第2話 初めての実戦と調味料無双の始まり?

【ドリエリアドッグ】

 ドッグという名前が付いてはいるが、見た目は茶色い豹である。

 黒豹の茶色版という感じで、この世界では個体数の多い種でもある。

 だが、地球にいる豹とは違い…それほど素早くも無く、Hランクでも成人位なら倒せるレベルの魔物である。

 単体のゴブリン程度の強さ位なので、余程間抜けじゃない限りはやられる事はまずない。

 負け犬という言葉の同義語として、ドリエリアンという不名誉なあだ名を付けられる者もいる。


 そして僕の目の前に、そのドリエリアドッグという魔物がいる…のだが?

 正直言って、僕には手に余る魔物である。

 成人の男性の力なら、刃物やこん棒でもダメージは与えられる。

 だが、僕の筋力では刺しても刃物が通らずに、下手すると弾かれ…

 こん棒で殴っても、皮膚で弾かれて大したダメージが得られないのだ。

 それはなぜか?

 単純に…貧乏で食生活が貧しい為に、日々の食事で栄養が摂れていないからである。

 それともう1つ…相手は留まって刺されてくれる訳では無く、動き回るからだ。


 「多分…まともな食事をしている同世代の子供なら、倒せるんだろうなぁ…?」


 テッドの体格は、同世代の子に比べてたら…若干小さく細い。

 そしてテッドは、妹を飢えさせない為に…食事の量は少なくして、残りは水で腹を満たす生活をしていた。

 なので、ダガーを持つ手が震えている理由は…恐怖から来るのもあるが、テッドにとってダガーという武器(刃渡り30㎝で分厚い刃)は、決して軽くは無い武器なのであった。

 一応、魔物を想定して毎日素振りをするが…素振りをしても大して筋力が付かないのであった。


 「どうみても…逃げられないよなぁ? 僕は…ここで死ぬかもしれない。」


 丁度良く人が通っている…何ていうラッキーは無い。

 低ランク冒険者ならともかく、この街の中ランク冒険者では森での狩りはしないで、他の場所に行くからである。

 そしてこの街に低ランク冒険者もそれ程数はいないし、大体パーティーを組んでいるのでこの森で狩りはしないのだ。

 …なんて愚痴っていても仕方がないので、僕はダガーを構えて姿勢を低くした。

 重い武器を持って命中率を上げる為に考えた構えだからだ。

 

 「帰ってくれるとありがたいんだけど…って、そんな都合よくはいかないよね?」


 ドリエリアドッグからしてみれば、僕は多分…弱そうに見える獲物なのだろう。

 ドリエリアドッグも姿勢を低くして、いつでも飛び掛かれる体制だった。

 僕は息を吸ってから吐いた。

 緊張して呼吸を疎かにすると、体が緊張して強張って筋肉が硬くなるからだ。

 そしてドリエリアドッグが飛び掛かると予想したが、頭でタックルをしてきた。

 予想が外れて突きを出すが、ダガーはドリエリアドッグの頬に小さな傷を付けるだけで、僕はタックルにより吹っ飛ばされた。

 

 「いたたたたた…武器は、あるな?」


 僕はすぐに起き上がると、ドリエリアドッグは旋回してから再び構えた。

 僕は先程と同じ構えをした。

 きっと、ドリエリアドッグの中では…僕は吹っ飛ばせる程に軽いと感じてまた同じ攻撃をするだろう。

 そう思っていたのだが、先程とは違う攻撃をしてきた。

 僕が右手で持っているダガーを前足の攻撃で手を弾いてダガーを弾き飛ばしたのだ。

 僕は強く握っていた…筈だったのに、簡単に離れてしまった。

 すぐさま取りに行こうと思って拾おうとするが、それを待って居る程…ドリエリアドッグは甘くなく、またタックルを受けてダガーより遠くに吹っ飛ばされたのだった。

 

 「ダガーがあんな所に…コイツ、頭良いな!」


 …などと感心している場合ではない。

 絶体絶命のピンチだった。

 僕はダガーの場所を見た。

 すると、僕の視線に気づいたのか…ドリエリアドッグは、ダガーの場所の前に立ち塞がってからこちらを襲おうと向かって来たのだった。

 僕は腕をクロスして防御態勢をしたが、それも呆気なく弾かれて馬乗りになった。

 僕の腕を前足で押さえ付けてからドリエリアドッグは、僕の頭に噛みつこうと口を開けて来たが、僕は首を左右に振りながらなんとか躱した。

 そして足で腹を蹴る筈が…ドリエリアドッグの急所(玉)を蹴り飛ばしてしまったのだ。

 さすがにドリエリアドッグも痛みで飛びのいたので、僕は立ち上がった。


 「やはりあそこは…人間以外に魔物でも痛いのか…?」


 だが、それがいけなかった。

 ドリエリアドッグは明らかに怒っている表情だった。

 

 「これ…絶対に許しては貰えないパターンだろうな?」


 はなから逃げられる…いや、ドリエリアドッグも逃がす訳はないだろう。

 せっかくの獲物を手放したりはしないからだ。

 

 「今度こそ…死ぬかもしれないな。」


 僕はそう覚悟した時に、つい最近に冒険者ギルド内で冒険者達との話を思い出した。


 「そういえば、お前の調味料の塩って…どうやったらでるんだ?」

 「手を下に向けてからイメージすると、その通りに出ます。」

 「なら、手を前に突き出したらどうなるんだ?」

 「いつも調味料の補充だけでやった事はありませんが…前に飛び出るのかな?」


 僕は掌を前に構えてからイメージした。

 すると、掌から塩が飛び出した…ただし、1m位の距離だけど。

 

 「あの時は冗談で言ったが、本当に魔法みたいに出るんだな。 近距離有効の塩魔法みたいで良いじゃないか!」

 「でも、この街の僕の事を知っている者達には効かないと思いますよ。 塩しか出ない事は知られていますから…」

 「だが、この方法は初めてだったんだろ? なら、この方法で出る事迄は知らない筈だし…お前の事を知らない奴になら有効な手段じゃないか?」

 「そうでしょうか…?」


 試してみる…価値はあるかな?

 ドリエリアドッグは怒りで大きく目を見開いてから、口を開けて襲って来た。

 僕は射程圏内まで待ってから、スキル調味料・塩を放った。

 するとドリエリアドッグは、これに対して対処出来ずにモロに顔にブッかかり…目や鼻や口の中に塩が入り込んだのか、苦しみだしてから地面でのた打ち回っていた。

 僕はすぐにダガーを拾ってその場を離れようと…したのだが、ドリエリアドッグは僕が移動したのには気付いていなかった。


 「今逃げれば…確実に逃げられる! でも、この状態ならダガーも刺さるんじゃないか?」


 僕はドリエリアドッグの脇腹の柔らかい部分にダガーを突き刺した。

 そして何度も何度も突き刺して、その返り血を浴びた。

 気が付くとドリエリアドッグは、死んでいた。

 僕は地面に座り込んで、溜息を吐いた。


 「はぁ…倒せた! やったぞ、生き延びた!」


 僕は呼吸を整えてから、ドリエリアドッグを解体した。

 解体は、父さんが生きている頃に教わっていたので大体出来ていた。

 

 「これで…少しは肉を食べさせてあげられるかな?」


 だが、兄妹4人で分けるには量が少し足りない。

 そしてこの方法なら…僕でも魔物を倒せると思えて来たのだった。

 

 「あと、3匹位狩るか…」


 僕はドリエリアドッグを探したが、この付近では見当たらなかった。

 少し足を運んで森の奥に行くと、ホーンラビットを見付ける事が出来た。

 僕は風下からそっと近付いてから、ホーンラビットの顔に塩を放った。

 するとホーンラビットの目に塩が入って、それを拭おうとして動かなかったので僕はそのままダガーを突き刺した。


 「よし、使えるな! この方法での狩りは…」


 この方法が使えるのは、相手が油断している時だけでしかない。

 僕はこの方法で狩りを続けていった。

 そして夢中になっていた所為か、経験値が入ってレベルが上がっていた事にも気付いてなかった。

 レベルが上がった事に気付くのは、冒険者ギルドに行った時に解るのだが…?


 今は、狩りを続けるのに楽しくて忙しかったのだ。

 そして…レベルアップで新たな調味料を覚えたのだが…?

 果たして、その調味料とは?

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