第66話 冒険者ギルドの制度
懐かしい友人と出会ったバルルは冒険者ギルド内に存在する酒場にて彼等と共の席に座り、ここでマオとミイナに冒険者ギルドに関して色々と説明を行う。
冒険者ギルドに所属する冒険者には階級が設けられ、冒険者達は自分の階級に見合う仕事しか引き受けられない。階級は「銅」「鉄」「銀」「白銀」「黄金」の5つに別れ、バルルの知り合いの3人は銀級の冒険者という事になる。
「まさかあんたらが銀級に昇格するなんてね……あたしが居た頃は鉄級だったのに頑張ったじゃないかい」
「へえ、そうだったんですか」
「ふふふっ……俺達も地道に頑張ってきたからな」
「と言っても銀級に上がったのは最近なんだけどな……」
「別にいいじゃねえか、俺達の目標は爺になるまで黄金級に上がる事だろ?この調子ならいけるさ!!」
「たくっ、相変わらずだねあんたら……」
3人の冒険者は老人になろうと冒険者活動を辞めるつもりはなく、彼等の目的は冒険者の中の最高階級である「黄金級」になる事だった。そんな彼等を見てバルルは昔から変わっていない事に安心する。
「師匠も冒険者だったという事は……階級は何だったんですか?」
「気になる」
「あたしの場合は当然、こいつらよりも上の白銀級さ」
「何だ、バルルの弟子達は知らないのか?こいつは一時期は黄金級冒険者になれるかもしれないと噂されたほどの逸材なんだぞ」
「へえっ……そうだったんですか?」
「……昔の話さ」
現役時代のバルルは冒険者の階級では二番目に高い「白銀級」まで昇格したらしいが、本人はあまり昔の事を思い出したくないのかすぐに話を切り上げてしまう。
「そんな事よりも他の奴等はどうしてるんだい?あんたら以外にあたしらの世代で冒険者を続けている奴はまだいるのかい?」
「いや、皆辞めちまったよ」
「お前が辞めた後、他の奴等も殆どが辞めちまった」
「残っているのは年甲斐もなく夢に縋りつく俺達3人だけさ」
「……そうかい」
バルルは3人の言葉を聞いて寂しそうな表情を浮かべ、本人も彼等の返事が分かっていた様子だった。そんな彼女達の話を聞いていてマオは前にバルルに言われた事を思い出す。
――冒険者は世間が思う程に華がある職業ではなく、実際の所は実力主義の社会で冒険者として生きていくには相応の実力を必要とする。実力に見合わない人間はすぐに仕事を辞めるか、あるいはすぐに死んでしまう。
冒険者は魔物専門の退治屋という面もあり、危険な魔物を相手に戦う事を前提とした職業である。だからこそ命が危険に晒される事も珍しくはない。
魔物を倒せる程の力を持ち合わせていなければ冒険者として生きていく事はできず、仮に実力者でも年齢を重ねる事で肉体が衰えて身体が付いていけず、引退を余儀なくされる者も多い。
バルルの同世代の冒険者達は年齢的に肉体が衰え、若い頃のように力を発揮できなくなったので辞めた者が大半らしく、その中でも3人の冒険者達は頑張っていた。だからこそバルルは久しぶりに出会った3人が冒険者を続けていた事に嬉しく思う。
「あんたらは冒険者を辞める気はないのかい?」
「へへへ、こうなったら行ける所まで行くつもりだ」
「今日もこれから仕事があるんだ。夜までには戻ってくるつもりだけどな」
「バルル、お前も元気そうで良かったよ。それじゃあ、俺達は行くぜ」
3人の冒険者は食事を終えると仕事に戻るために席を離れ、その様子を見てバルルは感慨深そうな表情を浮かべながら彼等を見送る。
「……あいつらが銀級なんて時代は変わったね」
「師匠?」
「何でもないよ。ほら、さっさとあんたらも飯を食べな」
「もう食べ終わってる」
マオとミイナはバルルの奢りで少し早めの昼食を取った後、酒場を後にしてここへ来た本来の目的を果たすために受付へ向かう。受付には若い受付嬢が座っており、彼女はバルルの事を知らないのか受付の前にたった彼女に話しかける。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルドマスターはいるかい?」
「えっ?ギルドマスター……ですか?」
受付嬢はバルルの言葉に一瞬焦った表情を浮かべ、そんな彼女にバルルは懐から白銀製のバッジを取り出して机の上に置く。
「バルルが会いに来たと言えば伝わるはずだよ」
「えっ……こ、これは白銀級冒険者のバッジ!?」
「もう期限は切れてるけどね」
バルルが取り出したのは現役時代の彼女が利用していた冒険者の証であるバッジであり、冒険者は仕事中は必ず自分のバッジを見えるところに着用する義務がある。
ちなみに冒険者が身に着けるバッジは自分の階級に見合わせた素材で構成され、元白銀級冒険者のバルルの場合は当然ながら白銀で構成されたバッジを持っている。ちなみおにバッジは一年事に取り換えられる決まりになっており、バッジの裏側には期限も刻まれている。そのため、冒険者を引退した後のバルルのバッジは期限を過ぎているのでこれを利用して冒険者の仕事を行う事はできない。
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