〈ユキナ視点〉









夕食を食べ終えて

廊下に設置されているキッチンで洗い物をしながら

「あっ…」と声を漏らし

ヤカンにお水を淹れてから火にかけた







今日までは温かいお茶を

水筒にいれて会社に持って行っていたけれど…







この数週間…4月になって…

青城君がうちの会社に入って来てから

落ち着かない日々が続いていて…







( ・・・喉が…よく渇く… )







明日からは冷たいお茶にしようと思い

人の出入りの少ない個人マーケットに立ち寄って

麦茶の素を買って帰って来ていた


 



コトコトと火にかけられているヤカンが

小さく揺れているのを眺めながら

「向いてないよね…」と小さく呟いた…







フクタニ「ダメな物はダメって

   ハッキリ言うのも経理の仕事なのよ

   他部署から…そんな風に見られたらだめなのよ…」







福谷さんの様に

「コレは何の為の集まりですか?」なんて

とても問い詰められないし…





確認もなく勝手に備品を購入されても

「先に連絡ください」とも言えず…






結局いつも…

福谷さんや別の先輩達が

他部署に後から「気をつけてください」と

言いに行っていて…

皆んなの仕事を増やしてしまっている…







課長「はぁ…1年目でもないんだから…

   一人でなんとか出来ないのか?」






( ・・・きっと…経理課のお荷物だ… )







今の会社の採用試験を受けたのは3年生の時で…

まだ…人の目が気にならない時だったから

面接も…しっかり受け応えが出来ていたけれど…





今、あの会社を辞めて

人と関わらない仕事に就こうと思っても

上手く面接をできる気がしない…





ヤカンから沸騰を知らせる音が鳴り出し

カチッと火を止めてからティーパックを一つ

ヤカンの中に落とし「はぁ…」と

タメ息を溢してからシャワーを浴びた






髪を乾かす気分にもなれず

濡れた髪のままテーブルの前に腰を降ろし

テレビも何もつけていない部屋で

ぼーっと考え事をしていると

いつの間にか時計の針は進んでいて

あと1時間程で日付けが変わろうとしていた







「・・・寝なきゃ…」







誰もいない部屋に

私の小さな呟きだけが響き

ゆっくりと立ち上がって

後ろのベッドへと腰を降ろし

まだ少し濡れている髪に指を通して

乾かそうか迷ったけれど

「冬じゃないし…いいか…」

そう口にしてベッドに入り

枕元の目覚まし時計のスイッチをオンにしてから

瞼をゆっくりと閉じた



 





ーーーーー








( ・・・んッ… )







目を開けるといつもの…

自分の部屋の天井が見えるのに…






「・・・・アレ…」






いつもの天井だけど…

いつもの色合いと何か違っていて

寝起きの鈍い思考の中ハッとして体を起き上がらせ

カーテンの隙間から差し込んでいる

陽の明るさにパッと枕元にある

目覚まし時計に目を向けて

「えっ」と声を上げて固まった…






( ・・・8時50分… )






あと10分で始業開始の9時になるが

私はまだ家も出ていなければ

身支度も何も出来ていない…






「どっ…どうしよう…」






慌ててベッドから降りて

バックの中に入れたままのスマホを取り出すと

LINEの通知が表記されていて

5年前の事が過り

思わずスマホを手から落としてしまった





「ハァハァ…」と息を整えながら

昨日の青城君とのやり取りを思い出し

表記されている通知の相手が分かり

恐る恐るスマホを手に取って

LINEのアプリを開くと

昨日の夜に1通のメッセージが送られてきていて

朝の8時半過ぎにも不在着信が数件入っていた







アスカ「未読無視も既読無視も許さないよ」







彼の言葉が頭に聞こえ

どうしようと口元に手を当てて

怒ってるよねとあたふたしていると

左上に表示されている時計が

8時55分へと切り替わり

「会社…」と口にして

LINEを閉じて会社に発信をした






「あっ…あの…おはようございます…」






電話をとったのは高島さんで

福谷さんじゃないことに

内心ホッとして「あの…すみません…」と

寝坊した事を伝えると

「えっ!風邪?」と耳元に響き…






タカシマ「うん、うん…あーそう…

    いいんだよ、気にするな…

    無理せず今日は休め!なっ!

    今日と明日と明後日で治せよ!」






「あっ…あの?」






ペラペラと急に一人で話す高島さんに

「あの」と何度も言うけれど

「はいはい、うんうん」と言うばかりで…






( 聞こえているのよね… )







タカシマ「とりあえず、今日は…ちょっと待て……

   あっ!白石、課長が有給使って休めってさ」







「えっ…」







タカシマ「今日はゆっくり休んで…来週からまた頑張れ」








寝坊だって聞こえていたはずなのに…

高島さんは体調が悪い事にしてくれた…






きっと…

気を遣ってくれたんだろう…






「すみません」と電話を切り

平日の朝の9時からやる事もなく…

体調が悪い事になっているから

外に出るわけにもいけない…






「・・・寝ようかな… 」






寝坊をしてこんな風に休む事は初めてで…

この数週間の疲れを一気に感じているからなのか

まだ暖かいベッドに体を潜らせて

もう一度夢の中へ戻る事にした






















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