第11話 夜更けの冒険
夕食を食べ終えたルーテ達は、お風呂に入った後、シスターに促されて寝室へと戻った。
そして、皆一斉にベッドの中へ潜り込む。
――孤児院の消灯時間は非常に早い。
「早寝遅起き」がシスターのモットーなのである。
「それでは皆さん、おやすみなさい」
シスターの言葉と共に、寝室の明かりが消された。
(今日も良い一日でした!)
ルーテは満足げに目を閉じる。
「………………………………」
しかし、魔法で意識を失わない訓練を続けた彼は、副次的に眠くなりにくい体質を獲得していた。
(……ぜんぜん眠くありません! 退屈すぎます!)
ベッドの中で一人悶々とするルーテ。
(…………この時間は無駄ですね!)
結局、こっそりとベッドから起き上がって孤児院を抜け出すことにした。
(遺跡へ行きましょう!)
【隠密】スキルによる洗練された動きで寝室を後にし、堂々と歩きながらも一切足音を立てずに玄関へと辿り着くルーテ。
ゆっくりと扉を開けて外へ出たその時。
「――あ」
懐にしまっていたアレスノヴァが飛び出し、地面へと落ちる。
そして、青白い光を放ちながら空中に球体を投影し始めた。
〈目的地を選択してください〉
ほぼ同時に、無機質な声がルーテの脳内に響く。
「こ、これは……?」
突然のことに、ルーテは困惑した。
(原作にない挙動をするなら、せめてチュートリアルくらいは欲しいのですが……)
そう思いながら、彼の目の前に投影された大きな球体を観察する。
「…………なるほど」
どうやら、アレスノヴァは世界地図である自分自身をそのまま空中に投影していたようだ。
(さっきの声を聞いた感じだと、おそらくこれがワープ先を選択する為のメニュー画面のようなものなのでしょう)
前世がゲーマーだったおかげで、UIの理解は早い。
「でもこれ……どうやって閉じれば良いんでしょうか……?」
ルーテはそんな疑問を口にしながら、空中の球体に触れてみる。
すると、今度はゆっくりと回転し始めた。
「なんだか地球儀みたいですね! ええと……僕の住んでる孤児院は確か……」
〈選択完了〉
「え?」
〈間もなく目的地へ転送します〉
刹那、空中の球体が消え去り、同時にルーテの体が光り始める。
適当に操作をした際に誤って目的地を選択してしまったようだ。
(すでにワープ先が登録されていたんですか……?!)
青ざめるルーテ。
もしこの近くの遺跡がワープ先として登録されていなかった場合、どこか遠くへ飛ばされたまま二度と孤児院へ帰って来れなくなってしまう可能性がある。
「ま、待って! ストップ! キャンセルですっ!」
しかし、ルーテの声が聞き届けられることはなかった。
「わああああああ――――」
かくして、ルーテは跡形もなく姿を消してしまったのである。
*
「あああっ……………」
気がつくと、ルーテは周囲をガラスで囲まれた円形の部屋の中に立っていた。
それから程なくして正面のガラスが自動的に開き、外へ出られるようになる。
「…………やってしまいました」
ワープが完了してしまったことを悟り、頭を抱えるルーテ。
「ど、どうにかして戻れないでしょうか……?」
アレスノヴァを取り出してもう一度メニュー画面を開こうとするが、反応はない。
〈現在充電中につき使用不可です〉
代わりに、そんな声が聞こえてくる。
どうやらもう一度使用できるようになるまで時間がかかるらしい。
(また原作に無い仕様です……! アーティファクト関連は注意して扱った方が良さそうですね……僕とあろうものが
ルーテは肩を落とす。
(これからどうしましょうか……)
今の彼に出来ることといえば、アレスノヴァが再び使用可能になるまで待つことだけだ。
(今までにないピンチです……! 最悪、この遺跡の外が絶海の孤島で、おまけにワープ先がここ以外登録されていない可能性だってあります。そんな状況になったら……)
どんどんと最悪な方向へ妄想を膨らませていくルーテ。
(……楽しすぎませんか?! ゲームの製作者も想定していないような状況に陥ってしまった時ほどワクワクすることは有りませんよね! 詰みセーブみたいな状況から運良く抜け出せた時なんて絶頂すら覚えます! ああ、むしろそうならないかなぁ!)
しかし、彼はいつもの
(ふぅ……一人で興奮しすぎました。……ピンチを自分で望むなんてちょっと変です。プレイヤーである僕自身は、あくまで最善を尽くすべきですからね!)
彼は、自らを侵食する
(――とにかく外へ出ましょう)
落ち着いたルーテは、現在地を把握する為にひとまず外へ出ることにした。
機能を消失した半開きの自動ドアを通り、朽ち果てた研究施設のような場所へ移動するルーテ。
『レジェンド・オブ・アレス』の世界には、高度な技術を有していた古代文明が存在している。
その為、「遺跡」のデザインはファンタジーというよりSFに近い。
ルーテは、壊れた電子機器らしき物が床に散乱した通路を進み、外からの光が差し込んでいる場所を遠くに発見する。
「やりました! 出口です!」
すぐさま走り出すルーテ。
やがて、遺跡を抜けた先に待っていたのは、静かな竹林だった。
孤児院の方は夜だったのにも関わらず、こちらは空に日が登っている。
「ここは……!」
その光景を見て、ルーテはここがどこであるのかをすぐに理解した。
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