出してきましたけど、それは下級生が使うのは禁止されている魔道具ですよ。うちの担任に一応は許可を貰った方が……」
「いいんだよ、こっちは学園長のお墨付きさ。それにあんたもマオにはでかい借りがあるんだろう?」
「うっ……それを言われると困るな」
今回持ち出した魔道具はバルトが調達したらしく、彼は担当教師のタンに内緒で魔道具を持ち出していた。この事がタンにバレるとまた騒がれそうではあるが、今回ばかりは学園長も味方してくれるとバルルに約束してくれた(こっそり持ち出したのは単純な嫌がらせ)。
「師匠、それはいったい何ですか?」
「私も見た事ない」
「こいつは三年生から授業で扱う魔道具さ。名前は……なんだっけ?」
「
「まあ、ともかく付けてみな」
「え、あ、はい」
バルトが説明の途中にも関わらずにバルルはマオに吸魔腕輪なる魔道具を手渡し、言われた通りにマオは腕輪を装着する。それを見たバルトは慌ててマオを止めようとした。
「ちょっ!?待て、マオ!!そいつを付けたら1日は解く事ができないんだぞ!?」
「えっ!?」
「もう遅いよ。うん、ちゃんと嵌まったね」
注意される前にマオは腕輪を身に着けてしまい、その瞬間に腕輪の接合部の部分に紋様が浮き上がる。慌ててマオは引き剥がそうとしてもいくら力を込めて外れず、慌ててバルトやミイナが腕輪を外そうとしてもびくともしない。
「ぐぎぎっ……は、外れねえ!!」
「う〜ん……無理、びくともしない」
「し、師匠!!何なんですかこれは!?」
「そいつは本当は規則を犯した生徒の罰則用の腕輪さ。試しにその状態で魔法を使ってみな」
バルルはマオに腕輪を嵌めた状態で魔法を使用するように促すと、戸惑いながらもマオは杖を取り出す。しかし、それを見たバルトは慌てて彼を止めようとした。
「馬鹿、止めろ!!その状態で魔法なんか使ったら……うげっ!?」
「おっと、あんたは大人しく見てな」
言葉を言い終える前にバルルはバルトの口元を塞ぐ。マオはバルルの言われた通りに杖を構えると、いつも通りに魔法を使用した。
「アイス……!?」
「マオ!?」
「言わんこっちゃない!!早く杖を離せ!!」
「…………」
杖から魔法を発動させようとした瞬間、マオの右腕に取り付けられた腕輪に「渦巻」のような模様が生まれると、右腕を通して杖に送り込もうとした魔力が腕輪に強制的に吸収される。
これまでにマオが訓練で利用していた吸魔石とは比較にならない程の吸引力で魔力が奪われていき、体内の魔力を根こそぎ奪われる寸前で腕輪の模様が消えた。その直後にマオは糸が切れた人形のように倒れ込み、慌ててバルルを引き剥がしたバルトとミイナがマオの顔を覗き込む。
「マオ、しっかりして!!」
「坊主!!おい、大丈夫か!?」
「平気だよ、魔力切れを起こして眠っているだけさ」
「う〜ん……」
バルルの言う通りにマオは意識を失っているだけであり、それに気づいた二人は安堵した。しかし、バルトの方はマオに吸魔腕輪を嵌めた状態で魔法を使用させたバルルを睨みつけ、彼女に怒鳴りつけた。
「あんた!!何を考えてんだ!?この魔道具の恐ろしさを知っているだろう!!」
「ああ、よく知ってるよ……嫌という程にね」
「な、何だって!?」
妙な言い回しをするバルルにバルトは一瞬だけ焦ったが、彼女はその間にバルトの杖を掴んで彼を押し退ける。そして倒れているマオに視線を向け、彼が気絶しているのを確認するとミイナに膝枕するように促す。
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