挿話 消えた子と混ざり込んだ子

 それは仲の良い五人組の話。

 その五人は小学生の頃からいつも一緒に行動していた。

 中学に入ってからもその関係は変わらず、はやては今日も集まるものだと思っていた。


 この五人組は、一見仲が良さそうに見えたが、その実、片思いが連鎖していた。

 美緒みおはやてが好きで、はやては■■■が好き、■■■はあかりが好きと言った具合だ。

 当時のはあかり耀人あきとは異性を異性として認識せず5人がいつまでも仲良く遊べると思っていた。■■■はいかにも大人しい女の子とった感じで、自己表現が苦手な子だった事もあり、告白できずにいた。そんな、いかにも女の子といった■■■に美緒みおは嫉妬する。せめて自分を異性として扱うはやてくらいは自分を見て欲しい。そんな一心だった。はやてはそんなぐいぐいくる美緒みおが苦手になっていった。


 学校からの帰り道、はやて美緒みおから声をかけられる。


「今日、一緒に勉強しない?ウチ、誰もいないからさー」

「──どうしようかな、みんな来るかな?」


 その言葉は暗に二人きりにはならない事を伝えていた。

 二人きりに慣れないと知った美緒みおは仕方なく、■■■を誘うと約束し、それに釣られるかの様にはやては首を縦に振った。

 はやてあかり耀人あきとを誘い、その日も結局全員で集まる事となった事に、はやては安堵していた。

 そして、美緒みおはやての横に座る■■■を見て、陰ながら舌打ちをする。

 それは、はやてが■■■を好きになっていると気づいたからだ。


 その帰り、あかりと■■■の二人は手を繋いで帰っていた。

 ■■■はあかりの前でだけ、口数が増える。


あかり君、今日は楽しかったね」

「うん、楽しかった、特に耀人あきとの変顔がさ、今思い出しても笑っちゃうよ」

「あれは面白かったよね、あ、パパが迎えに来てる」

「そっか、じゃあ、■■■ちゃん、またね」

「またね」


 何気ない日常が何気なく過ぎて行く、そんな日々がいつまでも続けばいいのにと二人は思っていた。

 だが、中学生活が始まって一カ月も経たずに、その関係は唐突に崩壊する。

 それははやてが告白をした事が切っ掛けだった。


「僕、■■■の事が好きなんだ」

「──でも──」

「お試しでいいんだ、1か月付き合ってみてから答えを出してよ」

「でも私──」


 言い淀む彼女にはやては諦めそうになった時、遠くからあかりが声をかけて近寄って来た。


はやて、なにしてるんだ?」


 その声に動揺する彼女はあかりに見られないように隠れた。

 それに気づいたはやては小声で話す。


「じゃあそういう事で、あかりには内緒にしておくよ」

「え、あの──」


 変化ががそれだけで済めば、まだ幸せだったのだろう。

 その翌日、はやて美緒みおに激しく問い詰めていた。


美緒みお!どうしてこんな事をしたんだ!」

「ちがうの、■■■が悪いの!私は止めたんだって!はやて、信じてよ……」

「■■■がそんな事をする訳がないだろ!」


 事件として処理されたそれは、学校で美緒みおと■■■が口論になり、階段から■■■を突き飛ばした。

 それを美緒みおは自殺すると言うのを止めようとしたのだと言い訳する。

 だが、その現場を耀人あきとが目撃し、はやてに話してしまった。

 ■■■は意識不明の重体となり、暫くして善次よしつぎから転校したと言われた。


 その時の4人の幸福値があまりにも下がりすぎた為、4人の記憶を改ざんし、■■■の存在はなかった事にされたのだ。

 同時にクラス全員にも軽い記憶誘導処置を施された。

 4人の経過は順調だったが、全員がどこか心に抜け落ちた物を感じていた。

 あかり耀人あきとと親友の絆を深め、はやて美緒みおはお互いを求める事で、ぽっかりと空いた心の隙間を埋めた。

 4人の関係が徐々に変化しようとしていた時、入学早々に入院していた子が通学を始めたが、クラスの全員が気にも留めなかった。

 その子は誰とも関わろうとしない女子だったが、あかりはいつの間にかその子の事を気になる様になっていた。


 そして、夏休みを目前にして、4人が集まる事は無くなった。

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