ホテル…

〈ユキナ視点〉










タクシーが停まって…

カラフルなネオンの光が自分の足元に

反射しているのを見て

ゴクリと唾を飲んだ…






アスカ「コレで、お釣りは結構です」






タクシーの会計を手早く終わらせる青城君に

怖くて顔が向けれないでいると

ガチャッとドアの開く音が聞こえ

ビクッと自分の体が揺れたのが分かった…







アスカ「降りるよ」






「・・・・・・」







降りたくなかった…

降りれば…どうなるかなんて分かっているし…





こんな風に機嫌の悪い時の彼は…

決まって…そういう事をしようとしたがるから…







「・・・ぁ……あの…」







運転手に助けを求めようとして

控えめに声をかけると

顔をコッチに向けた60代位のおじさんは

「早く降りてくださいよ」と

小さく舌打ち混じりの言葉を溢し…





誰も…助けてはくれないよ…と

昔の自分が言ってる気がした…







「・・・・・・」






アスカ「迷惑になるから早く降りないと」






そう言うと私の顔の前に

スッと手を差し出してきて

早く車から降りる様に促し…




運転手のおじさんは

顔を前に向けたまま手をギアの上に乗せて

直ぐにでも発進できるようにしていたから

震える足をギシッとズラして

車から足を降ろした…






「・・・・・・」






バタンッと勢いよくドアが閉まると

タクシーは直ぐに動き出し

私達の前から消えてしまい…





目を泳がせたまま

バックの肩紐を強く握りしめていると

「行くよ」と二の腕を引かれ

入り口へと入っていく青城君の背中に恐怖を感じていた






沢山のパネルが並ぶ壁の前で立ち止まると

青城君は何も言わずに

青いランプが光っているボタンを押し

また私の腕を引いて歩き出した






( ・・・・ど…どうしよう… )






生理だと言って逃げても…

きっと彼は嘘を見破るだろう…






「・・・ぁ…あお…ぎくん…」






アスカ「・・・・・・」







エレベーターの中で

勇気を振り絞って青城君に話しかけてみたけれど

顔をドアに向けたまま何も答えようとせず…





ガクンッとエレベーターが止まると

グイッとさっきよりも強く腕を引かれ

目的の部屋に着くとドアを勢いよく開けた青城君は

ツカツカと部屋の中へと足を進めて

奥にある大きなベッドに

突き飛ばす様に私を座らせると

「真っ直ぐ帰らずに何してたわけ?」と

冷たい目で見下ろしてきた






「・・・ァ……アノ…」






声が上手く出せず

ベッドに片足を乗せる青城君に

ビクッと震え思わずベッドについている手に力を入れて

体を後ろにズッと下げる…






アスカ「・・・ねぇ…何してたの?」






伸ばしてきた手にギュッと目を閉じると

眼鏡をカチャッと外されたのが分かり

更に強く目を閉じた







アスカ「言えないの?」







「せっ…先輩に……誘われ…て…」







アスカ「センパイ?笑」







青城君の冷たい笑い声が怖くて

また少し後ろに体を下げると

足がベッドの上に乗ってしまい

自分がベッドの中心に近づいている子に気付き

横に逃げようと手を飛ばすと





その手は青城君にバシッと掴まれてしまい

自分の右横腹に圧を感じ

「えっ?」と顔を向ける前に

体が少し持ち上げられる感覚のあと

直ぐにドサッと頭部から背中に柔らかい感触がして

ベッドの中心に体を移動させられたんだと分かった







片手を掴まれたままで

また乱暴に扱われるんじゃないかと思い

目を上げれないでいると

「コッチ見て」と低い声が聞こえ…







恐る恐る…目線を上げていくと

ジッと私を睨む様に見下ろしている青城君の顔があり

「ごっ…ごめんなさい」と謝った…







アスカ「・・・ごめんなさい?」







「あっ……」







私の言葉に目を細めて

いい反応をしない彼に

どんどん不安と恐怖が膨らんでいき





また目線をそらそうとすれば

「目…」と言われ

唇にギュッと力を入れて

青城君を見上げた







アスカ「・・・外して」







「・・・えっ?」







アスカ「そのコンタクト…外して」







「・・・・・・」







「でも…」と言いかけた唇は

見下ろされている青城君の圧に

言葉が続いてこなくて…





「早く」と言って掴んでいた手を離すと

私の上から体を退けて

枕元にあるティッシュを数枚取り

差し出してきた…







「・・・・・・」







アスカ「その目嫌いだから早くとって」







【 ねーねー…目、見せて?笑 】






「・・・ッ……ャ…」






首を横に振って青城君から距離を取ろうと

体を後ろに下げると

今度は足首を掴まれ「早く」ともう一度言われた






「・・・ッ…目は」






アスカ「目が…ナニ?」






この空間に二人でいる事も…

青城君の顔も声も…全てが怖くて…





自分の指を目元へと持っていき

コンタクトを外した…







アスカ「・・・顔上げて…」






「・・・・ッ…」







青城君は…

元々この目を知っていたし…

隠す必要もなかったけれど…







【 見た?見た?あの目…気持ち悪いよね?笑 】







いつまでも顔を上げない私に

痺れをきらしたのか

グッと顎を掴んで顔を上げようとしてくる

青城君に「ヤメテッ」と声を上げて

掴まれている顎も振り解いた






「・・・ッ…ヤメテ……みないで…」






自分の目元に手を当ててベッドに背中を預けて

頭の中で響く声にも「やめて…」と何度も言った…






アスカ「・・・・・・」






自分の髪が引っ張られる感触がして

青城君がヘアゴムを取ろうとしているのが分かり

「ダメッ」と言って片方の手を髪に当てて

泣きながら抵抗した







「ヤメテ……さだ……に…なる…カラ…」






アスカ「・・・・・・」






「へん……な目で……ミナイデ…ッ…」







目を閉じても…耳を塞いでも…

聞こえてくる笑い声に

「ヤメテ」と顔を振ると

髪がパッと解かれた感覚が走り

乱れた髪を手で押さえた







( ・・・・・・ )






手ぐしで髪をとかされている様な…

そんな感触が頭にあり…





そのまま目を閉じ続けていると

「長い髪…好きだったよ」と聞こえてきた…







アスカ「先生の髪…細くてサラサラで…

   触りたいって…皆んな言ってたよ」






「・・・・ッ…」







そんな筈ないと首を横に振ると

「目も…好きだった」と声が近づいてきて

こめかみ部分に柔らい何かが触れ…





「キレイだよ」と暖かい吐息と共に

額や頬に柔らかい感触が降り注がれ

目に当てていた手をソッと退かそうとする彼に

首を小さく振ると…






アスカ「大丈夫だから」






「・・・・・・」







まるで…

子供をあやすかの様に

頭を優しく撫でながらそう囁く彼に

手の力を緩めている自分がいた





力の抜けた私の手を

ゆっくりと退かせると「先生」と

優しく呼びかけながら

また顎に手を当ててきたけれど

目を合わせられないでいる…







アスカ「気に入ってたんでしょ?」






「・・・・・・」







あの時は…

そうだったけれど…







【 なんかさ…血…みたいじゃない?笑 】







首を小さく振って「嫌い…」と呟くと

掴まれたままの私の手がどこかに伸びていき

指先にふにゃっと柔らかい感触がした






アスカ「あの日までは俺も嫌いだったよ…」






私の指先に触れている物は多分、彼の唇で…

彼の言うあの日は6年前の事だろう…







アスカ「あの日から…俺はこの唇…好きだよ…」







「・・・・ッ…」







ゆっくりと青城君に目を向けると

私を見下ろしている目は…

優しく笑っていて…







( ・・・さっきまでとは別人みたいだ… )







青城君は掴んでいた手を放すと

私の前髪を上げて優しく頭を撫でながら

「キレイだよ」と言って

目元に唇を何度も当ててきた









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