第71話 油断禁物

「キュイッ?」

「キュイイッ?」

「うっ……つぶらな瞳でこっちを見てくるんですけど」

「油断するじゃないよ、こいつらは確かに見かけは可愛らしいけど……獲物を前にしたら本性を現すからね」

「えっ?」



数匹の一角兎がマオ達に気付き、不思議そうな表情を浮かべてマオ達の元へ近づく。近寄る程に可愛らしい外見をした一角兎にマオは魔法を使うのを躊躇うが、突如として近付いてきた一角兎の一匹が目つきを鋭くさせてマオの顔面に目掛けて飛び掛かる。



「ギュイイッ!!」

「えっ……」

「馬鹿っ!!避けなっ!!」



マオは自分に目掛けて飛び込んできた一角兎に呆気を取られ、咄嗟にバルルが彼の肩を掴んで引き寄せる。すると一角兎はマオの顔の横を通り過ぎ、この時にマオは頬に角が掠ってしまう。


頬から血を流しながらマオは何が起きたのか理解するのに時間が掛かり、やがて彼は一角兎に危うく頭を貫かれかけた事を知ると、顔色を青くして一角兎に振り返る。もしもバルルが彼の肩を掴んでいなければ今頃はマオは頭を一角兎の鋭い角で貫かれていた。



「なっ……何が!?」

「油断するなと言っただろ!!こいつらは魔物なんだよ、縄張りを侵した人間を前にしたら本気で襲うに決まってるだろうが!!」

「ギュイイッ……!!」



攻撃を躱したマオに対して襲い掛かった一角兎は目つきを鋭くさせ、再び角を構えて彼に狙いを定めようとしていた。それを見たマオは慌てて小杖を取り出し、魔法を発動させる準備を整える。



「ギュイイッ!!」

「うわぁっ!?」

「落ち着きな!!あんたの魔法なら対処できる!!」



鳴き声を上げて再度襲い掛かろうとする一角兎にマオは焦ってしまうが、バルルに言われて彼は冷静さを取り戻して小杖を構えた。そして一角兎が突っ込んできた瞬間、無詠唱で魔法を発動させて氷の盾を作り出す。



「このっ!!」

「ギュイイッ!?」



マオの前方に円盤型の氷塊が誕生すると、一角兎はに阻まれてしまい、額の角が氷の盾に衝突した。マオの作り出す氷塊はかなりの硬度を誇り、一角兎の角の先端部が突き刺さって動けなくなった。



「ギュイイイッ!?」

「キュイッ!?」

「キュイイッ!!」

「ほら、どんどん襲い掛かってくるよ!!ちゃんと自分の身は自分で守りな!!」

「そ、そんな事を言われても!?」



氷の盾に角が突き刺さった一角兎は他の仲間に助けを求めるように鳴き声を上げると、すぐに他の一角兎が動き出してマオの元へ接近する。バルルはここで彼の元から一旦離れ、自分の力だけで対処するように告げる。



「まずは落ち着きな!!精神を乱すと碌な魔法も使えなくなる!!どんな時でも冷静でいられるのが一流の魔術師だよ!!」

「そ、そんな事を言われても……」

「できなければこのまま殺されるよ!!忘れるんじゃない、こいつらは魔物だ!!人を殺す力を持っているんだ!!」



バルルの言葉にマオは改めて一角兎の群れに視線を向け、彼女の言う通りに一角兎はマオを殺せるだけの戦闘力を誇る。いくら可愛らしい外見をしていようと、自分に本気で襲い掛かる一角兎に対してマオは恐怖を抱く。


マオは自分に迫りくる一角兎の群れに対してまずは自分を守るために小杖を取り出し、次々と氷塊を作り出して氷の盾を形成する。そして突っ込んでくる一角兎の攻撃を氷の盾で対処した。



「ギュイイッ!!」

「ギュアッ!!」

「ギュイッ!!」

「くっ!?」

「防御だけに専念してたら勝てないよ!!自分からも攻撃するんだ!!」



次々と飛び掛かってくる一角兎に対してマオは複数の氷の盾を操作して防ぐが、バルルの言う通りに防御に徹しているだけでは状況を打破できない。



(そうだ、戦うしかないんだ……躊躇なんてするな!!)



相手がなまじ可愛らしい外見をしているだけにマオは手を出す事に躊躇していたが、本気で殺しに来る相手に情けなどかける余裕はなく、彼は自分を守っていた氷の円盤の一つを変形させて「氷刃ブレイド」を作り出す。


丸鋸のような形状へと変化した氷刃を小杖の先に移動させると、ここでマオは意識を集中させて氷刃を高速回転させる。前の時よりも回転力が増し、更に攻撃速度も増した。今のマオならば岩石をも切断できる自信があった。



「喰らえっ!!」

「ギュイッ!?」



最初に飛び掛かってきた一角兎は未だに氷の盾に角が突き刺さったまま動けず、真っ先にマオは動けない一角兎に目がけて氷刃を放つ。高速回転した状態の氷刃は一角兎の首元に接近し、一瞬で頭部と胴体を切り裂いた。



「ギュアッ……!?」

「うっ……!?」

「よし、その調子だよ!!攻撃を続けな!!」



首元を斬り裂かれた一角兎の死骸が地面に転がり込み、その様子を見てマオは目を背けそうになるが、バルルの声を聞いて歯を食いしばる。まだ戦闘は終わっておらず、未だには残っている。



「うおおおおっ!!」

「ギュアッ!?」

「ギュイイッ!?」

「ギャウッ!?」



氷刃を操作してマオは次々と一角兎を切り裂き、10秒も経過しない内に彼に襲い掛かった一角兎の死骸が草原に横たわる。一角兎の群れを一人で仕留めたマオは最後の1匹を倒すと、魔法を解除して汗を流しながら地面に膝をつく。

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