第38話 二つの小杖

「そうだ、念のために新しい小杖も使えるかどうか試しておかないと……」



学生寮に入る時にマオは新しい小杖を支給され、早速魔法を使えるかどうか試す。リオンに貰った小杖はあるが、念のために新しい小杖の具合も確認しておく。


小杖には魔法学園の紋様が刻まれており、魔法学園の支給品である事が証明されている。生徒達はこの小杖を使って授業を受ける決まりになっているが、もしも壊れた場合は自腹で新しい小杖を用意しなければならない。ちなみに支給品の小杖を売る事はできず、もしも発覚すれば即刻に退学される。



「うん、触った時の感覚は同じだな」



新しく支給された小杖に触れるとマオは今まで使っていた小杖と同様の感覚を味わい、まるで小杖が身体の一部になったような気分に陥る。杖の類を扱えるのは魔術師だけであり、もしも普通の人間が触れれば魔力を吸収されて気分を害してしまう。



「アイス」



新しい小杖でマオは魔法を発動させると、今まで使っていた小杖と同じく氷の欠片が誕生した。それを確認したマオは特に問題なく魔法を扱える事を知って安堵するが、ここで疑問を抱く。



「これ、二つの小杖を手にした状態で魔法を使ったらどうなるんだろう……?」



試しにマオは右手にリオンから受け取った小杖を掴み、左手に新しい小杖を掴む。この状態で魔法を発動させたらどうなるのかを彼は試す。



「アイス……!?」



両手で小杖を掴んだ状態でマオは魔法を発動させた瞬間、急に身体の力が抜けてしまう。体内に流れる魔力が両手の小杖に流れ込み、その結果は二つの杖先から青色の光が迸る。


両手の杖の先端から氷の欠片が誕生するが、その代わりにマオは普段以上に魔力を消耗してしまい、頭痛を覚えた。どうやら二つの小杖を利用して魔法を使用すると体内の魔力が分散して杖に送り込まれるため、一つの杖で魔法を使用する時も負担が大きい。



(き、きつい……これは慣れていないと止めた方が良いな)



一度魔法を使っただけでマオは頭痛を覚え、思っていた以上に魔力を消費してしまう。杖を二つ利用して魔法を使うのは控えた方がいいらしく、仕方なくマオは小杖を下ろす。



(ふうっ……二つの杖があれば攻撃手段も増えそうなのにな)



二つの小杖で魔法を発動させれるようになれば連続して攻撃が行える。しかし、同時に魔法を発動させるのは身体の負担が大きく、かなりの魔力を消耗する。魔力量が少ないマオでは2、3回使用しただけで魔力が尽きてしまう。



(せっかく手に入れたけど、こいつは保管しておいた方がいいかな……待てよ?)



新しい杖は壊さないように保管しようかとマオは考えたが、この時に彼はある方法を思いつく。先ほどは魔法をに発動しようとしたせいで魔力を余分に消耗したが、同時にではなくに魔法を発動させたらどうなるのか気になった。


試しにマオは右手の小杖で魔法を発動させ、魔法が完成した直後に左手の小杖で魔法を発動させる。その場合は同時に魔法を発動したわけではなく、上手く魔法も発動できるのではないかと試す。



(今までも魔法を同時に発動させた事もあるんだ。それならきっと……)



小杖が一本だけの時でもマオは五つの氷の欠片を作り出した事がある。先ほど彼が魔力を消耗したのは二つの小杖の扱いに慣れていないだからであり、順番にマオは魔法を発動させた。



「アイス」



まずは右手の小杖で魔法を発動させ、氷の欠片を作り出す。そして今度は左手の小杖に視線を向け、もう一度魔法を唱えた。



「アイス!!」



気合を込めてマオは魔法を唱えると、左手の小杖からも氷の欠片が誕生した。それを見たマオは口元に笑みを浮かべ、先ほどと違って頭痛に襲われる事はなかった。


両手の小杖の先端に出現した氷の欠片を確認し、同時に魔法を発動させなければ特に問題なく扱える事を確かめる。最初に失敗したのは二つの小杖で同時に魔法を発動させようとしたのが原因であり、時間をおいて魔法を発動させれば特に問題はない。



「やった、この方法なら大丈夫なのか……いや、ちょっと待てよ。これって何か意味あるのかな?」



両手の小杖で魔法を発動させた事に成功したが、冷静に考えるとマオは両手の小杖で魔法を発動させる必要があるのか疑問を抱く。マオは氷の下級魔法しか扱えず、氷の欠片を増やすだけならば別に小杖一本でも問題はない。むしろ、わざわざ二つの小杖を利用する必要はないように思えた。



「……他の魔法を覚えない限りは意味なさそうだな」



現状では二つの小杖を利用する意味を見出せず、マオはため息を吐いて部屋の中にある机に小杖をしまう。この小杖は必要な時以外には保管する様に決めると、改めてマオは荷物の整理を行う――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る