距離…

〈ユキナ視点〉









『明日の予定は』






いつもの様に寝る前にスマホを見ると

青城君からのLINEが届いていて…




しばらく画面を眺めていると

LINE独特の陽気な着信音が鳴り出し

数年ぶりに聞くその音に一瞬驚いてしまった






「・・・明日… 」






電話には出ずに…

青城君の言う「明日」からの事を考え…

『実家に帰ります』とだけ返信した





明日からはGWが始まり…

世間一般的には一週間ほどの連休に入る






『何日に帰って来るの』






ピコンと通知が鳴り

青城君からのLINEを見て

自分の顔が困っているのが分かった…






明日からの連休…

特に何をする予定もなく…

実家に帰る予定も…本当はなかった…






連休中はいつも以上に

電車や高速バスは混み合うし…

人の沢山集まる場所には近づきたくない…





だから毎年…

このアパートの中に閉じ籠るのが

GWの過ごし方だった…






( ・・・・・・ )






青城君が明日の予定を聞いてきたのも…

いつコッチに帰ってくるのかと聞いているのも…

意味は分かってる…





連休中に…

私に会おうとしてくれているんだろうけど…







タカシマ「いやぁ…あの営業課の新人君はすごいね」






フクタニ「どの新人よ?」







社員食堂から戻って来た高島さんが

席に着きながらそう言って

私の方を見てきたから

「えっ…」と目を泳がせると

「白石の社員証を掴んでた奴だよ」と

笑っていて青城君の事なんだと分かった






フクタニ「あー…シワクチャの請求書の子ね」






タカシマ「そうそう!

   うちに来た時は偉く鋭い目つきしてたけど

   社食じゃ可愛い顔して笑ってて

   先輩の女子社員達から可愛がられてたよ」







高島さんの言う鋭い目つきは

私の社員証を掴んでいた時のあの顔の事だろう…





あの後も…

彼からは何度か機嫌の悪い顔を向けられたけど

日に日に怖くなっていき

目を細めて私を見下ろす彼は…

本当に怖い…





機嫌がいいと安心している自分もいて…

なんだか、どっちが年上か分からなくなる時もある…







フクタニ「新人の癖に使い分けてるわねぇ…」






「・・・・・・」






数年前の様な

可愛い笑顔を私に向ける事はもうなくて…




私に見せる笑顔はなんだか…

青城君の方が上で…

どこか余裕のある感じだった…







アスカ「大丈夫だよ

  だから早く涙を止めて仕事に戻りなよ」







私の涙を拭きながら

そう笑っていた顔を思い出し

心拍数の上がっている苦しい胸の感じを

誤魔化すかの様に

バックの中にしまったばかりの水筒を手に取り

ゴクゴクと喉に冷たい感触を落とした







タカシマ「顔はいいし…

   あんな風に人懐っこい可愛い顔で甘えられたら

   お姉さん達も黄色い声を上げるわけだよ」







フクタニ「黄色い声?」







タカシマ「えぇ、彼は中々モテるみたいですし」








青城君は高校生の時もモテていたけれど

社会人になった今も…そうみたいで…





そんな彼と休日に一緒にいる所を見られでもしたら

騒がれるのは目に見えたし…







( ・・・気にしている理由は… )







『最終日の夜に帰ります』







彼が…私を気にかけてくれているのは

6年前の事があるからだろう…




あの教育実習がなければ

会社の廊下ですれ違っても声をかけなかっただろうし

顔を下げてばかりいる私に

こんな風にかまったりしないだろうから…







( だから… )






本来の距離に戻すべきだと思い

最終日の夜にしか戻らないと送って

GW中に彼から届くLINEにも…電話にも出なかった







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る