第19話 Friendship
幾つもの卒業証書の入った筒が空高く舞い上がった。
「これ、一遍やってみたかったんだよな~」
「大切な物だから普通しないよ。俺のん泥ついたし・・ でも皆ですると楽しいじゃん!」
「だな~ でも多分、陸が考えてるのは帽子だと思うよ」
「あ!」
「へ?」
「陽一、それ正解だわ。だって、拾ってから自分の卒業証書か中身確認するのメンドイ ・・けど、楽しいからいいや、陸!」
「ア、ハハハ。だろ~」
「俺達本当に卒業しちまうんだな。なんか急に寂しくなってきたぁ!」
「徳ちゃん、俺も~」
「ホンット、良い思い出が出来たじゃんかよ。皆サンキューな」
「ったくぅ ・・皆また泣いちゃって」
「陽一ぃ、俺達と離れるの悲しくないのか? 明日から学校で皆と会えないんだぞ!」
「寂しいよ、皆バラバラの大学になっちゃったしね」
「絶対に連絡取り合って、また会おうな!」
「うん」
「うん」
「うん」
陸の呼び掛けに陽一、夾、徳田は同意する。
「お~い! 竹ノ内達も駅前のファミレスに来るだろう?」
卒業の悲しさに更ける陸達にクラスメイトが話掛けてきた。
「あ、そんな事言ってたな」
「俺のクラスも何人か合流するって言ってた」
「そうなのか、じゃあ徳ちゃん達も行こうぜ。陽一も行くよな」
「うん」
「お~い。俺達全員参加ぁ~」
「分かった」
陸の返事にクラスメイトは手を挙げるとその場を離れた。
「じゃあ、行こうぜ」
陽一達が校門に向かって歩こうとした時、複数の女子に引き留められたため、一旦4人はバラバラになる。
陽一も他と同様に女子生徒に囲まれる。
「相澤君、ネクタイだれかにあげちゃったってホント?」
「う ・・うん」
実は、陽一のネクタイはジャケットのポケットに入っていた。直人から欲しいと頼まれた陽一は、卒業式の直後にネクタイを外すとポケットに入れておいたのだ。
『グッドジョブ、俺』
「誰に上げたの? ここの学校の子? もしかして本命?」
「そう ・・だけど」
【キャ―!!!】
陽一を取り囲んでいる女子達が一斉に悲鳴を上げる。陽一はビックリすると耳を塞いだ。
「私、諦めません! 相澤先輩が卒業してもずっとファンですから!」
「私も!」
「私だって、卒業してもまた会いたいって思ってるんだから」
「そうそう、同窓会するから絶対に参加してね」
女子達は、口々に想いを陽一に伝えると、嵐のように去って行く。
女子から解放された陽一が陸達に合流すると、彼等のネクタイが剥ぎ取られていた。
「陽一お帰りぃ、なんだったんだ、さっきの女子達の悲鳴?」
「さぁ~」
「さぁって、周りの皆もビックリしてたぜ」
「そう言えばさ、陽一ってネクタイどうした?」
「あ、それね。事前予約済み」
「へぇ~ って! え! 誰? 陽一、それって本命?」
「それでか、さっきの悲鳴」
「誰だよ? 俺達くらいには教えろよ」
「う~ん。今度ちゃんと話すよ」
「分かったぁ でも、ま、そん時まで続いてたらでいいぜ」
「だな~」
「だな~」
「おい、そこの3人」
「アハハハ」
話をしている内に、校門に辿り着いた4人は、後ろを振返ると校舎に向って一礼する。そして、バスケットコートのある体育館にも同様に感謝の一礼をした。
「じゃあな」
「バイバイ」
「サンキュー」
「ありがとう」
それぞれに別れの言葉を贈ると学校を後にした。
駅前のファミレスに行く途中、4人は電柱の影に直人の姿を見付ける。
「あれ~? 橘じゃん」
「先輩!」
「おお、橘」
「卒業おめでとうございます」
「それを言いにわざわざ待っててくれたのか?」
「え、ええまぁ」
そう応えながら直人は陽一に視線をおくる。
「そう言えば、俺に話があるって言ってたね」
「あ、そうなんです、相澤先輩」
「悪いけど、皆先に行ってて。すぐに追いつくから」
「分かったぁ。席取っといてやるよ」
「早く来いよ。先に食べちゃうからな」
「忘れて帰んなよ〜」
「アハハ、徳ちゃんそれうける。陽一なら、やりそう」
「ハハハハハハ」
陸達は、笑いながらクラスの男子が待つ、駅前の待ち合わせ場所に向った。
「相澤先輩、お邪魔しちゃってごめんなさい。電話で言えば良かったんですけど、制服姿の先輩を最後にもう1度見たくなってしまって」
「待っててくれて嬉しいよ、俺も会いたいと思ってたから」
そう告げると、ポケットに入れてあったネクタイを取り出そうとする。
直人は、学校から家路を急ぐ生徒達が、二人を横目で見ているのが気掛かりだった。
「あ! 先輩、それは、ここでは」
直人は慌てて、ポケットに突っ込んでいる陽一の手を押さえる。
「え?」
周囲の目線を気にしている様子の直人に気付くと、ジャケットのポケットから顔を出しそうになったネクタイを押し戻した。そして、立ち止まっていた足を駅へと進める。
陽一は、照れながら隣を歩く直人の手を握りたい衝動に駆られたが、ポケットに入っているネクタイでごまかす。
「先輩・・今週の土曜って空いてますか?」
直人は、自分よりも少し足の長い陽一に歩幅を合わせながら尋ねた。
「土曜って明後日だねよ? 陸が昼飯食べに来るけど、その後ならいいよ。デートする?」
「見せたい物があるので、僕の家に来て貰えますか?」
「この間のデートで描いてた象の絵が出来上がったの?」
「あ、はい。それと ・・僕の父の絵も見て欲しいんです」
「お父さんの絵? うん、それは是非見てみたい」
「僕の家、磯崎スーパーの近くなので、そこまで迎えに行きます」
「海沿いなんだ。分かった。3時頃でいい?」
「全然大丈夫です」
直人は、頬を赤らめながら陽一を見上げると満面の笑みで応えた。
少し辺りが暗くなった頃、ファミリーレストラン前には、会計を済ませた数人の男子高校生が、他の生徒を待っていた。
「じゃあ、皆達者でな~」
「竹ノ内、何だそれ! 古くせ~」
「ハハハハ」
沢山の笑い声が静まると各々に家路に向う。
「じゃ、陽一、陸、またな」
「ああ、夾。それに徳ちゃんも、家はちょっと遠いけどまた会おうな」
「おお」
「電話するよ」
「うん、陽一」
家が同じ方面の陽一と陸は、徳田達と違う電車に乗り込んだ。
車内は帰宅の人達でわりと込んでおり、陽一と陸はドア付近に留まった。
「明日も、うっかりこの電車に乗って、学校に行ってしまいそうだな」
「卒業したって実感ないね」
「だよな。陽一は春休みどうすんの? バイト?」
「いや、バイトは大学始まってから」
「そっかぁ じゃあさ、デートとか?」
「え? あ、そうだね」
「なぁ、陽一、お前、橘とさ ・・アイツとさ ・・その」
「付き合ってるよ。俺が告白した」
「ええ! ええええ!」
陸は少し大きな声を出してしまったため、周辺に居る乗客の視線を浴びる。
「大声出して悪い ・・やっぱそっか」
「キモイ?」
「男同士・・だからか?」
「うん」
「全然! 最近の陽一、すっげぇ幸せそうだから、俺も嬉しい」
「陸なら、そう言ってくれると思ってた」
「そっか。しっかし橘やるな。貴公子陽一に告らせるとは」
「だなー」
陽一の母、
家族の多い陸は、一人で誰も居ない家に帰る陽一の後ろ姿が、子供心に不憫で仕方なかった。だからこそ、最近の陽一は陸の目に幸せそうに映っていて、陸も心から嬉しかったのだ。
「本当に良かったよ!」
陸はそう言うと、陽一の胸元に優しく拳を入れた。
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