地中侵攻②

 真昼は次々とデストロイヤーを撃破していく。そうやってしばらく戦っていると、戦術機保管庫に補給に戻っていフォーミュラフロントの面々が、武器を携えて戻ってきた。


『ごめんなさい、待たせたわね!』

「流星ちゃん!」


 フォーミュラフロントの他にも装備を整えた神凪の衛士達が後ろに見える。真昼はラプラスを発動させて一気に士気を高める。


「現在! 謎のデストロイヤーによって危機的状況にあります! しかし衛士は武器を持ち体制を立て直しました! 奇襲によってダメージを追いましたが、攻勢に出るチャンスです! 全員、訓練通りにデストロイヤーを殲滅せよ!」

『了解』


 真昼は最初にデストロイヤーの群れに突っ込み、デストロイヤーを誘き寄せる。そして流星と高城がコンビを組んで、改めてデストロイヤーに向かっていく。そこに衛士達の支援射撃が加わる。その殲滅速度は先程までの比ではない。

 ラージ級は既に全て排除している。ギガント級だけに気をつければ空中を攻撃出来る固体は存在せず、つまり空中にいれば一方的な攻撃が可能。喰い放題だった。

 二人の容赦ない攻撃によって、レーダーに記されたデストロイヤーのマーカーが次々と消えてゆく。そしてそれを支援する衛士達は新陣形の有用性を確かに感じていく。

 そして、担当エリア内の敵を九割方撃破した頃、真昼は流星に訊ねた。


「さぁ、あと残っているのは動かないあのギガント級だね。何か方法ある?」

「マギスフィア戦術しかないと思うわ。通常攻撃だと倒すのに時間がかかり過ぎる」

「幸いあのギガント級は動かない。ならマギスフィア戦術をする時間も十分あるわ」

「フォーミュラフロントを中心に魔力スフィア戦術を展開! 他の衛士は防御に回れ! 魔力スフィア戦術を邪魔させないで!」

『了解!』


 そうして、魔力スフィア戦術が始まった瞬間だった。ギガント級が動き出した。足元から魔力を噴出させて浮遊し始める。そして体に格納していたデストロイヤーをばら撒き始める。


「空中からデストロイヤーを吐き続ける気!? 魔力スフィア戦術は!?」

「まだ魔力が足りない!」

「全員、フォーミュラフロントを死守せよ! ギガント級が射程圏外に逃げる前に破壊する!」


 空中から落ちてくる迎撃しながら、真昼は焦る。こんなデストロイヤーは初めてだ。戦略性を持って攻めてくるなんて。しかも地面を見る。穴がない。予想したエリアディフェンスの外から穴を掘ってきたのではなく、空を飛んできたのだ。


 ギガント級が誰にも気づかれず、この神凪に落ちてきた。

 対デストロイヤー警戒網を突破するステルス性能をこのギガント級が持っている事を示している。そんなのが増えれば防衛線はズタズタに寸断され、日本は壊滅だ。


 これがあくまで特型として、単体であるうちに破壊する必要がある。


「時雨お姉様!」

『わかった! ラプラス』

「全開!!」


 周囲の衛士の魔力が急速に回復して攻撃力が上昇して、デストロイヤーの防御力が低下する。

 ただの衛士の弾幕でもラージ級を破壊できるところまで火力が高くなる。しかし落ちてくるヒュージも衛士を狙った砲撃を開始して厳しい状況だ。


「なんて火力とパワー!」

「まるでレーザーの雨よ!!」

「駄目! 戦術機が持たない!!」

「撃ち続けて!! フォーミュラフロントを守れ!!」

「レーザーを撃てるラージ級ばかり排出している! 最初は様子見だったのかッ!! くっそぉッ!!」


 レーザーが降り注ぐ中、防御結界と射撃弾幕でサイドサイドを守る。しかし肝心のフォーミュラフロントのスフィアのパスはあまり上手くいっていなかった。


「ハァ、ハァーッ」


 その原因は宮川高城だ。過去に受けた傷によって長期戦ができない体になっている。短時間の戦闘なら問題ないが、長期戦や一度に多くの魔力を必要とする戦いだとその弱さが露呈する。

 ラプラスによって魔力は回復しているが、その排出ができずに体の内部で魔力の過充電で起こっていた。それが宮川高城の動きを鈍らせる。


「高城ちゃん!」


 宮川高城が動きを悪くすれば、流星がカバーに入る。そしてそうすれば後輩達への指示は滞り、魔力スフィアのパス自体が止まってしまう。こういう場合はサブリーダーの瑠衣が指揮系統を受け継ぐのだが、まだ結成して間もなく、指示を出せるほど錬成されていなかった。


「こ、このマギスフィアどうしましょう!?」


 頼れる先輩が二人とも行動を制限されて、若干パニックに陥っている綾波みぞれは自身の持っているマギスフィアと仲間を交互に見ながら右往左往している。


 周囲では自ら盾になってラージ級のレーザーを防ぐ衛士達がいるにも関わらず、自分達は行動が遅いことに焦り覚えて更にパニックを加速させる。


「撃ちますか? パスしますか?」

「待って! 待って考えてるから!!」


 瑠衣はサブリーダーとして思考を巡らせる。このまま撃った方が良いのか、それとももっとマギを溜めるべきなのか判断ができないでいた。魔力スフィアの射程捉えているうちに狙い撃つべきだが、そもそも魔力が足りなくて倒せませんでした、なんて結末は最悪だ。

 どうすれば良い? こんな時、先輩達ならどうする?


「その魔力スフィア、私に貸して!!」


 ドン!! と音を立てて衛士が降ってきた。桃色の髪を靡かせて、壮観な顔つきで地面に着地している。そして片手に握るストライクイーグルを綾波しぐれの目の前に差し出す。


「え? ええ?」

「魔力スフィアをください」

「は、はい!!」


 物理接触で魔力スフィアを譲渡する。

 その時に真昼は周囲を見渡す。

 負傷が原因で戦力外の宮川高城、それに気を遣って指示を放棄するリーダーの今流星、パニックなって行動不能になる綾波みぞれ、サブリーダーとして務めを果たそうとするが実力ない瑠衣、単独プレーでラージ級を狙撃するフレデリカ。


 これが神凪の最高戦力だと思うと落胆を隠せなかった。

 仕方のない部分もある。神凪の衛士はそもそも他のガーデンからなんらかの理由で戦力外通告を受けた衛士が再起するための衛士訓練校なのだ。だから実力がない、もしくは発揮できないのは理解できる。だがしかしそれにしてもこの状況でまともなのが瑠衣というのはどういう話だ。


 彼女は実力はないが役割を果たす意思がある。しかし他は思考停止と単独プレーに役割放棄と病人だ。

 よくそんな状態で生きてこれたね、というのが率直な感想だった。


「今流星!! スキル発動!」

「は、はい!! 攻防の陣発動!」

「綾波! 射程拡張!」

「しゃ、射程拡張!!」

「よし、これで、火力も射程も十分」


 真昼は跳躍して、更に魔力で空中を固めてギガント級に突撃する。ラージ級のレーザーの雨を防御結界で受け止めながら、魔力スフィアの宿った戦術機突き出して、シューティングモードへ切り替える。


「ファイア!!」


 轟音が鳴り響き魔力スフィアが射出される。流星のような一撃は空中にあるギガント級デストロイヤーに突き刺さり、内部から光の刃で切り刻んだ。デストロイヤーの欠片が降り注ぎ、市街地に被害が及ぶのが見える。

 ギガント級の撃破に沸き立つ衛士達に真昼は叫ぶ。


「油断しないで! ラージ級はまだ健在! 全てのデストロイヤーを一掃して!!」


 デストロイヤーの反応が消えたのはそれから二時間後の事だった。

 瓦礫の山となった神凪で衛士達は疲れを癒すために近くのホテルで宿泊する事になった。

 真昼もホテルへ案内されて部屋をあてがわれる。


「……」


 真昼は部屋でGE.HE.NA.との端末でメッセージのやり取りをする。


『今回の神凪デストロイヤー襲撃についての情報』

『内部捜査の結果、GE.HE.NA.は何もしていないと結論。どの派閥も今回の件には協力的で、むしろ情報を欲しがっている。会議では高度なステルス能力と飛行能力、そしてデストロイヤー格納能力を得たギガント級が自然発生し、偶然神凪を襲ったものとして議論を終了させた』

『オルタネイティブ5推進派の関与』

『無し。しかし今回の件も含めてデストロイヤーの飛躍的な進化を遂げていることを論拠として全ネストへの核爆弾投下と地球脱出を急ぐように催促している』

『オルタネイティブ3の経過』

『中断されていた3の再始動は順調。横浜基地にて量産の用意が完了。サブオプションとして並行して進めていたアストラ級デストロイヤーを用いた強化型特殊弾が完成。アルトラ級デストロイヤーの核を一部切り取り、養殖する事で量産化も可能』

『オルタネイティブ4の経過』

『現在進行している作戦は戦術理論の共有化と親GE.HE.NA.訓練校所属衛士の安全性が確立された強化手術のみ。訓練校の強固な協力体制や目的意識の統一などは近日行われる東京防衛構想会議にてクレスト社を筆頭した連盟企業を中心に提案する』

『GE.HE.NA.内部の派閥勢力図』

『奪還派が3割、研究派が2割、脱出派が5割』


 これを見て、真昼はため息をついて頭を抱える。

 そんなにデストロイヤーに汚染された地球から逃げたいか。逃げる先の当てもないのに。

 真昼は再び端末を操作する。


『宮川高城の機密情報アクセス権レベル3を要求』

『承認。取り扱いには注意してください』


 真昼は立ち上がって、部屋を出た。

 目的地は宮川高城がいる部屋だ。


「高城ちゃん、貴方はこっち側に来るべきだよ」

 

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