第12話 対峙の時来たる

 デ・ブライネ家のやしきは高位の大貴族の邸宅として、考えればそれほどに大きなものではなく、代々の当主が華美なことを嫌っていた為、どちらかといえば、質素や素朴と言った言葉が似合う屋敷である。


 しかし、辺境にあり、不穏な情勢にある地域の領主だけあって、実用的な機能面を重視しているのも影響していた。

 それでも大貴族ではある以上、誂えらえた調度品が備え付けられた客間と寝室の数は多い。


 その中でももっとも広く、豪華に誂えられているのは王家の者がデ・ブライネ領を訪れた際にのみ使われる特別な寝室である。


 複数の女が上げる嬌声。

 男の荒い息遣い。

 室内を支配する音は淫らな水音と彼らの声のみ。


「ま、また出るっ」


 四つん這いになる女に覆いかぶさり、狂ったように腰を打ち付けていた男が獣声をあげ、女の奥深くに精を放ち終わるとぐったりと女の背にもたれかかった。


 嬌声を上げていた女は事が終わるとそそくさともたれかかる男の下から、面倒そうに這い出る。

 ベッドの上に力尽きたようにぐったりと仰向けになった男の局部を別の女が口に咥えると指も交え、精を放ち終えて力を失っていたものを刺激した。


「うっ。さっき出したばかりなのに駄目だ」

「けほ」


 再び、大量の白濁を吐き出した男の局部から、離れた女の口から漏れ出た精が滴り落ちた。


「ははは。滑稽だな。そうは思わないか? なあ。クラシーナ」

「……はい。殿下」


 数人の女とひたすら獣のような交わりを繰り返す男。

 それを感情の籠らない氷のような視線で見下す男。

 二人の顔は瓜二つと言っていいほどに同じである。

 それもそのはず。

 五つ子の王子の中でも一卵性で同じ遺伝子を持ち、この世に生まれた者だからだ。


 椅子に座り、何の興味もなく、無感情な視線を送る第三王子カスペルの顔に浮かぶのは愉悦だった。

 その隣には感情の抜けた顔でどこか、揺れ動く瞳のクラシーナの姿もある。


「何でお前のような無能がミナの婚約者になれた?」

「ミ……ナ……?」


 快楽の海に溺れていた男――第五王子リュークの目は淀み、濁り切っており、もはや顔だけがいい王子と言われていた面影はまるでない。

 知性を失い、ただ性の快楽に溺れるだけの愚かな男の姿だ。




「きゃああ」

「ぬわあ」


 華麗とも言える着地姿勢で降り立ったヨーゼフ殿下とクルトは良かったのですが、私とファン・ハール卿は転移酔いもあって、いささかカッコ悪いものです。

 私は床で思い切り、尻餅をつきましたし、ファン・ハール卿は慌てて、受け身を取ったので酷い姿勢になっています。


 それにしても何の臭いでしょうか?

 匂いではなく、臭いでした。

 それも今までに嗅いだことが無いタイプの何かが交じり合うような……。


 視線を上げて、ぎょっとしました。

 そこには一糸纏わぬ姿でに励んでいるリューク殿下の姿があったのです。


 まぁ、頑張っておられるんですね。

 

 ……などと言っている余裕はなさそうです。


 この臭いの原因はそういうことでしたか。

 カスペル殿下とクラシーナの姿もあります。


 それだけではありません。

 床に転がっている大きな体は……エルヴィン殿下!?

 一体、どうなっているのでしょう。

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