第101話 師匠として

「――この馬鹿共!!賞金首を探すなんて無茶な真似をなんでしたんだい!!」

「あいたぁっ!?」

「にゃうっ!?」



その日の夕方、マオはミイナと共に駐屯所にて兵士に事情聴取を受けていた所、保護者としてバルルが呼び出された。彼女は二人の顔を見て早々に頭を叩き付けるが、慌ててマオと同い年ぐらいの弟がいる若い兵士がバルルを止めた。



「ま、まあまあ落ち着いて下さい!!お母さん、怒る気持ちも分かりますが……」

「誰がお母さんだい!!」

「はぐぅっ!?」

「ちょ、師匠!!兵士さんの兜が凹みましたよ!?」



止めに入った兵士にもバルルは勢いで小突いてしまい、それを見たマオは慌てて引き留める。バルルは興奮した様子でマオとミイナを見下ろし、やがて溜息を吐きながら兵士が座っていた席に自分が座る。



「たくっ……それで、何があったんだい?」

「えっと……」

「いいからさっさと話しな」



有無を言わさぬ迫力を放ちながらバルルはマオとミイナから事情を問い質すと、二人は誤魔化せる雰囲気ではないと悟り、今日までの経緯を話す。


両親の仕送りのためにマオはお金を稼ぐ必要があった事、それで先輩であるミイナに協力して貰い、彼女の力を借りて賞金首を探し出した事を話す。話を聞く事にバルルは眉をしかめ、全ての話を聞き終えると彼女は深々と溜息を吐き出す。



「親の仕送りのために金が必要なのは分かったよ。だけどね、もうちょっと手段を選びな。危険な犯罪者を捕まえて大金を稼ごうなんて考えが甘すぎだよ」

「ううっ……」

「でも、成功した」

「そんなのは偶々だろうが。あんた達、自分が死にかけた事を理解しているのかい?いくら魔法の力があるからってあんた等は非力な子供ガキである事に変わりはないんだよ」

「「…………」」



バルルの言葉にマオとミイナは反論はできず、確かに今回は上手く賞金首を捕まえる事はできたが、正直に言って危ない場面はいくつもあった。


盗賊達がマオを殺そうとせずに捕まえようとしたのは頭であるガイルの命令があったからであり、仮にガイルが最初から殺す様に指示をしていた場合、二人とも助かったかは分からない。魔法が使える子供が高く売れるという事でガイルは最後まで生かして捕まえようとしたが、もしも相手が本気で殺しに来ていれば結果は変わっていたかもしれない。



「今回は運が良かったけど、もう二度とこんな真似をするんじゃないよ。いいかい、あんた等は確かに普通の子供じゃない。だけどね、自分は特別な存在だと思い込むんじゃないよ。自分は普通の子供じゃないから何だってできる、そういう慢心が命取りになるんだ」

「肝に銘じておきます……」

「反省した……」

「たくっ……まあ、親の仕送りのために金を稼ごうとする気持ちは立派だよ。だけどね、あんたの身に何かあったら悲しむのは親御さんだよ。それも理解しておきな」

「はい……」



バルルの正論にマオは言い返す事もできず、確かに賞金首を捕まえるなど普通に考えればまともな手段ではない。それでもマオが実行したのは心の何処かで自分の魔法の力を過信していたかもしれない。



(今回は上手くいったけど、師匠の言う通りに運が良かっただけだ……)



結果的にはマオは賞金首であるガイルを捕まえる事に成功したが、それはあくまでもガイルがマオを生け捕りにするために動いていた事、戦闘の最中に偶然思いついた魔法が通じただけに過ぎない。仮にマオが新しい魔法の使い方を考え付かなければ今頃は捕まって奴隷商人に売り飛ばされていただろう。



「それにしても賞金首を捕まえようなんて大それたことを考えたね……そんなにあんたの所は金に困ってるのかい?」

「はい、父さんも母さんも何も言わなかったけど、きっと村中の人にお金を借りて僕を王都まで送ったと思うんです。だからすぐに仕送りしたいと思って……」

「たくっ、そういう事情ならもっと早くあたしに相談すれば良かったんだよ。そうしたらわざわざこんな危険な真似をしなくても済んだのに……」

「すいません……」

「マオを責めないで……賞金首を捕まえる事に反対しなかった私のせい」



ミイナは自分がそもそもマオに相談された時に反対しなかった事が原因だと告げ、両親のためにお金を稼ごうとしたマオを庇う。バルルとしても自分達のために金儲けをしようとしていたのならもっと怒るつもりだったが、事情を聞いた彼女は頭を悩ませる。



(まさかこいつがこんなに金に困ってるなんてね……もっと事情を聞いておくべきだった)



バルルは今更ながらにマオの境遇を良く知らない事に気付き、今回の一件は彼の悩みに気付いてやれなかった自分にも責任があると思う。だからこそこれ以上に責めるつもりはなく、説教を辞めて二人を帰す様に兵士に頼んだ――

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