第17話 決死の覚悟

「な、何だ、今のは……?」

「そんなっ……」

「ひ、ひひっ……こんなので、お、俺を殺せると、お、思ったのか?」



マオの魔法は確かに当たったが、男性の右腕を少し傷つけた程度だった。せいぜい掠り傷程度の損傷しか与えられず、昨日の魔法と比べても威力は格段に落ちていた。



(全然効いてない……こんなのってないよ)



自分の魔法を受けても掠り傷程度しか負っていない男性を見てマオは顔色を青ざめ、その一方で男性の方はマオが魔法を使った事は驚いたが、自分を殺せる程の魔法を使えないと知ると途端に余裕の表情を浮かべる。


男性は足元の子供を放ってマオの元に近付き、それを見たマオは咄嗟に小杖を構える。それでも構わずに男性はマオの元へ歩み、慌ててマオは魔法を再度発動した。



「ち、近づくな!!アイス!!」

「ふんっ!!」



マオは魔法を再び発動させると、杖の先端から氷の欠片が再び発射される。しかし、それに対して男性は今度は腕を振り払って破片を防ぐ。



「そんな!?」

「ガキがっ!!」

「がはぁっ!?」



魔法を片腕であっさりと防がれたマオは逃げる暇もなく、男性の蹴りを受けて倒れ込む。この時にマオは小杖を手放してしまい、それを見た男性はマオの胸元を踏みつけて逃げられないようにした。



「お、お前……男か?女なら、生かして捕まえてやる……」

「うぐぅっ……!?」

「いや、お、お前は男だな!!女がそんな、汚い声をだすはずが、な、ないからな!!」



マオの整った顔立ちを見て男性は彼が最初は女の子かと思ったが、声音からマオを男だと見抜くと手にしていた短剣を握りしめる。そして彼の顔面に突き刺そうと振りかざす。


このままでは殺されると思ったマオは必死に腕を伸ばし、落ちている小杖に手を伸ばす。自分の魔法を二度も防がれてしまったが、それでも彼に頼れる武器は小杖しかない。



(嫌だ、死にたくない……死んでたまるか!!)



昨夜にファングの群れを襲われた時を思い出し、あの時のマオはリオンに守られていた。しかし、今の彼を守る者は存在せず、自分の身は自分で守られなければ生き延びられない。



(死にたくない、死んでたまるか……死ねない!!)



覚悟を決めたマオは小杖を掴み取ると、自分を襲うが短剣を振り下ろす前に小杖を突き出す。短剣を突き刺すために通り魔がマオに身体を近づける瞬間を逃さず、マオは通り魔の顔面に目掛けて小杖を繰り出す。



「アイス!!」

「うぎゃあああっ!?」



小杖を至近距離で構えられた通り魔は悲鳴を上げ、小杖から放たれた青色の光によって通り魔の視界は一瞬だけ封じられる。直後に氷の破片も放たれ、通り魔の左眼に突き刺さった。


最初の閃光で通り魔は瞼を閉じていた事で眼球に直接に氷の破片が突き刺さる事はなかったが、それでも通り魔は悲鳴を上げて倒れ込む。マオ自身も無我夢中の行動だったので通り魔に自分が何をしたのか分からなかったが、通り魔が倒れている隙に慌てて助けを求める。



「誰か!!誰か来てください!!通り魔に襲われています!!」

「何だって!?」

「と、通り魔!?」

「この奥か!?」



街道を歩いていた大人達がマオの声を聞き付け、彼等は路地裏で倒れている男とマオの姿を見て驚く。街道の人間に自分の存在を知られた事に気付いた通り魔は左目を抑えながら立ち上がり、血走った右目で最後にマオを睨みつける。



「お、お前……絶対、こ、殺してやる!!」

「うっ……!?」

「おい、男が逃げるぞ!!」

「捕まえろ、逃がすな!!」

「君、大丈夫か!?」



通り魔は逃げ出すと街道からすぐに兵士が駆けつけ、どうやら街を巡回していた兵士がたまたま近くに居たらしい。兵士達はマオを保護すると、逃げ出した通り魔の後を追う――






――その後、マオは屯所に連れていかれて事情聴取を行う。兵士達はマオに襲われた時の出来事を詳しく聞き、彼が解放されたのは夕方だった。残念ながら通り魔の方は取り逃がしてしまったが、通り魔に襲われていた子供は奇跡的に命は助かった。



「君に助けられた子供の両親がお礼を言っていたよ、本当に危ない所だった。買い物の途中で犯人に攫われて襲われていたらしい」

「そうだったんですか……」

「今回は犯人を取り逃がしてしまったが、君のお陰で犯人の特徴を掴む事ができた。感謝するよ……だが、これからは一人で外を出歩かない方がいい。念のために宿屋まで我々が送るよ」

「あ、ありがとうございます」



兵士は親身にマオの話を聞いてくれ、わざわざ宿屋までマオを送ってくれた。犯人がまだ捕まっていない事もあって子供一人を帰らせるわけにもいかず、マオは宿屋まで送ってもらうと女主人バルルが出迎えてくれた。



「よう、話は聞いてるよ。例の通り魔に襲われたんだって?よく無事だったね」

「え、ええまあ……」

「流石はだね。王都の警備兵も手こずる通り魔を返り討ちにするなんてやるじゃないかい」

「……ただの偶然ですよ」



バルルの言葉を聞いてもマオは表情は晴れず、結局のところは事件は解決したとは言えない。通り魔は未だに捕まっておらず、マオが生き残れたのも運が良かっただけとしか言いようがない。

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