第2話 テッドの焦り…

 僕とリットは…目の前の地面に大きな開いた穴を見下ろしていた。

 大きさは20m位で、深さは暗くて底が見えない。

 この地面に穴を開けたのは、ルットの爆発系の魔法だった。

 しかも初級以上、中級以下程度だそうなのだが…当然、討伐対象の魔物は喰らった瞬間に消滅していた。


 「ルット…やりすぎ!」

 「ごめんなさい…」


 すると、ロットが大地に手を当てて魔法を使うと、穴の底の地面が盛り上がって来て穴は塞がれていたのだった。

 魔人もそうだが、聖女というジョブもどんな威力を秘めているんだ?

 僕とリットは前衛で戦っている為に、2人には後方支援を行って貰いたいと思うのだが、威力がこれだと迂闊に攻撃魔法を放たれると僕等迄巻き添いを喰いかねない。

 

 「どうしたものか…?」

 

 何故こんな事になっているのか?

 話は少し前に遡る。


 ・・・・・・・・・1時間前・・・・・・・・・


 リットが朝食の用意、僕が冒険の準備をしていると…ルットとロットは装備をした服を着て居間に来た。

 ルットは、黒のローブに大きな帽子を被っていた、

 そして腰の帯に掛けられた革のケースに黒の書が携帯出来る様になっていた。

 対称的にロットは、白のローブに白い帽子、腰の帯には白の書が納められるように革のケースがあった。

 ただ…?


 「2人共、似合うけど…生地が薄くないか?」

 「昨日黒の書を読んでいたんだけど、装備品を強化できる付与魔法っていうのがあって、使ってみたら鉄の様に丈夫になってた。」

 「私も白の書で書いてあった付加魔法というのがあって、装備を強化出来るって書いてあったから試したの。」

 

 それにしても魔法かぁ…?

 僕も調味料で水を放てるけど、魔法という感じはしないしな…

 まぁ、調味料を放てるという事を考えると、魔法っぽい感じではあるけど。

 ジョブなしの兄に、ジョブ2つ所持の妹達か…

 あっという間に追い越されてから、「お兄ちゃん、邪魔!」とか言われる日が来るんだろうか?

 そうなったら悲しくて立ち直れそうもないな…


 「とりあえず朝食を摂ったら、冒険者ギルドに行くよ! リット、お弁当の用意は出来てる?」

 「お弁当は一応用意したけど…何か依頼をしに行くというより、ピクニックに行くみたいね?」

 「まぁ、討伐依頼はするけど、メインはあくまでも2人の魔法の確認だからね。」

 

 僕達は朝食を済ませると、冒険者ギルドに行って討伐依頼を選んだ。

 そして受付のライラさんに依頼書を渡した。


 「やっぱり…4人で行くのですね?」

 「はい…色々気苦労掛けます。」

 「テッド君とリットちゃんがいるから、大丈夫だとは思うけど…くれぐれも油断しちゃだめよ!」

 「肝に銘じておきます。」


 依頼書が受理されると、今日の狩りとしてワイルドボアを選んだのだった。

 そして草原に来て、ルットにワイルドボアを仕留める様に魔法を使ってみて?…と言ったら、バーニングボムズという爆発系の魔法をワイルドボアに放って…最初に戻る。


 ・・・・・・・・・そして現在・・・・・・・・・


 あれだけ大きな爆発を起こした所為か、周囲に魔物の気配は無くなっていた。

 まぁ、近くであんな爆発が起きれば、魔物や生き物は逃げ出すよな?

 僕等は弁当を食べながら、周囲を警戒していた…のだが、ロットが守護結界という魔法を使っているので、警戒もあまり意味が無かった。


 「さて…これからどうしようか?」

 「魔物も全部ここから離れたでしょうし…」

 「ごめんなさい。 あんなに威力の出る魔法とは思わなくて…」

 「魔法が使える様になったんだから、派手な魔法を放ちたい気持ちは解るよ。 当面の間は、弱体魔法や補助魔法で調節していこう!」

 

 …とは言った物の、魔物は戻って来るかな?

 討伐依頼自体は失敗では無かったけど、討伐証明も消滅したから回収は出来ないし…

 何か、打開出来る方法は無いだろうか?

 ワイルドボアの寝床というか、巣は…草原の端にある大木の根元という話だが、この位置から見えるだけで大木はかなりの数がある。

 そこからワイルドボアを探すのは骨が折れる作業だ。

 討伐依頼とは別の魔物を狩った所で、討伐外だと報酬は半額になるし…

 僕は空に向かって叫んだ。


 『僕の呪われた不幸体質よ! 今だけで良いから、この絶望的な状況を変える強い魔物よ呼んでくれ‼』


 妹達は呆気に取られて呆けていた。

 僕も外した感が凄まじく、恥ずかしくて妹達の顔を見れなかった。


 「まぁ、こんな事で魔物が現れる訳は無いしね。 今日は依頼失敗という事で冒険者ギルドで報告しよう。」

 『ならば、我と遊んでみないか?』


 僕は声をした方を振り返った。

 妹達を見ると空に指を指していたのでその方向を見た。

 すると、人の様な体に足は鳥の様な鋭い爪が生えていて、背中には大きな翼があり、老人の様な顔付きと長い髭を生やした者が腕を組んで僕達を見下ろしていた。


 『ある者を探していたのだが…どうやら貴様の様だ! その腰の魔剣シーズニング! 貴様がヴァルギスタイガーを葬った奴か…』

 

 冗談半分で空に向かって言った言葉が本当になるとは思わなかった。

 しかも…ヴァルギスタイガーの名前を知っているという事は、どうみても魔王軍幹部の1人だろう…


 『我が名は…風魔将軍フェルスリーヴァだ‼ ヴァルギスタイガーを屠った者よ…勝負だ‼』


 そう言ってフェルスリーヴァは地面に降り立った。

 どうみても油断をしてくれそうな相手には見えない。

 僕は妹達を見て頷くと、武器を構えたのだった。

 

 こうして、2人目の魔王軍幹部の戦いが始まろうとしていたのだった。

 はたして…テッド達の運命は?

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