第4話 神の分析

「ギルドの初クエストはどうですか? 中々波乱のようですね」


「え? この声はあの時の、あなたは誰ですか」


 クエストの事を知っていると言う事はギルドの関係者なのかな。


「始めまして、ではなく2度目ですよね、私の名前はゼーネシア、ギルド《オルトレール》のマスターをやっています」


「あなたがゼーネシアさん!」


 透き通った声を通じて容姿は見えないが清廉さが伝わってくる。この人が倒れていた僕をギルド迄連れて行ってくれたのか。




「これは念話ですか」


「念話とは少し違った云わば精神干渉みたいなものですよ。こうやって会話はできますが、時間経過がありません」


「時間経過無しで会話ができるなんて凄すぎる……」


「いやいや、慣れればすぐに出来ますよ」


 慣れればって、そんなことできる人今まで見たことがない……。


「そ、そうだ大変なんです。レピティが冒険者狩りに襲われそうになっていまして、今すぐに助けないと!」


「でも、今のあなたでは冒険者狩りに勝てませんよ」


「そ、そんなのやってみなきゃ……」


「いえ勝てるわけありません。だってグラスさんは分析しかできませんよね。それも相手に意味は伝わらず自分のみ数値化したものを頭で曖昧に認識する程度の」


「それはそうですが……ゼーネシアさんは僕の能力を知ってるんですか」


「ええ」


ゼーネシアさんは、まるで全てを知っているかのように衝撃の応答をした。


 僕の能力は昔から謎であった。最初は魔法に対する洞察力が優れている程度の認識だった。それがある時を境にいつの間にか魔法陣を頭の中で数値化して大まかに把握できるようにまでなり、これにより次第に魔法に対する関する興味が人一倍強くなった。ただ分析に熱中し魔法陣の数値化についての僕の話を理解するものはいなく、村の人から嫌われたり、王国を追放されたりもした。


 それはまあ分析によって頭の中で認識する魔法陣の数値についてはとても言葉で表せる代物ではなく、それが伝わらない、つまり分析を除いてしまえば基本的に僕はランクEクラスの魔物にも精一杯のただの一般人だと認識されるため当然の反応ともいえるわけだが。


 そんな僕の境遇を理解してくれるかもしれない、ゼーネシアさんの存在は僕の心に一筋の希望がさしこませた。


「じゃあ僕の能力は具体的にどんなものなんですか! 教えてください。」


「ええ、勿論ですよ」


「ほ、本当ですか!」


「《神の分析》それがグラスさんの能力です。この能力はあらゆる魔法陣を分析して数値化して認識することが出来ます。しかしそれは使用者でもはっきり表せないレベルの曖昧なものです。そしてその分析はランクSS以上の神の魔力に反応したとき意図的でも無意識でも出力することが出来る」


 ちょっ、今なんて言った? 神の分析? あらゆる魔法陣を分析できるって、名前にも神の魔力に反応して出力ってどういうことだ……とにかく僕のスキルはそんな凄いものだったのか……でも……。


「いやでも鑑定システムαの表記では僕は最弱クラスのEだったんですよ。そんなことは信じられませんって」


「それはミスリードですよ。E表記にはもう1つの意味合いを示すパターンがあります」


「もう1つパターンとは?」


「【エラー】つまりは測定不能を表す表記、それこそEの示すもう1つのパターンです。グラスさんはこの測定不能のパターンに該当したわけですね」


「そんなことが……なんでゼーネシアさんは王国の鑑定システムにそんなに詳しいんですか」


「色々と因縁があるんですが今はお答えできませんね。ただ鑑定システムの真相を今知っているのは私くらいですかね」


誰も知らない王国事情を知っているなんて、一体何者なんだゼーネシアさんは、しかし僕の能力にそんな秘密があったなんて……。


「でも……すいません……ちょっとまだ、ゼーネシアさんの事を信用できないです……その実例がないので」


「実例ですか……確かグラスさんはハイフレードの攻撃を直に受けましたよね」


 ハイフレードの攻撃? ああ王国を追放されたあの時の事か。


「はい、そうですね」


「普通だったら身体は原型をとどめてませんよ? ではなぜグラスさんが生きていたのか」


「……っ! 僕がハイフレードの攻撃に何かしたってことですか」


「そうです。ハイフレードのあの時の剣閃は神の魔力SSクラスに匹敵していました。グラスさんはその神の分析を自動発動して分析を出力したことで攻撃を無効化、しかし残った衝撃で吹っ飛ばされたというわけですね」


 確かにそれなら僕が生きていた理由も頷ける。僕の分析でそんなスキルが備わっていたなんて。


「……っ!」


 いや、待てよ……確かにハイフレードの力に反応したのは自分の力だと分かったけど、あの時、レネ達との戦いの時にも出力の力が突然湧いていた気が……あれは一体何だったんだろう。


 とはいえ倒れていた僕を拾ってギルドという居場所迄くれたゼーネシアさん、その上自分の中の潜在的な力に気づかせてもくれた、今の僕には精神干渉越しで話すゼーネシアさんが凄い神様の様に思えた。


「あ、あのゼーネシアさん、本当にありがとうございました!」


「ふふふ、やっとグラスさんからお礼が頂けて良かったです」


「それでも今の僕にはエルゴルからレピティを救う事なんて出来ません。僕の能力である《神の分析》はSSクラスの神の魔力にしか出力できないんですから……」


「そうですよね。グラスさんの能力はSSクラスの神の魔力にしか反応できない限りあくまで魔法陣の数値を分析するだけで相手に干渉を及ぼす迄の出力を発揮しません。そこで私が今グラスさんに話しかけてるんですよ。これを受け取ってください」


 なんか魔法陣で転送されてきたぞ、これは…青い鉱石?内に凄い力を感じる。


「それは解魔石です。これを装備すると所持者が潜在的に認識した魔法陣が出力される、魔法陣の認識はより正確で明瞭なものでなくてはありませんが、グラスさんの《神の分析》はそれらを数値化するまで完璧に行えます。またこの石にはSクラスの魔術迄しか出力できないという制約がありますが、これはご存じの通りグラスさんにとっては弱点を相互カバーした完璧な必殺のアイテムになっていますよね。私もここまでアイテムを使いこなせそうな人が現れてうれしいですよ」


 Sクラスまでの魔法陣を出力だって? それはつまり《神の分析》と合わせて全ての頭の中で分析して数値化した魔法陣をこの石があれば、出力できるってことじゃないか。そんな夢にまで見たことが本当に出来るのか? それは僕が《術析師》として最も目標にしていたことじゃないか。それがこのアイテムで……そんなはずが……。


「なんでそんなことが出来るんですかこの石は」


「それはですね解魔石には魔力を宿すことが出来るのですが、この解魔石にはSSクラス神の魔力が宿っているんですよ。つまり神の分析の出力条件SSクラスの魔力に反応を満たすことが出来るのです」


「そう言う事だったのか」


 いや待てよ、レネ達に襲われたあの時、僕の身体には突然謎の力が湧いた気がして、突然分析を出力できるようになっていたんだった。SSクラスとまでいかないレネ達の魔法でも、レネ達を追い詰めたのもあの力のお陰で……つまりあれは……。


「もしかしてレネ達に襲われていた僕に湧いてきた謎の力は、解魔石が原因だったんですか!」


「そうですよ。あの時私は即席的に解魔石の力をグラスさんに付与してあげたんです。そしたら驚き、見事に魔法陣が出力されているではありませんか。私は本当に驚いたんですよ」


「そうだったんですね……」


 成程、よくわからなかったここまでの状況がやっとつかめてきた。ってことはまだ実感はないけど今の僕は分析して数値化した魔法陣を全て出力できるって事なのか……つまりは。


「これを持てば僕はレピティを救えるんですか」


「もちろんですよ。あの時は私が力を付与しただけですが、解魔石をもってば常時力を使えます」


「そんなことが本当に……あのゼーネシアさんありがとうございます……絶対にレピティを救います」


「はいあなたはいずれ世界を救うと私は信じています。その時までどうか道を誤らないでくださいね」


 ゼーネシアさんの声が消えていくと同時に周囲の時間経過が動き出す。


「くたばれええええええ」


 エルゴルの剣筋がレピティの首を捕らえようとする。


「パリンッ!」


「っなんだ貴様は!?」


「悪いレピティ、少し怖い思いをさせちまった」


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