第19話 半年後


 マルスとゾラは、ルーテに呼ばれて物置きへ集まる。


「おいルーテ。話ってなんだよ?」

「ボクには分かるよ。……やっぱり、ルーテは女なんだよね? 理由があって男のフリをしてるんでしょ?」


 マルスの問いかけに対して答えたのは、ゾラだった。


「そんなわけあるか。――こんな顔をしてるが、ルーテは間違いなく男だ。俺が保障してやる」

「ど、どうしてそう言い切れるんだよ!」

「いや、だって……ずっと一緒に生活してきたし……隠す方が無理だろ?」

「……………うぅ!」

 

 あっさりとマルスに言い負かされ、恥ずかしそうに顔を覆うゾラ。


「ルーテが男だってこと、そんなに信じられないのか?」

「だ、だって……そうじゃないとボクが男の子相手に胸を見せびらかした変態ってことになっちゃうじゃないか……! そんなの絶対に認めたくない!」

「安心しろ。お前が認めなくても事実は変わらないぞ。ルーテは正真正銘の男だ」

「あー! 聞こえない聞こえない聞こえないっ!」


 ゾラは大きな声を出しながら耳を塞いだ。


「二人ともやめなさい。ルーテが話せなくて困っているわ」

「で、でもぉ……! イリアならこの気持ち、分かってくれるでしょ……?」

「ゾラ……あなたルーテの前で服を脱いだことがあるの……? 初めて聞いたのだけれど…………」

「う、うん。最初に会った時、女同士だと思ってて……」

「…………そう、よく分かったわ。――それなら、ルーテのお話が終わった後で私ともお話をしましょうね?」

「ひぃ…………!」


 イリアに優しい声でそう言われたゾラは、恐怖で縮み上がる。


 助けを求める相手を間違えたのだ。


「さあルーテ。全員揃ったことだし、そろそろ教えてちょうだい。――あなたのお話って何?」


 震えるゾラをよそに、改めてルーテに問うイリア。


「……かなり受け入れ難い話をするので、出来れば覚悟をして聞いて欲しいのですが……」

「……その言い方……なんかカッコいいな! ――覚悟はとっくにできてるぜ!」


 マルスは目を輝かせて言った。


(そのセリフ……言ってみたかっただけですよね……?)


 内心そう思うルーテ。


「覚悟と言われても……どんな話か想像もつかないから難しいわ」

「確かに、それもそうですね。……では、もう結論から言ってしまいましょう」


 ルーテは、一呼吸置いてから続ける。


「今から約四年後。この孤児院は魔物に襲われて滅ぼされます」


「ええええっ?!」


「ですので、マルス達――だけでなく、孤児院のみんなには魔物を返り討ちにできるくらい強くなって欲しいんです!」


「ええええええええっ?!」


 *


 ――それから半年後。


「居ました! コボルトです!」


 ルーテがそう言うと、マルス達は茂みから飛び出して『イサラの森』を徘徊していたコボルトを取り囲む。


 そして、一斉に詠唱を始めた。


「――水よ潤せ、リクオル」


 まずはイリアがそう唱えた事で、コボルトは水浸しになる。


いかづちよ鳴け、トニトルス!」

いかづちよ走れ、フルメン!」


 そして、マルスとゾラが詠唱した魔法によって雷に打たれ、跡形もなく消え去った。


「まあ、こんなもんだな!」


 その様子を見届けて、ドヤ顔をするマルス。


「流石です! ここら辺の魔物は皆さんの敵ではありませんね!」


 三人がまず行ったのは、魔法の訓練である。


 ルーテに魔法を教えられた三人は、初級魔法であれば全員が複数の属性を使える程度にまで成長していた。


 レベルははっきりと確認できないが、おそらく14程度である。


 一方、ルーテも欠かさず剣と魔法の鍛錬を続け、レベル29に達していた。


「るーちゃんっ! 後ろっ!」

「大丈夫、分かっています」


 ルーテは背後に振り向き、間近にまで迫っていたコボルトの上位種――コボルトロードと対峙する。


「風よかたどれ、ラミナ」


 そう唱えながら目を閉じ、空中に手をかざすと、そこへ透き通った刀のようなものが生成された。


「グオオオオッ!」


 コボルトロードが飛びかかって来た瞬間、ルーテは生成された刃を手で掴む。


 ――そして、開眼した直後に抜刀の動作をすることによって≪一閃≫を発動した。


 コボルトロードは一瞬で真っ二つに両断され、経験値となって消滅する。


 戦闘終了と同時に、ルーテが生成した魔法の刃はほどけて消えた。


「…………まだまだ動きに無駄がありますね……師匠には叶いません……」


 一連の動作を終えたルーテは、肩を落としてそう呟く。


「あ、あれでまだ無駄があるの……? ボクには全然見えなかったけど……?」


 ゾラは困惑した様子で言った。


「動きの精度は明丸や師匠の方が上です。僕ももっと頑張らないといけません!」

「いいなー。俺もそれやってみたいなー。盾で攻撃弾く練習飽きたなー」

「マルス……そんなことを言っていると、君の師匠に怒られますよ?」

「はいはい、分かってるって」


 マルス達は、老人とは別の人物から武器の扱いや戦技を教わっている。


 ――魔道騎士デボラ・リリーホワイト。


 ゲーム本編だと、魔物に襲われて瀕死だったマルスを救い出し、生きる術を教えてくれる師匠ポジションの人物だ。


 かつてはこの国の英雄だったが、現在は騎士を引退して村の外れでひっそりと暮らしている。


 マルスが強さを求めるタイミングが早まった結果、彼女との接触も早まってしまったのだ。


 ちなみに、デボラはプレイアブルキャラクターである。


(僕としては、ストーリーに影響が出そうなので本編開始前に接触して欲しくなかったのですが……そもそも負けイベントを回避するつもりなのでこのくらいは誤差ですよね!)


 ルーテはそんな風に考えていた。


「ねえルーテ。今日も魔法でコボルトをいっぱい倒せばいいのかしら?」


 すると、イリアが問いかけてくる。


「いえ、コボルトはもうほとんど狩り尽くしてしまったので、今日はもうお終いです。孤児院に戻って遊びましょう!」

「やったー! ボク追いかけっこがしたい! 最初の鬼はマルスとイリアだぞ!」


 真っ先に孤児院へ向かって走り出したのは、ゾラだった。


「お、おい! 待てよ!」

「そんなに急いだら転んでしまうわ」


 その後をマルスとイリアが慌てて追いかける。


 三人の後ろ姿を見届けたルーテは、アレスノヴァを懐から取り出して言った。


「まあ、僕はこれからアイテム購入の為に金策をするんですけどね!」


 ――かくして、孤児院大改造計画は始動する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る