デストロイヤーズ
元音ヴェル
ガール・ミーツ・ボーイ?
第1話 ドラゴン退治
ある山道を一人の冒険者が進んでいた。
背中にリュックサックと弓を背負い、手には杖代わりの槍と剣鉈を持ち、腰に水筒やポーチをぶら下げている。
麦わら帽子から覗く鉢金と黄色い髪、全身を革冑で守り、関節部は個別にサポーターを付け、登山靴は鉄板で覆う。剣鉈で藪を伐り払い、槍で支えたり、地面を石突きで突いたり、爪先や踵で踏み固め、慎重に前へと進んで行く。
冒険者は、革冑もあって分かりにくいが女性だ。
「ふぅ……。まさか、行商用のルートが使えないとは」
村や町へ、行商人が開拓したルートがあったのだが、土石流で寸断されていたのだ。
仕方なく、冒険者は遠回りではあるが、山越えで目的地の村を目指した。
「……ん?」
もう少しで村が見える、そんな時に冒険者は近くの木々から違和感を感じ取る。
警戒しつつ近づくと、魔物、ではなく、行き倒れがいた。
急所のみを守る革冑に厚手の服、腰にはポーチと刀のみ。
踏み込んで脈や顔色を確認すると、まだ生きており、黒髪の男性のようだ。
「……うぅ」
「大丈夫ですか! しっかりして!」
周囲を見るも特に荷物は無い。テントも焚き火の跡も見当たらない。
魔物や罠を警戒したが、何もなく、その間に男は呻きつつも目を開ける。
「み、水を……腹減った」
「ミミズですね。あ、水か。どうぞ」
「かたじけない……」
若干テンパっていた女性だったが、男が水を飲み始めると、次はリュックサックから携帯食を取り出す。
「……っ! これ、安くて不味いアレか!?」
「ゴブリンの口へ投げ付けると、黙ります」
「不味いから気絶してるんだよ!」
男は行き倒れていたのが嘘の様に、女性へツッコミを入れる。当然、蒸せつつも携帯食は食べきった。
しばらくして落ち着きを取り戻すと、互いに自己紹介する。
「俺はライト、刀を持っているが剣士だ。坂道を転げ落ちてな、リュックサックとかの荷物がどこかにいってしまい、行き倒れになっていた」
「私はアート。槍と弓を使います。この近くにある村に向かっていました。ドラゴンが出たらしいので」
ライトは成る程と頷く。
「ならば手伝おう。借りもある事だし」
アートは思案する。ライトの実力が分からない以上、下手に力を借りると足手纏いにしかならない為だ。
刀以外の武器が無いなら、接近戦と荷物持ちくらいしか出来ない。
「……気持ちは有難いですが、囮は要りません」
「ドラゴンなら水竜を倒した事もある。一人でな」
「地竜、もしくは火竜は?」
「まだ無い。ゴーレムやサラマンダーならあるが……」
アートはライトの証言を、仮に信じたとして、どの程度の実力かを推測する。自称での竜殺し経験による戦力詐欺は良くあるものだから。
が、ゴーレムは硬い、サラマンダーは熱気で近寄れない。と、剣士には不利な相手だが、倒したと言うのであれば、自分と同等か近い戦力はある。少なくとも刀の性能のお陰だろう。強い武器を持ち、使いこなせる技量なら、近接戦闘は自己申告の通りにはなる。
行き倒れていたのは不運な事故で、自己管理や危機管理能力が足らなかったで済む。
しかし、実戦での戦力に、生活能力や防災意識はいらない。魔物に喰われたら、晩御飯の事を気にしても自分が餌になっている事実しか残らない。
「分かりました。接近戦になったら頼みます。……しかし、もう少しで村だったんですけどね」
藪を出て、少し歩きつつ自分が通るルートへと、ライトを手招きする。
「む、あの木の近くか」
あと五十メートルも近づいていたなら、村の監視用櫓が見えていただろう。地理に疎く、辺境の村というのにも関わらず、ライトは荷物を失なっても近づいていた様だ。
「ま、村長に挨拶したりして、体調と準備を整えましょうか」
「出張ギルドがあるといいが……」
秘境や田舎へと向かう冒険者を、最低限でもサポートする為に、冒険者ギルドでは金融と商品を取り扱える水晶玉や簡易露店がある。
どんなに離れていても、魔物が近くにいても、お金や物品を魔術で出し入れ出来る水晶玉が、設置位置を固定された状態でその地点を占領している。ドラゴンの息吹や火球が当たっても壊れないので、たまに壁として使う冒険者も居るし、回復薬とかを買って即座に使って戦う冒険者も居る。
故に水晶玉がなかったら、無一文なライトは切実にヤバい。
助けてもらったアート相手に、更に金の無心をするのは、自尊心が許せない。
一先ず、村の門番に話して、アート達は村へと入り、村長と事務的な会話をする。
その後、幸いにも水晶玉があったので、ライトは現金と荷物を取り出す。
「さっきは助かったよ。ありがとう。これ、ささやかだけど」
「いえ、これは受け取れませんよ。相互互助は冒険者の心得ですし」
「それは分かっている。が、貸し借りの精算や御礼参りは早めにって言うだろ?」
「だからって、金貨が入った巾着でビンタは痛いんですけど!?」
「そこは御礼参りと掛けてあってだな」
「つまらないのでヤル気が下がりました」
金貨の束を無造作に投げられ、アートは避け損なって頬に巾着の跡が付く。精神かつ物理的に痛く、ヤル気が殺気に変わりかける程度には、アートは憤慨しかけるも、ふと、先程の錢投げに反応出来なかった事に気付く。
ひょっとしたら、自分よりライトは強いのかも知れない。警戒してはいたので、普通ならあの程度は避けれる、筈だったのに当たった。つまり、警戒の隙を突かれたのだ。それはまともに戦えば
ライトはアートの頬を、と言うか、女性の顔に巾着が当たった事に少し狼狽えていた。恩人の顔に泥を塗る、恩を仇で返す、そうなったのだ。
「……すまない。かくなる上は腹を切ろう」
「待って下さい、別に頬はたいして痛くも無いし、その冗談も分かってはいました。あぁ、女性一人では心細いんですよね。誰かさんは依頼を手伝おうとか言ってましたけど、ドラゴン退治は一人寂しくやりますかね」
腹切りを止めるべく、アートはテンパりつつ、それ風に言いながら、ライトの刀を抜かせない様に、鞘を追従させて押さえ込む。
「くっ! 腕力と柄では負けるから、鞘狙いだとは。やるな!!」
「こんな場所で流血沙汰や刃傷沙汰は止めて下さい!」
ド正論を言われてライトは正気に戻った。
「今から、傭兵として雇います。口約束ではなく、正式雇用です。お金を払う以上、勝手に腹切りとかしないで、きちんと手伝って貰います」
貰った、いや、押し付けられた巾着を、ライトの頬へと振り抜く。
ライトは打撃と衝撃を軽減するべく、振り抜かれた方向へと転がる。
虚を突かれた仕返しだ。
ライトは頬をさすりつつ、巾着を水晶玉へ入れる。
「分かった、アートに従おう。地竜の対策は? 取り巻きの対処は?」
取り巻きとなる魔物は、地竜が蹴散らしたのでいない。監視をしていた村の狩人の証言だ。
地竜一体の討伐、或いは撃退が村からの依頼である。
地竜の生態は岩場を好み、体表に泥や石、鉱物の欠片を纏う。その為、飛行は得意ではなく、坂道からの滑空や転がっての体当たりが攻撃手段となる。
体表に泥が付いていると剣は勿論、ハンマーすら接触時に滑るので、有効打にはならない。石や土も落とさないと武器の消耗が早まる。
「まず、攻撃して怒らせます。次に、戦闘する場所を一ヶ所に留まらせます」
自分達が特定の場所で、最小限の動きをしてカウンターを狙う。
「地形は崖崩れが起きた川辺。土砂を掘り返し、付近の木々や藪を凪ぎ払い、縄張りにしている様です」
ターゲットである地竜の容姿は、一般的な翼竜タイプで、後ろ足で立ち、翼と尻尾を持っているらしい。
それを聞いたライトは、しばし考え込む。
「……ワイバーンの変異種か、古竜クラスもあり得るな」
竜は長く生きる内に上位種へ至る。また、魔力を大量に取り込むと変異し、上位や中位へと突然に進化してしまう。
地竜が鉱石を食べるのは、魔力を溜め込んだ石が主食だからだ。それは変異したり進化したりしても、地属性の竜に成ったら変わらない。元が肉食でも、鉱石を食べる為なら魔力が漂っている場所を掘る。
「古竜となると、ギルドの支給品に追加要請をしましょう」
「討伐経験は? 俺は知り合いの討伐依頼に参加して、雷竜と炎竜の囮しかやった事がない」
「ドラゴン下位の水竜、古竜の雷竜と炎竜は囮。いや、囮って知り合いの人に怨まれてたんですか? あ、私は風竜を友人と討伐しました」
ライトは首を横に振る。
「友人と前衛を務め、友人の知り合いである魔法使いが、どちらの古竜も魔法でワンパン」
アートは魔法を少し使えるが、魔法使いと呼ばれる程、深くは学んでいない。が、それでも古竜を魔法だけで倒すのは、かなり難しい事を知っている。
「どんな魔法使いですか……。青い髪のエルフ?」
「あぁ、アイツは、知り合いはエルフだったな。金属製の杖を振り回してた」
アートやライトも所属する冒険者界隈では、かなりの有名人だ。
魔力量にモノを言わせた魔法でゴリ押しもするし、精密な術式を囮にして、無詠唱で属性の違う魔法を撃ち込んだりと、変則的に戦う。
「あの人が居れば、そりゃ古竜クラスは何とかなるか」
無論、普通は古竜に対して、冒険者は勿論、軍隊も動員して漸く撃退が可能となる。
二、三人で討伐なんて、古竜に一狩りされる側でしかない。
「後衛無しで古竜の討伐。……長期戦も視野に入れて、準備しましょうか」
「アートは弓と槍があるだろう?」
「本職ではないので、牽制程度にしかなりませんよ。属性矢は高いし、手持ちの数も少ないです。鉄を射抜く矢はコスパが悪い上、自作すると手間も掛かります」
鉄を射抜く矢は、無反動ハンマーの内部構造を応用した矢で、盾や冑に当たっても弾かれにくく、運動エネルギーの限り対象を貫く。
「私は主に、槍で戦います。まぁ、あまりにも硬い場合は、穂先を鎧抜き用に換装する時間稼ぎが要りますけど」
アートが使う槍は、鉄を射抜く矢と同等の穂先に交換が出来る。また、専用部品を持って行けば、薙刀や矛、戟、鎌、鶴嘴や斧、ハンマーにも変えられる。
とは言え、武器別にきちんと扱えるとは言い難く、大雑把に振り回して遠心力で叩き切る様な、かなり適当な戦い方となってしまう。
「……いや、まぁ、リーチが長い得物は、そういうモノではあるが……。柄だけで戦う棒術は?」
「一応は出来ます。折れたら棍棒として使いますよ」
臨機応変に振り回す。そんな雑な武器の使い方で、古竜を倒せるかとライトは怪しむも、友人が素手で古竜を殴っていたり、知り合いは魔力を纏わせた蹴りで吹き飛ばしたりしていたので、まぁ、そんなものかと思い直す。
尚、ライトが刀で古竜に立ち向かうのを見て、知り合いの魔法使いは、腕利きの剣士って火球斬れるんだ怖い。とか内心で瞠目していたりする。
「……一通りの道具やら、ギルドの支給品はありましたね」
ギルドが設置した水晶玉からアートは、対ドラゴン用の道具を手元へ転送させ、支給品である魔法の袋へしまう。
時空間魔法やら収納機能が大容量となっているが、あくまでも支給品なので、クエストの報告後には、使わなかった道具と一緒に返却する。
「
「その上、古竜関係のクエストもこなしてます。ちょっと働き過ぎだと思いますけど」
「でも、これらは片手間だったり、寝てても半自動で作れるらしいぞ?」
「……あの人はエルフどころか、魔法使いすら止めてそうですね」
アートとライトはお互いの顔を見て苦笑いしてしまう。
諸々の準備を整え、村から少し離れた森へと、アート達はやって来た。遠くからだと分かりやすい山肌も、近づくと山間の急な起伏もあれば、盆地付近はなだらかな勾配にもなる。
何年か前に、森と山の中間で地滑りが起き、渓流の流れが変わったらしい。更に、雨や急な流れでも無いのに濁りが続いている事もしばしば。この為、中流の川魚はほとんどが死んだのか、下流でしか釣れない。
「地滑りで崖を作り、川を利用して余分な土砂を退かす。……ドラゴンにしては中途半端な知性です」
「苦手な水すら使うとなると、変異種からの古竜化か。泥沼も向こうのフィールドになるぞ」
泥濘に足を取られ、柄や刀身に付着すると武器が抜けるし、切れにくくもなる。この上で、岩や砂利を纏うし、水の膜すらも纏うと思われる。
「アート、干潟で戦った経験は?」
「川原や川の浅い場所でなら」
推定、変異種からの古竜は、風下に立つ二人には気付いていない。
川へかき出した土砂を流しつつ、小さな魔石や魔力混じりの粘土層を食べているようだ。
報告通りの容姿だが、魔力を食べ続いているせいか、古竜の出す気配が強い。
オーラとも言われる圧力に
「俺が惹き付けるから、重い一撃を頼む」
「いいですけど、ちょっと燃費が悪いので、乱発は期待しないで下さいよ?」
「分かった。ただ、最悪は巻き込んでも構わないからな」
ライトがそう言って、古竜へと回り込んで近づいていく。
アートは弓矢を構え、気取られぬように速射し、古竜の尻尾付近を連続で射抜く。狙撃に近い連射ではなく、可能な限りの速射なのは、攻撃する気配を読み取られないようにしている為だ。
理想は弓矢を構えた瞬間に速射し、初撃の一矢が当たる事。それが急所なら文句無しである。
飛来した矢は鉄を射抜く特別製だが、古竜の纏う天然装甲たる泥により、表面を滑るに留まる。
古竜が矢が飛んで来た方向を振り返る頃には、ライトが抜刀して斬りかかり、アートは弓を背負いつつ槍を持って移動する。
ライトとは別方向となる様に回り込んで近づいていくのだが、流石に古竜の首の旋回速度が早い。
アートに向けて威嚇の咆哮を上げようとするも、足を切りつけられ、痛みにより中途半端に口を開けたまま、ライトをようやく視認した。
その口腔へとアートの投げ槍が迫るも、痛みからか僅かに顔の角度を動かしていたので、歯茎へと刺さり、仕込みの無反動機構が作用して、上顎の奥歯に相当する牙を貫く。
ここで弓矢による追撃ではなく、新しい槍を構え直した所が、アートの技量面での未熟さを露呈する。弓矢でなら古竜の顔面へハラスメント攻撃が出来るし、眼球に矢が刺さる恐怖だって煽れる。
とは言え、先の弓矢による攻撃が芳しくなかった事を踏まえると、槍を頼ったのも仕方がない。
だが、ライトを目で追う以上、古竜は口の痛みを耐えつつ、翼爪や翼その物で迎撃していく。
翼爪を掻い潜り、尻尾を更に避けながら、ライトはカウンターの要領で刀を滑らせ、翼と尻尾を斬る。鱗と泥水で阻まれて浅いが、幾つもの刀傷を負うも、ドラゴン特有の再生能力で塞がる。
古竜の縦横無尽な回転攻撃とライトの斬撃にアートによる槍の刺突。
手数で攻めるも、上顎の槍を丸まって転がった際、足の爪で器用に抜き、再生と回復を優先するべく古竜が飛ぶ予備動作を始める。
アートはさせじと、近距離で槍を投げては、弓矢で速射と連射し、両方の翼の翼膜を貫く。
ライトは同士打ちになる矢を刀の峰で反らして、翼の根元や脚の根元にある筋肉と、その関節付近を斬り、筋断裂や腱の切断を狙う。
果敢に攻めた結果、古竜の片翼と両脚を封じる事に成功した。魔力が強いのか、切断するのに一太刀とはいかなかったが、ライトの刀はその切れ味と技量のみで、古竜の鱗と身体強化魔法を突き超えたのだ。
痛みからか、かなりの負傷や苦戦に戸惑っているのか、古竜の口が驚愕染みた様に開く。当然、アートは矢を射掛けるも、尻尾とまだ動く片翼で庇われる。
動く片翼や尻尾が射抜られるも、魔力を放出してオーラの如く纏うと、土砂と泥水が蠢き、古竜の体表を覆う。
傷の再生に追加装甲の展開を邪魔するべく、ライトは剣速を上げ、アートも射掛けるが、地面その物を斬ったり、射抜く所業であった。
「くっ!やはり魔法がいるな」
「そろそろ
古竜の真下にある川面と川原が弾け、太い岩柱が勢い良く飛び出ると、古竜とアート達の間には、高低差を伴う距離が開く。
そしてオーラが弱まり、古竜の口から石混じりの火球が、ライト目掛けて発射された。
ライトは柱の出現による振動で体勢が崩れてはいたものの、柱を基点とした円運動で避ける。
「良く分かったな」
「魔力の流れで分かりますから。息吹の前兆は風竜も似た感じでしたし」
ライトは感心しつつ、刀に闘気を纏わせると、岩の柱を斬り崩す。
落ちてくる古竜の顔へと、アートは槍を投げ、風魔法を足元に発現させて、指向性を持たせた爆風による加速をしながら、新しい槍で突く構えを保持する。
古竜が翼で槍を叩き落とす。その瞬間は翼を振るうべく首や胴体が動き、視界の制限と翼そのものが死角を生み出し、爆風による音で槍を持つ
突如眼前に現れたアートへ、古竜が噛みつくべく口を開くも、閉じる前に下顎を貫かれた。反射的に仰け反り、口を閉ざすと槍の柄が上顎で押し出されていく。
しかし、古竜が川原へ着地するつかの間には、傷も癒えている。
「惜しい。いや、場所が悪いから、上顎でも仕留め切れない?」
「とは言え、魔力も体力も限界はあります。討伐出来るんですから、古竜は不死身ではありません」
今のところライト達は、古竜に有利なフィールドで、モンスター特有の人間より強い基礎ステータスを相手に、急所や関節を狙ってきた。
体力、魔力、スタミナ、精神的苦痛と削れるモノは削り、持久戦でも耐久戦でもいいように立ち回っている。
確かに古竜は消耗している。同じように、アートは矢を、ライトは刀の切れ味を消費している。
が、流石に用意した準備にも限度があり、いずれは破綻する事だろう。
古竜は消耗しているが、アートの目には、魔力が付近の龍脈の末端から補給されているのが視えた。
詰まる所、古竜は魔力切れが無い上、肉体的にも種族特性で再生するので、一撃で倒せないと不死身に近い状態だった。
出血を持続させた失血死、酸欠や
呼吸困難による窒息死、カロリー消費からの餓死、苦痛による人格崩壊で精神的な死。これらを狙うのが、人間がモンスターに勝てる確実な方法であり、その執念深さが怖い所だ。
しかし、今回の相手は古竜。龍に次ぐ脅威を持つ存在である。
即死以外は癒え、古竜という人間が勝てるギリギリのモンスターで、撃退という逃走を許せば学習して、物理攻撃が通用しなくなり、上級の魔法攻撃すら耐える様になる。
貫通した傷が徐々に癒え、古竜が、もう脅威ではないとばかりに嗤った、様にライトには見えた。
「魔法と種族の差で勝ったつもりか。なら、刀の真髄を思い知らせてやる」
確かに刀は、ドラゴン等の対魔物より、対人がやり易い。伊達に人切り包丁とは言われないモノだ。
鉄も獣も斬れるが、刀は使い手次第で妖刀にもナマクラにもなる。
古流剣術に対魔物用流派は無いに等しいが、対武器戦や対騎馬戦に準じ、ドラゴンを仮想敵として想像するなら、三つ首の馬が近いだろう。
長い首に巨体、鱗は戦車の装甲並み、翼を胴体から首が出ているモノと思えば、鉄塊の三つ首で巨大な馬だ。蹴りも噛みつきも喰らえば人間は死ぬ。
そんなキメラ染みた化け物な仮想敵に置き換えて、モンスター相手に各流派を使い分けて刀を振るい、シミュレーションやシャドウボクシングの様に素振りし、有りとあらゆる状況を想定していく。
古流剣術は刀で様々な武器と戦う為、流派ごとに理念が違うし、体捌きや間合いが違うので、基本的には一つか、良いとこ取りして三つくらいを覚え、隙を減らし苦手な間合いを変えていくものだ。
武器が違えば間合いも違う、その為刀以外の武器を実際に使い、刀が折れた時は刀以外の武器を使ってでも勝つ。それが拳でも槍でも、勝たなければ生き残れず死ぬだけ。
まぁ、対人用の心構えはモンスターには通用しないので、古流の受け流しや関節を切って無力化し、確殺を狙うのだが。
ライトが構えを変えて、古竜の虚を読む。アートは警戒しつつ、落ちている矢や槍を拾う。
古竜の纏う魔力が高まり、川面や土砂一面が鈍く輝く。
「っ!? ライトさん!」
「広範囲系か」
「古竜じゃない、新手です!」
古竜はライトが魔法を使うと警戒しているが、アートの目には地面から流れる龍脈とは別の魔力が視えていた。
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