第11話 騎馬隊
(――何だ、これ……力が抜けていく……!?)
杖を天に構えた状態でマオは小杖から放たれる青色の光を見て目を見開き、やがて杖の先端に氷の塊のような物が出現する。氷の塊は徐々に大きくなり、最終的には数十センチほどの大きさになると上空へ目掛けて浮上した。
その光景を見ていたファングの群れは上空に打ち上げられた氷塊を見て驚愕し、膝をついていたマオも空を見上げて冷や汗を流す。やがて氷塊は空中に浮かんだ状態で停止すると、表面に罅が入って最終的には木っ端みじんに砕けてしまう。
砕けた時に氷塊の内部から冷気が放出され、最終的には粉々に砕け散って地面に散らばる。ダイヤモンダストのように美しい光景だが、折角成功させた魔法が打ち砕かれる光景を見てマオは膝をつく。
(何が起きたんだ……うっ!?)
魔法を発動した直後にマオは全身の力が抜けて膝を突き、頭痛に襲われて顔を歪ませる。先ほどまでは身体の中に熱い何かが駆け巡るような感覚を覚えていたが、今は逆に身体が冷たくなっていく感覚を覚えた。
(いったいどうなって――)
マオは自分の身体の異変に戸惑い、何が起きているのか理解する前に意識を失う。座り込んだまま気絶したマオを見て少年は冷や汗を流し、やがて二人を取り囲む風の障壁が消え去った。
「……ここまでだな」
『ガアアアッ!!』
二人を守っていた風の障壁が消えた瞬間にファングの群れが殺到し、膝をついて動けない状態のマオと少年に一斉に飛び掛かる。しかし、何処からか無数の矢が放たれてファングの群れは二人を襲う前に矢に打たれる。
「ギャインッ!?」
「ガアアッ!?」
「ギャンッ!?」
「……やっと来たか」
矢で次々と撃ち抜かれるファングの群れを見て少年は笑みを浮かべ、何処からか無数の馬の足音が鳴り響く。少年が首を向けると、そこには草原を疾走する騎馬隊の姿があった。
「リオン様!!ご無事ですか!?」
「遅いぞ、ジイ!!」
「おおっ!!ご無事でしたか!!お前達、あの獣共を蹴散らせ!!」
『うおおおおっ!!』
騎馬隊の先頭を走っていたのは初老の男性であり、銀色の鎧兜を纏っていた。彼の後ろには20人程度の鎧兜を身に着けた男達が続き、初老の男性の命令を受けて彼等はマオとリオンに襲い掛かろうとしたファングの群れに矢を放つ。
ファングの群れは騎馬隊が撃ち込む矢の餌食となり、逃げようとした個体も騎馬に乗り込んだ兵士が追跡して止めを刺す。
「1匹も逃がすな!!確実に仕留めろ!!」
「はっ!!」
「うおりゃあっ!!」
「おらぁっ!!」
「ギャアアッ!?」
瞬く間に騎馬隊はファングの群れを一掃し、その様子を見届けたリオンは疲れた表情を浮かべながらも座り込む。そんな彼の元に初老の男性が馬から降りて駆けつけ、大粒の涙を流しながらリオンに縋りつく。
「リオン様、ご無事でしたか!!心配しておりましたぞ!!」
「……離れろ、気色悪い」
「いいえ、今度こそ離しませんぞ!!いったい今まで何処に居られたのですか!?」
リオンの無事を確認すると、彼からジイと呼ばれた男性は改めて立ち上がってリオンの両肩を掴む。先ほどまでは大泣きしていたが、今度は憤怒の表情を浮かべて勝手に自分達から離れたリオンを叱りつける。
「リオン様!!どうして我等と離れて勝手に行動していたのですか!?我等はずっと森の中を探していたのですぞ!!」
「それは……その、お前達とはぐれるつもりはなかったんだ。それは嘘じゃない、信じてくれ」
「という事は……また迷子になられていたのですか!?だからあれほど一緒に行くと言ったのに!!」
「う、うるさい!!迷子になんかなっていない!!」
実を言えばリオンはとある事情でジイが率いる兵士達と共に森の中を探索していた。しかし、彼は途中で尿意に襲われて他の者から離れた。
用を足した後にリオンはジイの元へ戻ろうとはしたが、自分が何処を通ったのかを忘れてしまった彼は1人で森の中を歩き回る羽目になる。そして途中でマオを発見し、魔物に襲われている彼を救い出して現在の状況に至る。
「僕はお前達と合流しようとした時、そこで気絶している奴を見つけて助けてやったんだ」
「おお、ではリオン様は我々の知らぬところで人助けをしておられたのですか!?ご立派ですな!!」
「そ、そうだろう?それより、早くそいつの様子を見てくれ……」
「ふむ、どれどれ……む?この物が持っている杖はリオン様の物では?」
「ああ、どうやらそいつは魔術師のようだ。一応、な」
ジイはリオンの言う通りにマオの様子を調べ、彼が座ったまま気絶している事を確認する。この時にジイはリオンが貸した杖を回収しようとすると、杖に触れた途端にジイは眩暈を覚えた。
「ぬあっ!?」
「馬鹿、直に杖に触る奴がいるか!!お前は魔術師じゃないだろう!!」
「そ、そうでしたな……」
魔術師ではない人間が杖に触れる事はできず、慌ててジイは布を取り出してマオから小杖を回収する。すると小杖が離れた途端に糸が切れた人形のように倒れ込み、それを咄嗟にリオンが支える。
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