分析だけしかできないとパーティーを追放された術析師はギルマスから拾われて貰った解魔石で全ての数値を出力する~鑑定ミスリードに気づいて今更誘ってこられても遅いんだけど~

@re-lu

第一章

第1話 追放された

シュレッタ王国王の間にて。

僕は今戦慄している。


突然王様に呼び出しを受けた。

クエストの報酬が貰えるのかと思っていた。

しかしそんなのは完全な勘違い、王の口からは非情な一言が言い渡された。


「冒険者グラスには選抜冒険者パーティを抜けてもらう。同時にシュレッタ王国からも追放とする」


 え? 今この王様は何を言ったんだ。追放? いやありえないでしょ。僕の《分析》がこれからどれだけ王国のために貢献する可能性があると思っているんだ。


 これは何かの冗談なのではないか。いや絶対にそうだ、そうとしか考えられない。


 ならば次にするべき発言は……仕方がない。付きあってやるか……軽い口調で王様のノリに付きあってあげる事にしよう。


「いやいやいや、冗談きついですってシュレッタ王、僕を追放だなんて面白すぎる冗談ですよ! ほら、皆さんもそろそろ茶番は終わりにして業務を再開しましょうよ……ねえ……ほら」


「……」


 いつになく真剣な王様のこの表情、ひょっとして冗談とかではなく本当に……。


 その時僕の頭に王国を追放されて放浪者になるという恐ろしい未来が浮かび上がる。とっさに事態の深刻さを把握、焦りだし口を開く。


「ちょっとなんで黙ってるんですか! おかしいですよシュレッタ王。ちょっと、本当に、え? 正気ですか?」


「兵達よ早くグラスを王国から追い出すのだ」 


 シュレッタ王の指示を受けた宰相の命令により兵達は一斉に敬礼をして動き出す。


「待って放してください。やめて、おいお前ら止めてくれよ」


 僕は同じ選抜冒険者パーティの仲間だった3人に話しかける。


「……」


 何だよその顔は、僕達同じ選抜冒険者として一緒に困難も乗り越えて信頼関係を築いた仲だったじゃないかよ。それをこんな形で……。


「おとなしくしろ、お前はもう王国の冒険者じゃないんだよ」


「そんな急に酷すぎますって……痛いっ」


 兵士たちの無慈悲な打撃が僕に襲い掛かる。必死に抵抗したものの、直ぐに身柄を拘束された後、王国城門前に簀巻きの状態で放り出された。


「こんなことって、ははは……無様なもんだな」


 ボロボロになった身体を何とか動かして、吹っ飛んだ眼鏡を拾いながら巻かれた縄をとく。なんでこんなことになったのだろう。あまりにも理不尽が過ぎる。夢に見た王国選抜冒険者に選ばれて舞い上がっていたのに、こんな結末になるとは……。


「僕はこれからどうすればいいんだ」


「バチっ」


 追放されて途方に暮れている僕が少し歩いていると何か身体に痛みが走った気がした。


「あれ今何か触れたような」


「グラスさん」


 その時城門の前から白色の短髪少女の聞き馴れた声が聞こえた。


「レネ! 来てくれたのか。よかった、なあ今からでも王様に僕をまた冒険者に入れてくれるよう伝えてくれないか」


 レネは僕と同じ選抜冒険者パーティにいた人物、助けに来てくれたに違いない。


「父上にですか。そうですね……」


 レネは少し考えこんだ表情で、下を向く。


「お断りします」


「は?」


 直後レネは顔を僕の元へ近づけてきて、笑顔できっぱりと提案を断ったのであった。


「いや、お前そんなこと言うキャラだったか」


 僕の知る限りレネはどちらかというと普段はおとなしくおどおどしているタイプだ。ただ凄く優しくていつも悩みを聞いてくれる天使のような存在だったのだが……。


「はあ……グラスさん、あなた何も分かってないみたいですね、レジンさん、システラさん来てください」


 見慣れた紫髪の魔導士の男と、白い鎧を来た金髪の女騎士がこちらに歩いて来る。


「レジン、システラ! お前らも来てくれたのか。皆して僕を迎えてれるなんて……え?」


 なんでシステラの奴が僕に剣の鞘を向けているんだ。僕を助けに来てくれたんじゃないのか。


「残念ですがグラスさん、あなたには父上から追撃命令が出ています。冒険はここで終わりです」


「は? 何を言って……ぐあああああ!」


 レネの一言に動揺していると、突如僕の腹部に強烈な雷魔法の玉が撃ち込まれる。その衝撃で僕は遠方へと吹っ飛ばされた。


「何が起きたんだ……」


 衝撃が起きた方向を向くとそこには笑いをこらえながら杖を構えるレジンの姿があった。


「グラス……お前って奴はよお……本当に最高に笑わせてくれるよな! 見たかシステラ、グラスのあの追放されたときの顔! 爽快だったよな! ぎゃははははは」


「汚い笑い声を見せるなレジン、ふっ……まあその意見には同意だな」


「ふ……ふざけんな! 人を馬鹿にするのもいい加減に……っ!」


 その時システラの姿が消えると、こちらに凄まじい速さで接近してきた。


「厚かましい奴だな、お前の実力で選抜冒険者になったのが間違えだったんだよ」


「ぐああああああああ」


 システラの鞘を使った高速剣術が僕に襲い掛かる。こいつ、本当に僕を葬る気だ。


「ふざっふざけんなよ、お前ら! グハっ」


 続けざまにシステラとレジンの無慈悲な連撃が更に僕の身体に打ち込まれる。


 おいおい、冗談じゃない。こんなところでやられてたまるか。僕はまだまだこの世界でやりたいことがたくさんあるんだ。


 何もない人生だった。村出身の僕には優れた魔術も武術の教育も受ける機会はない。だから常に身の回りにある魔法陣を分析して、観察していたのだが、ある日魔法陣が数値化して見えるようにまで上達した。魔法陣を観察する僕を村の皆は変わり者扱いして腫物にしていた。


 僕はそんな閉鎖的な村の人間が嫌いだった。僕の分析は完璧でいずれ常識を覆す筈、分析して数値化した魔法陣を具現化できるような才能さえあれば何でもできたはずだ。だから僕は村を抜けて理解者を探すため、各地の村を転々としていったが状況は変わらず、誰一人僕の分析による魔法陣の数値化を理解してくれようとしなかった。だから居場所が欲しかった。


そんな時偶然訪れた選抜冒険者への招待状、何故かシュレッタ王国の鑑定システムαによるたった4人の魔王軍に対抗する選抜冒険者として選ばれたのだった。鑑定システムαは冒険者の潜在能力を見抜くとされている装置で信憑性は確実。やっと自分が認められる居場所が出来たと、そう思っていた。


「それがどうしてこんなことに……ぐはっ」


 システラの強烈な鞘による打撃が僕の顔面にクリティカルヒットして、眼鏡が壊れる。


「ひゅう~これは入ったんじゃないの。流石システラ、鬼の所業だな」


「黙れレジン、こいつを葬るのが今回の最重要任務だぞ。お前も手伝え」


 こいつら僕にこんな酷い事をして良心が痛まないのだろうか。体の痛みより、裏切られたことによる心のダメージがデカい。僕が今までお前らと一緒に過ごしてきた時間は何だったんだ。そもそもなんで僕に追撃命令まで下されたんだ、理不尽すぎないか。


「さてグラスさん、気分はどうですか? あなたは調子に乗り過ぎたんですよ」


 調子に乗り過ぎた? それはまるでレネの奴が今回の件の首謀者というような言い方ではないか。


「実はですね、ここだけの話、父上にあなたをパーティから追放してほしいと頼んだのは私なんですよ」


「は?」


 薄ら笑いを浮かべるレネが僕の耳元で他の奴に聞こえない様に囁いた言葉、それは僕のレネへの人物像を完全に破壊した。


「私はですね弱い人が嫌いなんですよ。クエストに行けば必ず私達の足を引っ張る、優れた体術も無ければ、特にこれと言って使える秀でた魔術もない。あなたなんで選抜冒険者に選ばれたんですか。しかも鑑定評価Eなんて前代未聞です本当、それなのに得意げに数値がどうとか独り言を言いながら選抜冒険者面をして、しかも自分の事を《術析師》という意味の分からない自称までしていたり鬱々しいんですよ」


 確かに僕は鑑定システムαの表記により最弱評価Eを受けた。レネ達はみんなA以上の中僕だけがE、さらに評価の通りクエストでも僕は全く役に立たなかった。


 《術析師》……そんなジョブもない。ただ僕は魔法陣の法則性を分析して数値化することで、いずれ魔法陣を具現化にすることを夢としていた為、その道のスペシャリストになって、いずれそう呼ばれることになった時を考えて常日頃術析師を自称していた。


いままで実戦で役に立たず、分析と言って自分の考えを喋っていた僕、負い目はあった。けどここまで諦めず頑張れて来れたのは目の前のレネのお陰なのだ。それにレジンとシステラ、シュレッタ王だって僕の事をいままでよくしてくれたのにどうしていきなりこんな……。


「いや……でも、それは、僕も自覚していて、それでもレネ、お前が言ったんじゃないか。必ず僕が選ばれたことには意味があるって。僕が得意とする分析が実践レベルで役に立つときが来るまで応援してるって! 僕はその言葉に励まされてここまで頑張ってきたのに」


「ああ、あれは遊びで言っただけですよ。あなたが弱いのに口だけ達者に分析とのたまって魔物に蹂躙されている様子が凄く面白かったんですもの。他の皆さんも同様ですよ。裏であなたを嘲笑ってましたし。只もう飽きました、私たちと同じ選抜冒険者面するあなたを見るのもうんざりです。しかしまだそんな言葉覚えていらっしゃったのですね」


「ふ、ふざけ……そんなはず」


 僕を応援していたんじゃなくて皆嘲笑っていたのか。誰も僕の分析に期待なんてしていなかったのか……そんなこと信じられるわけ……。


「ふふふ、無様ですね」


 しかし目の前にいるレネの表情は紛れもなく悪意にまみれていた。


「ふ、ふざけるなあああああ!」


僕は人の心を弄ぶ表情をしているレネが許せなくなり激昂した。あの日の言葉がどれだけ僕の活力になっていたか、それを遊びだなんて……。


「僕をいったいなんだと思っているんだ」


 僕は凄い剣幕でレネに襲い掛かった。


「いやああああ、グラスさんが暴れ出しました。レジンさん、システラさん助けてください!」


「ぐはっ!」


 その時レジンの雷撃魔法とシステラの剣術が僕を一斉に襲った。ただでさえ満身創痍の身体にこの追撃、僕は身体が限界を迎えて意識を失った。


「おいおいグラス、お前元選抜冒険者だからって調子に乗ってんなよ。同じ選抜冒険者でもレネはシュレッタ王国第二王女、お姫様に手を出すなんて落ちるとこまで落ちたんだな」


「まあそう言ってやるなよレジン、こいつは既に追撃命令で詰んでるんだし無理もないだろ」


「……」


「ってもう意識もないか」


「レジンさんとシステラさん、2人ともありがとうございます。それでは城に戻りましょうか」






 なんという無様な光景だろうか。分析しかできない僕なんかが王国の選抜冒険者になれるわけがなかったんだ。そんなこと最初っから分かってたんだから誘いに乗るんじゃなかった。


「力が欲しいですか?」


「誰……?」


 頭の中に女性の声が鳴り響く。すると不思議と身体の中から凄い力が湧いている感覚に陥った。



「さて新しい選抜冒険者のパートナーはどんな方がいいですか」


「そうだな、私は屈強な剣闘士かな。凄く頼りになりそうだ」


「いやいや、やっぱり綺麗なお姉さんのソーサラーだろ。俺が魔法を教えてあげたい」


「ふふ、レジンさん、システラさん、いいアイデアですね。父上には私から伝えておきます」


 随分楽しそうに喋っているものだな。人をここまで痛ぶっておいて、よくそんな涼しげな表情ができるものだ。


「待てよ……まだ話は終わってねえぞ」


 僕は不思議と湧いてくる力に身を任せながら、身体を無理やり起こし言葉を振り絞る。


「っ! グラスさんまだあなた生きて」


「馬鹿がまた起きやがりやがったぞこいつ」


「性懲りもない奴だな」


 レジンとシステラが再び攻撃の構えを見せる。


「2人とも待ってくださいどうも様子がおかしいです」


「心配の必要はないぞレネ、こいつの実力は分析しかできない鑑定評価Eクラス、つまりは雑魚同然ってことだよ!」


 僕は接近してきたシステラを吹っ飛ばした。


「なっ……ぐはっ!」


「くっお前システラに何をした!」


 レジンが雷撃魔法を連打してくる。しかし僕はそれを全て跳ね返した。


「ば、馬鹿な」


 何だろう普段は分析して頭の中で数値化するだけの魔法陣の全てが今は具現化して見える。イメージした数値が魔法陣としてが外に出力されていく感覚だ。


「僕はレネに話があるんだよ。関係ない奴はどいとけ」


 レネに駆け寄る僕、不思議と今なら何でもできそうな気がする。


「こ、こんなことが、誰か、誰か応援をください。こちらレネ、対象が暴走を……ひい」


 僕は指から分析した数値を出力して、レネの連絡用魔法陣の機能を停止させる。


「さて、さっきの仕返しとさせてもらおうか、よくも僕を騙したな」


 レネに向かって腕を僕は振り上げた。


「お嬢様に対する手荒な真似はちょっと見過ごせないかなあ」


「なっ」


その時、凄まじい剣撃が飛んできて僕の元へ直撃した。


「ぐああああああ」


なんだこの威力は分析しきれなかった。


気づけばシュレッタ城からかなり離れた場所まで吹っ飛ばされた。


あいつは確か聖騎士長のハイフレードか。とんでもないのが出てきたな。


「グラス君……残念だよ。E評価なのに頑張ってる君の姿は嫌いじゃなかった。選抜冒険者の君がクビになったのだって、本当納得いかなかったよ。でも流石にお嬢様に手を出すってのは一線を越えてる」


 ハイフレードは一瞬で距離を詰めてきて、そう話しだした。


「はあ? 僕はレネの奴に追い出されそうになったんだよ。そんなに僕のこと分かってくれるんなら話くらい今から聞いてくれないか」


「……残念ながら君は既に追撃命令が出された部外者だからね……聖騎士長として君を倒さなくてはならない」


「どうやら戦いは避けられそうにないみたいだな」


 聖騎士長ハイフレード、王国最高戦力という噂は聞いたことがあるが、果たしてどれくらいの実力なのか。


 冗談じゃないこんなところでやられてたまるか。僕はこの分析を完成させて《術析師》として世界中の魔術をもっと知りたいんだ。


「立ちふさがるんならしょうがない」


 不思議と突然分析で数値化した魔法陣を出力が出来るようになり、万能感に埋もれていた僕はハイフレードに向かって突っ込んでいった。






「ぐはっぐはっぐは」


それから僕はハイフレードにぼろ雑巾にされた。全く分析して数値化できない魔法陣を纏った攻撃の数々、聖騎士長の名は伊達じゃなかった。このまま間違いなく葬られるだろうな。


「これで終わりです。覚悟を決めくださいね。《パニッシングレイ》」

 

 おいおい、これはシャレにならない、分析どころの話ではない……凄まじい剣閃が僕に向かってくる。意識も殆ど消えかけていて言葉を発する余裕もないが、ただ一つ確実に分かるのは、これから僕の命は尽きると言う事だ。


「うわあああああああああ」



 ――それから僕の身体はシュレッタ王国領地の遥か遠方に吹っ飛ばされた。



ここは何処だ。


 意識が朦朧としている。今僕がどこにいて何をしているのかすら把握できていない。あれからいったい周囲で何が起こったのだろうか。


「あれ? 息を吹き返しましたよ」


「フムフム、これは興味深いな」


「エイマ、救護班を呼んで来るよ、患者が息を吹き返した、レピティはここを見張っておいて」


 何だろう、いろんな人に囲まれているけど、状況が読めない。ただ僕が今倒れていることだけは理解できる。


「……んんん……うん?」


 そう思って目を開いたら、側にいた誰かが僕に眼鏡をかけてくれた。


視界が良好になると、目の前には猫耳の亜人? のような見た目の背がかなり小さい少女が僕の方を覗き見て微笑んでいた。


「目覚めましたね。おはようございます。ようこそギルド《オルトレール》へ」



鑑定システムα 選抜冒険者鑑定表記

評価名「エクストリーム」鑑定適正ジョブ「ソーサラー/A+」レジン・ロード

評価名「プライマルヒール」鑑定適正ジョブ「セージ/S」レネ・シュレッタ

評価名「ホーリーソード」鑑定適正ジョブ「クイーンセイバー/A+」システラ・レーラ

評価名「マジックアナリティクス」鑑定適正ジョブ「エレメンター/E」グラス・グラィシス


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る