第24話 三角関係?
「今日からミネルヴァの『お母さま』はこの人ですよ!」
ルーテはそう言って、孤児院の玄関口で待ち構えていたシスターのことをミネルヴァに紹介した。
「お母さまが二人に増えたです!」
「僕のことはカウントしないでください」
その様子を見て、シスターは頭を抱える。
「ルーテ……あなたは一体どこから子供達を連れて来ているのですか……?」
「色々なところで偶然出会ってしまうんです!」
「やはり……この子は神からの寵愛を受けているのでしょうか……? そして、私には神からの試練が与えられている……?」
こうして、シスターの悩みと孤児院の家族が増えたのだった。
*
――それから数日後。
「今日こそ本当の本当にお金を稼ぎます!」
指南書から【解剖】のスキルを習得したルーテは、孤児院にある図書室を飛び出して言った。
今日は雨が降っている為、暇を持て余した子供達が廊下で玩具を使って遊んでいる。
そんな中、ルーテに気付いて近づいてくる一人の少女の姿があった。
「どこ行くですか? ミネルヴァも連れて行くです!」
「くっ…………!」
「なんですかその反応は!」
ルーテは、毎日ほぼ一日中ミネルヴァに付きまとわれる生活を送っている。
毎朝目覚めるといつの間にかベッドの中へ忍び込んでいたミネルヴァが隣に居て、ウォーキング読書中も常に後ろから追いかけられ、食事中は膝の上に座って来ようとし、挙句の果てに風呂の中にまで侵入してくることもあった。
(流石はラスボス……日常生活でも僕のHPを的確に削って来ます……!)
ここに来て最大のピンチに陥るルーテ。
「……ええとですね、僕は用事があるので、ミネルヴァはあっちで遊んでいてください」
「いやなのです」
ミネルヴァは、ぶんぶんと首を振る。
「ミネルヴァはママに付いて行くです!」
「その呼び方はやめて下さい」
「でも……新しいお母さまを『お母さま』と呼んでいるから、お前に対する呼び方がないのです……」
「ルーテでいいでしょう」
「………………確かにそうなのです。ママは頭が良いのです!」
笑顔でそう言うミネルヴァを見て、ルーテは肩を落とした。
(そもそも、仲間キャラが後ろから付いてくる仕様はこのゲームに存在していなかったはずなのですが……)
そして、心の中でそんなことを考える。
――しかし、そんなミネルヴァにも弱点があった。
「聞こえたわよ二人とも。こんな雨の日に一体どこへ行くつもり?」
「…………!」
そう声をかけて来たのは、イリアである。
「ああ、今日も可愛いわねミネルヴァ」
彼女はミネルヴァを後ろから抱きしめ、ゆっくりと頬ずりした。
「や、やめるです……! 離すです……!」
「おとといくらいまではあんなに喜んでくれたのに……反抗期というやつかしら。成長が早いわね……」
「い、イリアはミネルヴァに抱きつきすぎなのですっ!」
「前みたいにママとも呼んでくれないだなんて……悲しいわ……」
「お前をママと呼ぶと一日中離してくれないから怖いのです。ミネルヴァはちゃんと相手を見ているのですよ!」
顔を真っ赤にして叫ぶミネルヴァ。それは照れ隠しでもあり、本心でもあった。
イリアの愛情は重すぎるのである。
「た、助かりましたイリア! ミネルヴァのことをよろしくお願いします!」
「――私はあなたにも聞いているのよルーテ」
「…………え?」
言いながらルーテの腕を掴み、じっと目を見つめるイリア。
「……いつもそうだわ。あなたはちょっと目を離した隙に勝手にいなくなってしまうの。――私はいつも一緒に居たいのに……!」
「思わぬ伏兵が居ました……!」
後ずさるルーテ。
「あのね。私はあなたが知っていることを話してくれて嬉しかったわ。……少しだけ、るーちゃんがどうして危ないことをするのか分かった気がしたから。あなたは――強くなってみんなを守ろうとしてくれていたのよね?」
(僕は単純にレベル上げを楽しんでいるだけなのですが……)
心の中でそう呟くルーテだったが、ここで言うと好感度が下がってしまいそうだったので踏みとどまる。
「でも私……守られるだけなんて嫌よ。せっかく魔法を覚えて強くなったんだもの。――だから、私にあなたのことを守らせて? るーちゃん」
「ミネルヴァはママ――じゃなくてルーテに守って欲しいのです」
ルーテは、母性をぶつけられながら母性を求められていた。
板挟み状態である。
「…………分かりました。それなら、二人には僕の金策に付き合ってもらいます! 人手が多い方が効率よく稼げるので!」
「お金稼ぎをするの……?」
「はい。この孤児院を防衛する為にはもっとお金が必要なんです! ――今からマリネリス大峡谷へ行きましょう!」
かくして、三人パーティでの金策が始まったのだった。
*
一方、その頃。
「……なあゾラ」
「どうしたんだよマルス?」
「なんで俺達だけ『まりょくせいぎょ?』の勉強をさせられてるんだ?」
「…………廊下を走り回ったから?」
「やっぱりそれだよなぁ……」
「まあ、単純にボク達がバカだからって可能性もあるけどね」
「いや、それはお前だけだ。俺はこう見えても賢い」
「あ?」
「……すみませんでした」
ルーテが出て行った図書室では、ゾラとマルスが居残りで勉強をさせられていた。
「二人とも、私の話をちゃんと聞いていますか?」
「ご、ごめんなさいっ!」
「お願いですから……雨の日に遊びで雲に向かって雷魔法を撃つのはやめて下さい……しょっちゅう孤児院の周りに雷が落ちるので村の人達が怖がっています……」
シスターの言葉を聞いた二人は、同時に「それかー」と納得する。
「あんな魔法を教えたのは……やはりルーテなのでしょうか……」
シスターの悩みは尽きない。
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