第19話 でぇと(?)③
俺は最大の窮地に立たされた。
あーんを受けるか否かだ。わりかし恥ずかしいことをしでかしている俺たちだが、公共の前でだとまた訳が違う。
幾ら客が少ないとは言っても、店員や珍しい外国人美女に気を引かれている客の男もいる。まあ、その男は彼女らしき人に耳を引っ張られてるけどな。リア充爆発しろ。
しかし人目があるということは、逆もまた然り。俺がここで拒否すれば店員からジト目を頂くことは間違いない。据え膳食わぬは男の恥と言うし、ここは覚悟を決めるのだ俺よ。
「よ、よし」
差し出されたフォークには、一口大のパンケーキの切れ端とたっぷりのホイップクリーム、そして一つのキウイが乗っかっている。 一口にしては些か大きい気もするが、エマの気持ちだと思っておこう。
俺は未だにニヤニヤしているエマをチラリと見て、一層決意を固める。
「あ、あーん」
フォークに顔を近づけて、パクリと食べる。
今一緊張で足が分からないが、きっと美味しんだろう、うん。
「おぉ……!」
そしてエマは、キラキラ瞳を輝かせて咀嚼する俺を見ていた。
さながら動物に餌付けしているような光景だ。良いように扱われたような気がしてならない。だが、喜んでるなら良いか、という結論に毎回落ち着いてしまうのは、俺がエマに甘いのか単に絆されているのかのどちらかである。もしくはどっちも。
とりあえず、俺はやられたらやり返すのがモットーだ。
俺のイチゴのパンケーキも同じく一口サイズに切って、エマに差し出した。
「佑樹くん?」
「ほら、お返しだよ。あーん」
ニヤッと笑うが、エマの表情に照れは無い。
ありがとうございます! と普段の様子と変わらずに礼を言ったエマが顔を近づけてきた。
……うっ、これ、あーんする側も恥ずかしくね?
変装していてなお隠しきれないその美貌が近くにあるというだけで、緊張感が収まらない。
そしてエマは食べる前に、耳にかかった髪を直して舌をペロッと出しながら蠱惑的な表情で俺を見た。
「〜〜っ」
顔に熱が集まる感触があった。
なんていうか、単純にグッと来る可愛らしさと大人っぽい色気がたまらなかった。
「やっぱりこっちのイチゴの方も美味しいですね。あれ? 佑樹くん、顔赤いですよ?」
「ぐ、ぬぬぬ……」
素知らぬ顔で味の感想を言うエマが、途中で俺の顔を見てはからかうように笑った。
明らかに分かっているくせに聞いてきた。それは、最初からこうなると分かっていて実行したということだ。なんて小悪魔。
だが事実としてその目論見は、俺の赤面という形によって達成されてしまった。
俺はエマの新しい一面を発見したことによる感慨深さと、からかわれたという複雑さに、何とも言えない顔で黙るしかなかった。
☆☆☆
カフェから出た後は、俺も平常心を取り戻し余裕を持って接することができた。
「まだ帰るには早いけどどうする?」
「んー……この後どうするか決めてなかったんですけど……」
「じゃあゲームセンターでも行ってみる? ここから近いし」
「げーむせんたー、ですか。噂には聞いてますよ。物欲と自尊心を満たすことにしか自己肯定感を見いだせない亡者たちが行き着く場所とか」
「悪意でしかないだろ、その解釈。普通に遊ぶ場所だ。たまにいるガチ勢は普通に当て嵌まらないかもしれないが、マイノリティだろ」
再び噂と現実のギャップに、エマは打ちひしがれた。いったいどんな日本を望んでるんだよ。世紀末じゃないんだから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます