第16話 決着の時

エルヴィン視点


 カスペルが構える魔法剣は双剣だ。

 細身の優美な長剣はいわゆる片手持ちのロングソードに分類されるだろう。

 ユリアナが仕掛けたことでカスペルがそれなりに二刀流での戦いに長けていることは分かった。


 俺が構える剣は両手持ちの大剣ツヴァイヘンダーだ。

 刀身だけで大人が両手を広げたくらいある代物で柄まで入れると小柄なユリアナよりも大きい。

 いわゆる重量に物を言わせ、重さで叩き切る武器と言ってあながち、間違いではない。


 パワー重視である以上、カスペルの軽い双剣との相性はあまり、良くはないだろう。

 こちらが一回しか、振れない間に向こうは三回以上、振れる可能性がある。

 攻めの好機が多く、訪れる方が有利なのは素人でも分かる。


 カスペルは

 それがあいつの敗因となる。


「行くぞ」


 カスペルも俺も睨み合い、構えの状態から動きが取れなかったのは互いに隙を見つけられなかったせいだ。

 わざと声に出してみたのは挑発の意味も兼ねている。


 真剣勝負において、もっとも注意すべきことは冷静さを失うことだ。

 焦りを感じたり、慢心に陥った者が負ける。


 カスペルは俺の言葉に口角を上げ、不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 あれは己の勝利を信じているというよりは俺に負けることなどないと思い込んでいる不遜の表れに他ならない。


 ここが勝負とばかりに互いに思い切り、床を蹴り、踏み込んでいく。

 ツヴァイヘンダーは横薙ぎに振り回すのが、本来の使い方だ。

 重量がある為に大きく振り上げて、振り下ろすという上下の動きは元来、しない。

 振り下ろしてしまえば、隙が大きすぎるのだ。


「そうくると思っていたぞ」

「甘いぞ!」

「何!?」


 右利きである以上、俺のツヴァイヘンダーが横薙ぎに狙ってくるのは左になるだろう。

 その予想は間違ってはいない。

 ただし、それはセオリー通りに相手が動いた場合のことだ。


 戦場では教練で習っただけの動きでは生きていけない。

 カスペルは素人ではない。

 だが、あくまで命のやり取りがない児戯で終わっていただけと言うべきか?


 俺の横薙ぎは払うと見せかけただけのフェイクに過ぎない。

 そこから、無理矢理に力業で軌道を変える。

 横薙ぎからの振り上げなんて、やる人間はまず、いないだろう。

 俺もまさか、自分でこんなことをやるとは思ってもいなかった。


「ぐわあああああ」


 振り上げたツヴァイヘンダーをそのまま、力任せに振り下ろすと左に意識を集中していたカスペルは案の定、対処することが出来なかった。

 慌てて、右で構えていた魔法剣で防ごうとするものの防ぎきれるものではない。


 激しく吹き飛ばされたカスペルは勢いそのままに壁に激しく、叩きつけられ動かなくなった。

 とはいえ、衝撃で気を失っているだけだろう。


 命のやり取りをしたことがある覚悟が違うと考えていながら、俺は手加減していた……。

 さすがに血を分けた弟の命を奪うことは出来なかったのだ。

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