推しが死んでショック死したけど、目を覚ましたら推しが生きてる世界に転生したんだが?~せっかくなので、このまま推しの死亡フラグをへし折ります~
八雲太一
1話 アンラッキーモータリティ
「うっはあああああああ!!」
推しを肴に呑む発泡酒が今日もうまい。
ちらり、と部屋の窓にかかった社員証に目をやる。
冴えない顔に、覇気のない目。ごくありふれた苗字の社員証。
パッとしない毎日を送る私にはお似合いの品だよね。
だけど、この日は違う!
今日は〝アンラッキーモータリティ〟通称あんきもを見れるんだから!
最初はレンタルビデオ屋さんでなんとなく見かけて、これまたなんとなく借りてきたアニメ。
最近の作品なのか。
それとも、そこそこ前の作品なのか。
それすらもわからないけど、見れば見るほどハマっちゃって、いつしか続きを見るのが日課になっちゃってた。
自分でものめり込み具合にビックリしてるけど、オタ活ってこういうものだよね?
「ハッ……!」
ほどよい長さに伸び、逆立った黒髪。
線が細いながらも、しっかりと筋肉のついた体で軽々と剣を振るうお姿……。
どこをとっても、欠点という欠点が見つからん。
そして、なによりも──
「ああ~~~~やっぱり抜群にお顔がいいのよ……」
テレビ画面に映し出された私の推し──ノーブル=バイアスこと〝ノルくん〟は今日も平常運航である。
この作品に関しては制作陣の力の入れようがハンパじゃない。
私の推察では、間違いなく
この方々に金一封送りたいんだけど、送付先の口座はいつ教えてもらえるんだろう。
さてさて。
ノルくん、今日はどんな活躍をしてくれるんだろう?
そんな期待をしながら、テレビに張りついてたんだけど──
「うっそでしょ!?」
ノルくんが、仲間にボコボコにされてるんだけど……?
しかもなんの脈絡もなく、裏切る素振りすら見せてなかったのに、いきなりだよ……?
抵抗する間もなく、段々力尽きていくノルくんの姿が画面にデカデカと映し出される。
こんな話、私聞いてないんだけど!?
ああ……ノルくん……。推し……。
ふと、頭にモヤがかかる。
視界も霞んで、ノルくんの顔がいいことしかわからない。
「あっ」
気がついたときには、意識が遠のいていた。
◇ ◇ ◇
「──と、まあこんな感じだ。コヤケさんはどう思う?」
「へ」
急な問いかけに、変な声が漏れる。
めっちゃお顔立ちが綺麗な男の人が目の前にいるんだが?
しかもこの光景、間違いなく私の最推しのノルくんの部屋じゃん!
シンプルな造りの机に椅子、その他家具に至るまで完璧に再現されてる……すごぉ。
嗅いだことがないからわからないけど、ノルくんってこんなにおいするんだろうなあって爽やかなにおいが部屋の中でほのかに香ってる。
ていうか、綺麗なお顔っていうかノルくんそのものじゃない!?
なんで私ノルくんと喋ってるの?
なんでノルくんの部屋にいるの?
私、もしかして夢でも見てる……?
さっきまで自分の部屋であんきもを見て、倒れたところまでは覚えてるんだけど……。
変なところで頭でも打ったかな……。
「へ……って、次のダンジョン攻略の方針について、コヤケさんの意見が聞きたかったんだけど」
あー、ダンジョンね。うん、よく行くよねダンジョン。
私も人生というダンジョンに迷い込んでるわー。
………………。
…………。
……。
寒いボケかましてる場合じゃなかった。
いや待って、この状況なに?
「もしかして聞いてなかったのか? 仕方ないなあ。もう一度説明するから、次はよく聞いておけよ?」
私を見てくすり、と端正な顔立ちに極上のスマイルを浮かべて、ノルくんが言葉を紡ぎ始めた。
「俺が前に出て魔物を引きつけるから、その間にコヤケさんは──」
ごめん、ノルくん。
この状況に頭が追いついてなさすぎて、あなたの話が頭に入ってこないのよ。
ダンジョンのほかに聞きたいことは山ほどあるし、状況の整理もしたい。
正直、わからないことが山積みでなにがなんだか……。
その中でも、はっきりしてるものがある。
せっかくだから、声を大にして言わせてもらうね。
──嗚呼、今日も推しが尊い……。
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