第25話 意外な人物からの助言

――通り魔事件の翌朝、マオは宿屋の裏庭にて魔法の練習を行う。結局は昨日も兵士の事情聴取を受けたせいで魔法学園で入学手続きはできず、今日を逃したら明日からマオは宿無しとなる。


宿に泊まれるのは今日が最後であるため、何としてもマオは今日中に入学手続きを終えて寮に入らなければならない。だが、焦っても仕方がないのでマオは魔法の練習を行う。



「ふうっ……」



意識を集中させたマオは小杖を握りしめ、試しに心の中で魔法の詠唱を行う。昨日は言葉を口にせず魔法を発動できないのかを試したが、結局は失敗に終わった。だが、声に出さずとも心の中で魔法を詠唱を行う事で魔法の発現を試みる。



(アイス!!)



心の中でマオは魔法の詠唱を行うと、杖の先端が僅かにだが青く光り輝く。それを見たマオは成功したのかと思ったが、すぐに光は消えてしまう。



「ああっ……駄目か」

「あんた、こんな所で何してるんだい?」

「うわっ!?」



急に背後から声を掛けられたマオは驚いて振り返ると、そこには寝間着姿のバルルが立っていた。魔法を発動させる事に集中しし過ぎてマオは彼女の接近に気付かなかったらしい。


勝手に宿の裏庭で魔法の練習を行っている事にバルルの気分を害してしまったかとマオは心配するが、彼女はマオの持っている小杖に視線を向けて面白そうに呟く。



「そういえばあんたは魔術師だったね。ここで魔法の練習をしていたわけかい?なるほど、この間に捨てようとした桶を買ったのはこういう事かい」

「え?あ、はい……す、すいません」

「何を謝ってんだい。別にこれぐらいの事で怒りはしないよ」



バルルは裏庭の樹に吊るされているマオが自作した古びた桶とロープを利用して作った的を確認し、面白そうな表情を浮かべながら的を持ち上げる。



「この的に魔法を当てる練習をしていたのかい?だけど、的が壊れていない所をみるとあんたの扱う魔法は水属性か風属性かい?」

「え?どうして分かるんですか?」

「火属性や雷属性の呪文だったらこんな桶なんて簡単に壊れちまうだろう?となると攻撃能力が低い風属性か水属性に限られるわけさ」



マオが自作した的が壊れていない事を確認しただけでバルルは彼の魔法の属性を推察し、彼女の予想は当たっていた。但し、風属性の魔法が攻撃には向いていないという事にマオは疑問を抱く。



「風属性は攻撃能力が低いんですか?」

「まあ、火属性や雷属性と比べたらの話さ。術者によっては鋼鉄を切断するを使える人間もいるけどね」

「鋼鉄……」



鋼鉄という単語にマオが真っ先に思いついたのはオークだった。少し前にマオは旅の途中で知り合った傭兵が鋼鉄製の剣でオークに挑み、あっさりと剣がオークに折られた事を思い出す。


オークの肉体は鋼鉄以上の耐久力を誇り、並の武器では到底敵わない。しかし、森の中でマオを救ったリオンは鋼鉄をも上回る威力の風魔法を発揮して倒した。そう考えると彼は魔術師としてマオよりもずっと高みにいる。



(やっぱりリオンは凄かったんだな。攻撃に向いていない風魔法でオークを倒せるなんて……)



自分と比べてリオンが凄い魔術師だと改めて思い知らされ、マオは羨ましく思う反面に嫉妬する。そんな彼が持っている小杖にバルルは視線を向け、彼女は右手を差し出す。



「どれ、ちょっと貸してみな」

「え?あ、はい……」



掌を差し出されてマオは反射的に小杖を差し出してしまい、彼女はそれを受け取ると小杖を覗き込む。小杖を調べ終えるとバルルは眉をしかめた。



「こいつは……安物だね、しかもかなり年季が入っている。どこの骨董品屋で買ったんだい?」

「えっ……そうなんですか?」

「こいつは一世代前の魔術師が扱う杖だよ。必要以上に魔力を吸い上げるし、それに魔石も付いてないじゃないか。こんな物でよく魔法を使っていたね」

「魔石?」

「あんた、まさか魔石を知らないのかい?」



マオは魔石という単語に疑問を抱き、そんな彼を見てバルルは呆気に取られた。マオは彼女の口ぶりから魔石が付いていない杖を使うのは普通ではない事を知る。



(そういえばリオンの持っていた小杖は緑色の水晶玉みたいなのが付いていたけど……まさか、あれが魔石なのかな?)



リオンが所持していた小杖には緑色の水晶玉が取り付けられていた事をマオは思い出し、大きさはビー玉程だった。魔石の事が気になったマオはバルルに魔石の事を尋ねる。



「魔石というのはどういう物なんですか?」

「あんたね、本当に何も知らないのかい?はあっ……いいかい、魔石というのは簡単に言えば魔術師の魔法を補助する特別な鉱石だよ。魔法の力を強化させたり、自分が消耗する魔力を代わりに補う事もできる。だから魔術師は魔法を使う時は杖に魔石を取りつけるのが当たり前なのさ」

「えっ……でも、魔石がなくても魔法は使えますよね?」

「そりゃ使えるさ。だけどね、魔法ってのは身体の負担が大きいんだ。だから魔石を利用して身体の負担を軽減させる。場合によっては自分の魔力だけじゃ発動できない魔法だって魔石の力を借りれば発動する事もできる場合もある」



魔石の存在を改めて知ったマオは驚き、そんな便利な物があるのならばもっと早く知っていればと思った。話を聞く限りでは魔力量が少ないマオにとっては正に打って付けの道具だった。

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