剣と銃がついたデカい武器を振り回す女の子は好きですか!?〜

フリーダム

一ノ瀬隊結成

一話:入学式①

 お姉様が死んでから、およそ一年経ちました。

 私は二年生として進級し、大きな脱落者達もなく同級生も進級しています。初代アールヴヘイムは解散してしまいましたが、二代目として活動しています。

 みんなそれぞれの道を歩き始めました。

 未だ、立ち止まっているのは私だけでしょう。

 私まだ時雨お姉様のことを忘れられません。髪をとかしていただいた感覚、優しく名前を呼ぶ声色、頭を撫でていただく喜び。まるで昨日のようです。そしてデストロイヤーによってお姉様が私を庇って潰されてしまった光景も毎夜のことのように思い返します。


 私は世界唯一のラプラス使いとして、単騎戦力としてサポートをする日々を送っています。ラプラスは攻撃力、防御力、魔力、士気、敵の防御力を低下させるチーム戦で役立つ異能のスキルです。しかし私はまだお姉様以外の仲間を持つ事に抵抗があるのです。


 今日、新入生がこの横浜衛士訓練校に入ってきます。生え抜きの衛士が多い時代ですから、教えることは無いでしょうけど、それでも私は一人でも戦死する衛士を無くしたい。


 お姉様の死を、無駄にはしたくありません。

 私の体は誰かを救う為に生かされているのですから。

 嫌われ者でも構いません。それで少しでも戦死者が減るなら。

 寂しいですけど、覚悟はあります。

 だから時雨お姉様、見ていてください。

 私、一ノ瀬真昼は立派に生きて、そして死にます。


 死力を尽くして任務にあたれ。

 生きている限り最善を尽くせ。

 決して犬死するな。


 このラプラスの異能を持つ者だけが持つこの三つの言葉を胸に。

 それでは、お姉様、ごきげんよう。また明日来ますね。



 一ノ瀬真昼はいつものデストロイヤー殲滅任務だった。基地を出撃してしばらくすると、耳につけたイヤホンに警報音が鳴り響いた。コンタクト型の映像端末に映るレーダーを確認すると、デストロイヤーのマーカーが大きな塊となって、真昼の方に向かって来ている。どれほどの数がいるのかなど、想像も出来ない。


「今日は入学式なんだから、早く終わらせないと」


 前回の出撃に比べ、デストロイヤーを示す光点の塊は、ひと回りほど大きくなっていた。攻めても攻めても墜とせない横浜衛士訓練校相手に、デストロイヤーも業を煮やしているのか。

 デストロイヤーはとてもグロテスクな怪物だ。


「さて……と」


 シューティングモードの戦術機を持ち、敵の先陣、ミドル級の到着を待つ。

 使用戦術機は第二世代ストライクイーグルだ。大型の大剣と銃が合わさった可変式の武器である。第一世代の戦術機と違って敵の攻撃に耐える事は考えられていないので、基本的に攻撃は全て回避しなければならない。もっとも、第一世代とて敵の攻撃に身を晒してしまえば第二世代も同じ運命を辿る事になるが。


 そんな事を考えているうちに、ミドル級は真昼との距離をどんどん縮めてくる。


 真昼はタイミングを見計らってミドル級の真っ只中に飛び込んだ。超低空でミドル級の装甲殻を掠めるようにして頭を飛び越すと、それと同時にミドル級の塊が急制動を掛け、真昼に向かって旋回しようとする……が、いかんせん定円旋回能力のあまりにも低過ぎるミドル級は、咄嗟に振り返る事が出来ない。

 そこを狙って、魔力ビームをミドル級の尻へと片っ端から見舞っていく。

 死体の山が築かれる。


「36体目!」


 旋回し終わったところをすぐに後ろに回りこむ事で、真昼はミドル級唯一の攻撃手段、突撃戦術を繰り出す事を許さない。同じ場所でくるくる回り続けるミドル級を一方的に攻撃し、第二陣が到着するまでの間にどうにか殲滅を完了した。


 同時に、ピッというデストロイヤー接近を知らせる警告音がイヤホンから鳴り響いた。


「第二陣」


 第二陣──そこには敵戦力の主力を成すスモール級とミディアム級、そして何よりの脅威、ラージ級といったレーザー持ちが含まれてくる。


 真昼の能力を知っている司令部はレーザー照射を防ぐための対レーダー煙幕弾は最初の一撃だけ。


『──HQより20706、支援砲撃二十秒前』


 敵の到着に合わせるように、司令部から砲撃の合図が入る。一瞬遅れて、超音速の砲弾がデストロイヤー群に向かって突き刺さろうとしたところを、ラージ級の迎撃によって撃ち落された。


 真昼は対レーザー煙幕の発生と同時に、ステップで敵が密集する中へと飛び出した。

 勝負は十二秒。

 ラージ級のレーザー再照射までのインターバル。ラージ級に対して一方的に攻撃出来るチャンスは今しかなく、そのためミドル級やスモール級は無視して、とにかくラージ級を狙う。


 戦域情報にフィルタを掛け、ラージ級を絞り出し、集中攻撃を仕掛けていく。

 八秒──ラージ級を示す光点は、おおよそ半分ほどにまで減少。

 十二秒──ラージ級の殲滅完了。


「ふぅ、よし」


 あとはこちらが狩る番だ。

 真昼は獰猛な笑みを浮かべて、魔力ビームを撃ち放った。



 横浜衛士訓練校。

 鎌倉府(旧神奈川県)の大正年間に設立されたお嬢様学校を母体にした軍需系衛士教育の世界的な名門訓練校。

 衛士とは人を殺す殺戮怪物デストロイヤーに対抗できる15から25までの女子のことだ。

 各国が優秀な衛士の育成と、市民の防衛に躍起になる中、2メートルほどの戦術可変銃剣機、通称・戦術機を用いた対デストロイヤー戦闘を基本に、軍事的な教育と訓練を非常にハイレベルな形で施し、目覚ましい成果を挙げている。

 世界中から多くの精鋭が集まるほか、優秀な衛士の引き抜きにもとても積極的な衛士訓練校である。


 世界にデストロイヤーが現れて数十年、衛士と呼ばれる異能使いと戦術機と呼ばれる決戦兵器が開発されてから、それを育成するための訓練校は多く設立された。


 横浜衛士訓練校もその一つだ。


 今は入学シーズン。

 幼稚舎から対デストロイヤー戦闘を叩き込まれた者もいれば、適正を認められて今年から教育を受ける新人も存在する。


 一ノ瀬真昼は新入生が学院で迷わないように案内役をしていると、戦術機を携えた新入生に絡まれた。


「貴方が、一ノ瀬真昼様ですね!」


 そう言って戦術機を向けられたのだ。戦術機というのはデストロイヤーという化け物に対抗する為に作られた決戦兵器で、簡単な人向けて良いものではない。

 この新入生はこんな事を知らないのか、と真昼は少し、頭に血が昇る。


「えーっと、貴方は?」

「斉藤亜羅揶ですわ、以後お見知り置きを」

「亜羅揶ちゃん、だね。それで何の用かな? 見ての通り新入生の案内で忙しいんだけど」

「そんな些事より、私と手合わせをお願いいたします!」


 むむっ。カッチーン。

 衛士の貴重な新入生の案内を些事? それにお手合わせ? 非公式で? 怪我人が出たらどうするの。


「亜羅揶っ! あいつ! 真昼に喧嘩売っちゃったのか」

「どうします? 天葉様」

「うーん、こうなれば一度、お灸を据えられた方が良いかな。よし! 見てよう!」


 周囲の傍観の姿勢を見て、真昼はため息をついてから、言う。


「私は戦う気は無いんだけど。それに非公式の戦闘は禁止されているし」

「なら、その気になってもらいます」

 

 瞬間、阿羅揶の戦術機に魔力が流れ込んだ。待機状態から戦闘状態へ移行し、アックス型の武器となる。白銀の刃が阿羅揶の笑みを写す。

 これは戦闘不可避だと判断した真昼は、足元に置いてあるボックスから戦術機を取り出し、魔力を込める。


「亜羅揶ちゃん、お仕置き、だよ」

「〜〜〜〜!! 堪りません! その殺気! ゾクゾクしちゃう! さぁ! 私と愛し合いましょう!」


 そこで割り込む存在があった。

 茶髪のロングの衛士だ。

 

「はぁい、そこ、お待ちになって。私を差し置いて勝手なことなさらないで下さいます?」

 

 阿羅揶は突然現れた乱入者に不愉快そうに言う。

 

「なに、貴方?」

 

 少女は阿羅揶を無視して、真昼の方を向く。そして華麗に一礼する。

 

「私、風間・J・アインツと申します。真昼様にはいづれ私の姉妹誓約の相手になって頂きたいと存じております」

「しゃしゃり出てきてなんのつもり!? それとも、真昼様の前座というわけ!?」

「上等、ですわ!」

 

 風間も待機状態の戦術機に魔力を通し、戦闘状態へ移行させ、ようとしたところで、黒髪のストレートの衛士がそれを止めた。いつの間にか人垣をかき分け風間の側までやってきていたのだ。そして風間の手を掴み、戦術機の起動を阻止した。

 

「駄目よ、風間さん。真昼様も私闘は望まれてないわ」

「この私が、近づいてくるのを感知できなかった? 間合いに入られた!? というか、ちょっと私の格好いいところを邪魔なさらないで下さいませんか!?」

「邪魔なのは貴方達でしょう!?」


 三人でわちゃわちゃと揉めている姿を見て、真昼は言った。


「えっと、黒髪の子は下がって。横浜衛士訓練校の校則を理解していない新入生に指導するのも上級生の務めだから。貴方は、止めてくれてありがとう。お名前は?」

「柊シノアです」

「シノアちゃんか。今から使うのは横浜衛士訓練校では基礎の体術だけど見ていて損はないよ」

「はい」


 シノアは頷いて、下がる。それに反応する亜羅揶と風間だ。


「私、真昼様の味方なのですけれど!?」

「もう! 真昼様! 私だけを見てください!」

「じゃ、やるね」


 ゴキッと首を鳴らして真昼が動いた。

 低い体勢で突撃して、風間の戦術機を蹴り飛ばす。その間に魔力の籠った衝撃波で意識を刈り取り、続いて亜羅揶へ迫る。亜羅揶は戦術機を突き出してくるが、手に集めた魔力のバリア、防御結界で弾き飛ばし、そのまま手首を捻り上げて戦術機を落とさせる。

 そして背後に周り、組み伏せる。

 周囲から歓声が上がる。


「すごい」

「さっすが一ノ瀬真昼。錯乱した衛士用の鎮圧近接格闘術は極まってるね」

「戦術機を持ちながら暴走した人を取り押さえようっていうのがおかしいです」


 騒動を見ていたギャラリー達もすごい! と声を上げる。

 真昼の可愛らしい外見と反対に凛々しい体術は、新入生達の心を鷲掴みにした。


「流石です! 世界唯一のラプラス保持者で、どのレギオンにも所属せず、救いを求める者達を助け続ける救世主の衛士! 一ノ瀬真昼さん!!」

「あはは、そんな説明されちゃうと照れちゃうけど。うん、亜羅揶さんも力の差はわかったかな」

「はい。十分すぎるほどに」

「横浜衛士訓練校で私闘が禁じられているのは怪我や死傷する恐れがあるから。衛士は軍人だけど学生だから、私たちは生きて卒業する義務がある。それが命をかけて今の時代を築いてくれた人達に対する恩返しなんだ。それを忘れないでね」


 真昼は手を話して、戦術機を亜羅揶に渡す。風間も鳩尾に拳を叩き込み、目覚めさせ戦術機を渡す。

 二人ともしょぼん、とした顔でそれを受け取った。

 二人の顔は資料で見たことがあった。中等部時代から活動していたベテランの衛士で実力には自信があったのだろう。それがこうも一方的にあしらわれてはプライドもへし折れるというものだ。そして近くで見ていた亜羅揶の保護者に声をかける。


「天葉ちゃん」

「うっ」

「資料で見たよ、亜羅揶ちゃんのとこの管轄でしょ? ちゃんと指導しなきゃ」

「いやー、真昼に任せたほうが早いかなって」

「それで死ぬのは可愛い部下ちゃんかもしれないよ」

「反省します」

「それじゃあこのギャラリーも含めて講堂の方に誘導を」


 ゴーン、ゴーン、ゴーン、と鐘が響き渡った。それはデストロイヤー来襲を告げるサインだ。すぐさま戦術機に魔力を注入して戦闘体制を整える。そして戦術機を戦闘状態にした三年生が鋭い声で現れた。


「何をなさっているのですか! 貴方達! 遊んでいる場合ではありません、先程、校内の生体研究所から研究用デストロイヤーが脱走したと報告がありました。出動可能な皆様は捕獲に協力して頂きます」

「はい! 場所はどこですか!?」

 

 真昼は三年生に詰め寄る。


「待ちなさい。真昼さん。貴方の単独行動は禁じます」

「へ? 何故ですか?」

「このデストロイヤーは周囲の環境に擬態するという情報があります。必ずペアで行動してください。そうね……」


 視線が風間に刺さる。

 

「貴方、真昼さんと一緒に行きなさい」

「はい!」

「一年生に戦闘は危険です!」

「彼女はベテランの衛士です。貴方も知っているでしょう?」

「ですが、しかし」

「すみません」


 そこで黒髪のストレートの衛士も手を上げた。


「私も、連れて行って頂けないでしょうか?」

「そうね、擬態には目が必要だわ。連れて行きなさい。真昼さんなら守れるでしょう」

「……わかりました」


 問答する時間があるなら狩りに行ったほうが良いと判断したのか真昼は引き下がった。

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