第127話 魔石の訓練
――翌日からマオは朝早くに屋上の訓練場に訪れ、バルルの指導の下で魔石を扱った魔法の練習を行う。自分の魔力を操作するのと魔石の魔力を引きだして魔法の強化を行うのは感覚が異なり、最初の内は上手く扱えずに必要以上に魔石の魔力を消耗してしまう。
「馬鹿!!そんな使い方だとすぐに魔石の魔力が切れちまうよ!!本番前に魔石の魔力を使い切るつもりかい!?」
「す、すいません!!」
「マオ、落ち着いて……焦らなくていい、どうせ魔石が切れてもバルルが新しいのを買ってくるから」
「こら、あたしを破産させるつもりかい!?」
バルルがボーナスを前借りにして購入した魔石は4つ分しか存在せず、しかもマオの場合は魔法を発動するのに風属性と水属性の魔石を同時に必要とするため、実質的に彼が練習と本番で使用できる魔石はそれぞれ2つずつという事になる。
できる事ならば最初の訓練で使用する魔石を使い切らない内に魔石の扱い方を身に着け、本番の時は予備の魔石を利用して万全の状態で戦いたい。だが、魔石から魔力を引きだすのは想像以上に難しく、そもそも三日という期限内に魔石の操作を覚えるのが無理な話だった。
「バルル、やっぱり三日は短すぎる。私だって魔石を扱うのに五日ぐらいかかった」
「大丈夫だよ、こいつは両手で小杖を扱えるぐらいに器用だからね。三日でも長いくらいさ、今日のうちにコツだけでも掴むんだよ」
「そ、そんな事を言われても……」
「弱音を吐いている暇はないよ!!さあ、もう一度やりな!!」
普通の魔術師でも魔石を扱えるようになるには一週間以上は掛かり、それを半分以下の三日以内に扱い方を習得しろというのは無茶な話である。しかし、たった数日でマオは魔光を生み出さずに魔法を扱えるようになり、しかも彼はバルルですらも真似できない両手で小杖を使用して魔法を扱う事ができる程の技術を持つ。
最初の内は上手くいかずに必要以上に魔石から魔力を引きだしてしまったが、練習を繰り返す内にマオは感覚を掴み始める。例えるならば自分の魔力を操作する方法が右で文字を書く事に等しく、魔石から魔力を引きだす場合は左で文字を書くような感じだった。
(ちょっとコツが掴めてきたかも……)
右利きの人間だろうと練習を繰り返せば左でも文字を掛けるようになり、そもそもマオは元々は左利きだった。だからこそ魔石の扱い方も徐々に慣れていき、遂には一日目にしてマオは魔石の魔力を自由に引き出せるようになった。
「……はあっ!!」
「おおっ」
「よし、無詠唱で魔法を発動できるまでになったね……流石はあたしの弟子だ」
魔石を装着した状態でマオは無詠唱で魔法を発現させる事に成功すると、それを見たミイナは拍手を行い、バルルも満足げに頷く。夕方になるまで練習を繰り返したが、どうにかぎりぎり魔力が切れる前に扱い方を覚えた。
「はあっ、はあっ……や、やりました」
「頑張ったじゃないか……と、言いたい所だけど本番はこれからだよ!!明日からは魔石を使った本格的な魔法の練習を行う!!」
「何をするの?」
「基本に立ち返って今まで覚えた魔法を試すのさ。魔石で魔法を強化できるといっても、必ずしも今まで扱えた魔法が使えるかどうかは分からないからね」
「どういう意味?」
「まあ、明日になれば分かるさ……今日はもう休みな、明日までに疲れは取っておくんだよ」
バルルの発言にミイナは不思議に首を傾げ、魔石で魔法を強化されるのであればマオの魔法も当然強くなる思われるが、彼女は意味深な事を告げて今日の訓練を終わらせる――
――訓練が終わった後、マオは学生寮に戻ると身体を休ませた。何度か休憩を挟んだ流石に半日近くも魔法の練習を行うのは厳しく、今日はもう魔力も殆ど残っていなかった。
「はあっ……師匠から貰ったこれ、使うしかないかな」
別れ際にマオはバルルから受け取った
「これは師匠に返そう……どうせ眠れば魔力も回復するし、休んでおこう」
魔力回復薬をマオは机の引き出しに入れておくと、彼はベッドに横たわろうとした。しかし、ここで部屋の扉が激しく叩かれて聞き覚えのある声が響く。
『おい、ここにいるんだろ!!さっさと出て来い!!』
「え、この声は……!?」
『出てこないとこの扉をぶっ飛ばすぞ!!』
聞こえてきた声は昨日にマオに絡んできた「バルト」という男子生徒の声で間違いなく、バルルと因縁のあるタンの教え子でもある。バルトは月の徽章を持つマオを目の仇にしており、学生寮の彼の部屋を見つけ出したらしい。
慌ててマオは扉に近付こうとするが、バルルからは二日後まで彼との接触を避けるように言われた事を思い出す。バルルは魔石の訓練を遂行するまでマオにはバルトと会わないように注意し、仕方なく居留守する事にした。
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