第20話 魔法の研究

――翌日の早朝、朝食の時間の前にマオは裏庭に移動すると魔法の練習を再開する。昨日の時点では氷の欠片をある程度は操作できるようになったが、今回は呪文を口にせずに魔法を発動できるのかを試す。



(絵本だと一流の魔術師はでも魔法を発動できたけど……)




マオが知る絵本の中の魔術師の多くは詠唱も無しに魔法を発動させる描写があった。森では絵本の内容を鵜呑みにして痛い目にあったりもしたが(魔法を扱えない状態で上級魔法の呪文を何度も叫んだ時)、それでも絵本に描かれている魔術師は現実の魔術師を参考に描かれている。


魔術師の事はマオも良く知らないが、もしも絵本の魔術師のように「無詠唱」で魔法を発動する事ができればかなり役立ちそうだった。呪文を唱えると相手が魔法に詳しい人物の場合、攻撃前にどのような魔法を使うのか見抜かれる恐れもあった。それを考慮してマオは無詠唱で魔法を発動できないのかを試す。



(上手くいくかな……)



口を閉じた状態でマオは頭の中で魔法を発動する事を念じる。しかし、小杖は一向に反応せず、しばらくの間はマオは必死に小杖を眺め続けるが、特に変化はない。



(駄目か……)



小杖が反応しないのを見てマオは無詠唱で魔法を発動する事はできないのかと思い、残念に思いながらも次の実験を行う。今度は魔法を連発して放てるのかどうかを試す。


昨日の様にロープを括り付けた桶を樹の枝に吊るし、その状態から彼は距離を置いて小杖を構えた。そして的に狙いを定めて魔法を放つ。



「アイス」



呪文を唱えた瞬間に小杖から青色に光が灯り、氷の欠片が誕生して的の中央に的中した。昨日の練習で魔法の命中率は格段に上がっており、相手が動きさえしなければマオは確実に狙った箇所を撃ち抜く自信はあった。



「よし、これなら……アイス、アイス、アイス!!」



同じ呪文を繰り返してマオは魔法を連発すると、桶に次々と氷の欠片が発射されて突き刺さっていく。昨日の時点では桶に氷の欠片が当たった瞬間に砕け散ってしまったが、練習のお陰なのか氷の欠片の移動速度が上昇し、欠片の先端が突き刺さる。


マオが生み出す氷の欠片は小さいが、それでも勢いを付ければ刃物のように突き刺す事ができる。これを利用すれば急所に適確に撃ち込めば相手に損傷を与える事も可能だった。



「うん、連発しても問題ないな。ちょっときついけど……」



桶に5つほど氷の欠片が突き刺さったのを確認すると、マオは額の汗を拭って練習を中断する。魔法の連発はそれなりに魔力を消費してしまうが、それでも魔法を使う事にマオが慣れてきたせいか昨日の練習よりはきつくはなかった。



「ここまでにしておこうかな……ん?」



朝食の時間を迎えようとしているのでマオは宿屋の食堂に向かおうとした時、彼は桶に突き刺さったままの氷の欠片を見てある事に気付く。5つの氷の欠片が桶に突き刺さったままである事を確認したマオは、最後にある事を試す。



「もしかしたら……」



朝食の前にマオは最後の練習を行い、この時に彼は自分の魔法の新しい使い道を知った――






――朝食を終えた後、しばらく時間を潰すとマオは魔法学園に向けて出発する。今日こそは魔法学園で入学手続きを行わなければならず、女主人バルルに外に出る事を伝えると彼女は難色を示す。



「あんたね、昨日襲われたばかりだろ?それなのにまた一人で出かけるきかい?」

「いや……どうしてもやらないといけない事があるんで」

「そうかい、それなら勝手にしな。でも、気を付けるんだよ。例の通り魔はまだ捕まってないからね」



女主人の言葉にマオは昨日自分を襲ってきた通り魔の顔を思い出し、未だに思い出すだけで身体が震えてしまう。通り魔は逃げる際にマオに「殺す」と宣告し、未だに捕まってはいない。


通り魔に命を狙われている状態で外に出るのは危険だが、広い王都で通り魔とまた遭遇する可能性は低く、それに今日こそ魔法学園で入学手続きを行わなければならない。宿屋に泊まれるのは明日までであり、それまでに入学手続きをして寮に入らなければマオは路頭に迷う。



「じゃあ、行ってきます」

「ちょっと待ちな……仕方ないね、それならこれを持って行きな」

「え、これは……」

「随分前にうちに泊まった客が部屋に置き忘れた物さ。多分、もう取りに戻ってくる事はないだろうから貸してやるよ」

「あ、ありがとうございます!!」



女主人は外に出向こうとするマオに短剣を差し出し、それを受け取ったマオは驚きながらも有難く受け取る。彼には小杖はあるが、やはり身を守る道具を身に着けて置いた方が安心する。


刃物を携帯して歩く事はマオも初めてなので緊張するが、とりあえずは目立たないように懐に短剣をしまってマオは外に出向く。昨日の時点で女主人から受け取った地図を頼りにマオは魔法学園へ向けて出発した。




――しかし、宿屋から出てきた彼を建物の陰から確認する人影があった。その人影は街道を行き渡る人々に混じり、マオに気付かれないように後を追う。

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