大切な当たり前!

吹加リュウ

始まり

 私は中学二年生までは普通の女子だった。

だけど三年生になってから、何故かいきなり友達に避けられ一人も友達がいないという理由で、頻繁ひんぱんにイジメをうけるようになった。


 噂話や陰口などは日常茶飯事にちじょうさはんじで、お父さんがいなくお母さんは忙しく会社に寝泊まりしてばかりで帰ってくるのは一年に五回あるかないか。

どこでも一人ぼっちの私は、日に日に学校に行くことも減ってきて、ついには不登校となってしまった。


 不登校を初めて一週間。その時学校は夏休みに入っていたが、私にとってはいつもと変わらない日常だった。


そんなとき、毎日暇で寂しくてしょうがなかったのを少しでもまぎらわす為にネットゲームというものをやってみることにした。

幸いパソコンはあったし、評判の良い無料のネットゲームがあったので早速プレイしてみることにした。


ディスプレイネームに悩んだが、本名の波村優菜なみむらゆうなの名前をもじって『YUNA』にした。 


 そのゲームは異世界系ロールプレイングで、少しだけ自分が強くなった気がした。

だけど、初めてボスに勝てなくなった時の表示に、また自分がとても弱くなった。    


 『一人で難しいなら、協力できる仲間と倒そう!』


こっちの世界でも、仲間や友達がいないという事実を突きつけられた。


 寂しくなった私は、いつの間にかネトゲの掲示板に、『私は孤独』と書き込んでいた。

それを少し勘違いして受け取ってしまった人がいた。


『うちのギルドに入る?』


最初はためらったが、元々友達や仲間が欲しかった私は、そのギルドに入れさせてもらった。

そのギルドには沢山の人がいて、気兼ねなく話せてまるで本当の友達のようだった。勝てないボスにも勝てて強くなって、ゲームの中だけは元の自分に戻れた気がした。


そんなときに最高のパートナーと出会った。

その人は『Masa』といい、私と同じ中学三年生で、自分でギルドを立ち上げ私を誘ってくれた人。このゲームの中で凄く有名な強プレイヤーらしい。


そして私は聞いてみた。

どうして私をギルドに誘ってくれたのかと。

しかしその答えはあまりに単純なことだった。


『誰でも、現実でもゲームでも一人は寂しいだろ?特にゲームなんかつまらなかったらゲームじゃないじゃん』


確かにその通りの言葉に感激し、ゲームの中なのに私はその人を少しだけ好きになってしまった。

そこからギルドの中でタッグを組むことになりMasaと組むことになった。


 Masaは私に丁寧にゲームのコツを教えてくれて、異世界系が好きならこの小説やアニメおすすめだということまで教えてもらった。

 ………そしてとうとう、私は言ってしまった。


『リアルで会えませんか?』


無理だと思っていたのに、返ってきた答えは意外なものだった。


『いいよ。やっとそっちから会いたいって言ってくれたね』


その言葉に私の心臓はずっとドキドキしていた。

相手も私の事を好きだったのだろうか。

そしてなんとこれを奇跡というのか、彼の住んでいた場所が私と同じ地区だった。


 質問をしてから三日後。以外に早く、今日近くの公園で会うことになった。

朝から、いや昨日の夜から心臓がドキドキしぱなっしだ。


とても久し振りにおしゃれをしてとても久し振りに外に出てとても久し振りに外の空気を吸った。

公園に着くと彼は先にいて待っていた。


「久し振り」


久し振り?そう思って彼の顔を見ると、見覚えのある顔だった。

彼の正体は同じクラスの政人まさと君だった。

凄く恥ずかしくなった。政人君は知ってたんだ…YUNAが私だったってことを。

政人君は私が学校に行かなくなった最初の頃、家が近いから溜まってた手紙を届けに来てくれた人。


 『優菜、学校に来なよ。責めて人に合わないと』と言われて私は、『私は自分が学校に行きたいときに行き、人に会いたいときに会う』そう返すと彼は『分かった』と言って、手紙を届けてくれることはあっても、外に出ようと話しかけてくることはなくなった。


 相手が政人君なら『やっとそっちから会いたいって言ってくれたね』という言葉もつじつまが合う。


恥ずかしくて走り去りたい気持ちでいっぱいだったけれど、自分で読んでだ訳だし私が勘違いしただけで政人君に悪気はないので我慢した。


「どう?学校に行く気になった?」

「…………まだちょっと」

「そうか…」


 暗い空気を感じ取ったのか、政人君は話題を変えてきた。

「それよりもさ、俺のおすすめした小説は買ってくれた?今日外伝が発売されるんだよね」


「……ごめん、ちょっと買いに行く時間がなくて…」

一日中家にいてゲームをしてるというのに私は何を言っているのだろう。


「じゃあさ、今から買いにいこうぜ!俺も丁度外伝買いたかったし」

「い、今から?」

「もしかして予定あった?」

「いや、別に予定はないけど……」

「じゃあ行こう!」

そう言って彼は本屋の方へ歩き出す。

幸い背負ってきたバックの中にお財布が入っていたので本は買えそうだ。


他人ひとと買い物に行くのなんていつぶりだろう。まあ外に出たり他人と話すのも久し振りなんだけれど。


 色々な事を考えているうちに本屋に着いてしまった。


「いらっしゃいませー」


同じシリーズの小説なので同じ本棚で本を探す。

「お、あった!…そっちは?」

「あ、うんあったよ」

目的の物も見つけたので素早く買い物を済ませ店を出る。


「付き合ってくれてありがと」

「いやいや誘ったのはこっちだし」

優しい…こんな人はとても久しぶりだな――――

「どうした?」

しばらく黙って固まっていた私に声をかけてきた。


「な、何でもない」

意味の分からない恥ずかしさに顔が赤くなる。

「今日はありがと。じゃ、じゃあまた」

何故か駆け足でその場を離れ家に帰った。

おかしな奴だなと思われただろうか。そもそも学校に行ってない時点で常識的におかしな奴だけれど。


すぐにパジャマに着替えてベットに潜るという行動を私はいつの間にかしていた。


 ……………………………………。


……………………………好き?


一時間と言うほどでもない時間一緒にいただけなのに。

学校にかよってたときはイジメのせいなのか気にもとめなかった。

でも何故か、彼のそばにいると安心するというか落ち着くというか。イジメにあってボロボロだった私の心を癒してくれている気がする。


それが好きってことなんだって気がする。


 ……………私は彼が………………政人君が好き、だと思う。

でもだからといって、告白したところでフラれて終わり。


 自分では気づいてないみたいだけど結構モテてるし、そもそも不登校で引きこもりの私が選ばれるはずがない。

今のところは今まで通りに普通に接して普通にゲームしよう。


 そこから、私のネトゲはいっそう楽しくなった。

夏休みにだから夜更かしも出来る。

政人君とタッグを組んでるから二人でクエストに行ってボスを倒して、素材集めて腕を磨くために決闘して。そんな私にとって一生で一番楽しい期間だった。

けれど楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもの。


 とうとう夏休みが終わってしまった。

夏休みが終わってしまえば、ゲームは夜の少しの間だけ。

政人君は毎日も学校があるからそこまで夜更かし出来ない。


いっそ夜中の学校に小さい隕石が落ちてきて、学校を潰してずっと休みになればいいなんて幼稚ようちな事を考えてみたけれど、そんなことが起きる訳もなくただただ寂しいだけだった。


 寂しいままゆっくりとした月日が流れ、その間に政人君に気持ちを伝える覚悟が決まらず、二月になってしまった。

そしてタイミングよく、私はやっと決めた。

二月十四日、バレンタインの日に彼に気持ちを伝えようと。

料理は下手だけれど頑張ってチョコも作った。


「え、えっと……ごめんなさい」


「…バレンタインの日にそのセリフは俺がフラれた様にしか聞こえないんだけど…どうしたの?」


 私が呼び出したのに口が動かない。

いざとなると恥ずかしくて全然告白できない。

「ご、ごめんなさいってのはそういう事じゃなくて……」

やばいやばいやばいやばいどうしよう。


「じゃあさ、俺の要件から言っていいかな?」

「え?あ、うんいいよ」

言うタイミングを逃した…もう無理…言えない…。

「優菜が好きだ……付き合ってくれ」


…………………え?


この人は何を言っているの?


「何…で?」

「あ…いや、優菜が嫌ならいいんだ」

「そんなことない!私も…政人君が……好き…だから」


…言えた。


その言葉を聞いた政人は凄い笑顔になる。

「でも、私なんかと?」

「……うん」

「引きこもりなのに?」

「それはイジメた奴が悪い」

「ゲーム好きの女で、料理も出来ないのに?」

「しってるよ。でも料理は関係ないし、ゲームが好きなのはお互い様だろ?ていうか俺は優菜がどんな姿でもその優菜が好きなんだ」

そう真剣に言ってくる。

そんなストレートに言われたら。


………………私の瞳から熱いものが流れた。


「あ、あれ?何でだろう?涙が…悲しくないのに」

そう言いながら涙をぬぐう。でも拭っても拭っても何故か涙が止まらない。

「嬉…しいのかな?うん、嬉しいんだ。自分の好きな人に好きって言われたら誰でも嬉しいよね。それに、誰かに必要とされてるなんて……」

ずっと泣いている私に政人君が優しく両手で包み込んでくれた。


「…大丈夫。俺がずっと、一生優菜を必要とするから。……いや、俺には優菜が必要だ」


「………本当に………ありがとう。……それで、その…政人君、か、彼女として…よろしね」

「ああ!でも、君じゃなくて政人でいいよ」

「わ、分かった。………政人」 

お互い顔が一瞬にして赤くなるのが自分でもわかる。


 そこから私と政人君……政人の日常が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る