閑話 もう一人の月の徽章を持つ生徒
――魔法学園の三年生の中で最強の魔術師は誰かと問われたら、学園に通う者ならば誰もが「バルト」の名前を上げる。彼は一年生の頃から成績優秀で教師からの評価も高く、他の生徒からも人気があった。
バルトは元々は貴族だったが、次男として生まれた彼には継承権はなく、優れた兄と比べて彼自身は特に秀でた能力は持ち合わせていなかった事から冷遇されていた。そんな彼の人生の転機は「適性の儀式」を受けた際、彼には魔術師としての才能がある事が証明された時だった。
魔術師としての才能があると知った途端に周りの人間は彼をもてはやし、今まで実の息子でありながら碌に顔を合せなかった父親すらも彼が魔術師と知ると態度を一変させる。それほどまでにこの国では魔術師という存在は特別である事を意味しており、父親は早速彼を魔法学園に入学させる。
「バルトよ、お前は我が家の誇りだ」
「弟よ、我が家のために頑張って勉強して立派な魔術師になるんだぞ」
「お坊ちゃま、どうかお体を大切に……」
今まで自分を冷遇していたくせに急に態度を改める家族や使用人にバルトは何とも言えない気分を味わい、彼等の態度の豹変に怒りよりも呆れを抱いた。しかし、自分が魔術師というだけでバルトは他の人間から羨まれる事に嬉しくも思う。
「魔法学園か……一流の魔術師を育て上げる学校か」
魔法学園に入学したばかりの頃のバルトは自分の魔法の腕を磨く事に集中し、彼は日夜勉学に励む。同世代の魔術師の誰よりも勉強し、腕を磨く事で彼は自分が誰よりも優れている事を証明するために励む。
これまでは優秀な兄が傍に居たせいでバルトは惨めな気持ちを抱いて生きてきた。しかし、その兄ですらも魔術師の才能はなく、また他の人間に見下される事に危機感を抱いたバルトは勉学に励んで同世代の魔術師の誰よりも優秀な成績を収める。
「バルト君、また試験で一番だったって!?」
「やっぱり凄いな、バルト君は……」
「一年生で三つも星の徽章を貰えるなんてすごい!!」
「バルト君ならいつかきっと月の徽章も貰えるよ!!」
努力し続けた結果、バルトは同世代の生徒の誰よりも優秀な成績を残して人気者となった。何時しか彼の周りには人が集まり、教師でさえも彼の優秀さを認めるようになった。
「先生!!僕は月の徽章が欲しいんです!!」
「落ち着け、バルトよ……そう焦るでない。儂が学園に勤めてから50年は経つが、一年生の内に月の徽章を与えられた生徒は一人もおらん。お主が優れた生徒なのは誰もが認めておる。そう焦る必要はない」
「そうですか……」
魔法学園に入学した時にバルトは月の徽章の存在を知り、星の徽章よりも価値が高く、優れた生徒にしか与えられない徽章と知ったバルトは月の徽章を欲するようになった。しかし、一年生や二年生の中で月の徽章を与えられた生徒はいないという話を知り、彼は諦めて三年生になるまで待つ事にする。
しかし、彼が三年生を迎えた時に悲劇が訪れた。それは入学式の際に新入生の中に「月の徽章」を最初から与えられていた生徒が存在し、さらに言えばその人物は自分と同じ属性の生徒だと判明した。
「一年生でしかも風属性の魔法の使い手だと……どうして、どうしてだ!!何故、俺じゃなくてあんなガキに月の徽章が与えられる!?」
年下で自分と同じ属性の使い手というだけでも我慢ならず、入学式の後にバルトは月の徽章を与えられた一年生を呼び出す。その生徒は上級生のバルトから呼び出されたにも関わらずに不遜な態度で対応する。
「ふん……僕がこの徽章を持つ事がそんなにも気に喰わないのか?」
「ふ、ふざけるな!!先輩に対して何だその口の利き方は?」
「ふっ……滑稽な奴だな、この徽章がそんなにも羨ましいのか?」
「っ……!!」
一年生とは思えぬ態度で月の徽章を与えられた生徒はバルトを挑発する様に徽章を手に取って見せつけると、そんな彼の態度に我慢ならずにバルトは杖を抜く。
「決闘だ!!お前と俺、どちらがより優れた魔術師なのか思い知らせてやる!!」
「哀れだな……だが、いいだろう。勝負ならば容赦はしないぞ」
こうして二人は決闘を繰り広げ、この時の二人の戦闘のせいで校舎の一部が欠損し、その罰としてバルトは一か月近くの謹慎を言い渡されたという――
※最初の更新が遅れたので閑話を急遽書きました。
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