耐える時
ブロッス帝国の本城にて新皇帝であるカイスの命令を受けたトーラスは帝国領内に既に侵入していたギン達を討つべく、魔導騎士団の出撃準備をしていた。
「良いか!これより我らに仇なす者どもを討ち果たす。各騎士は従士を従え出撃準備をせよ!兵が揃い次第出撃するぞ!」
「トーラス様!各地方の領主軍への出撃命令はどうなっておりますか?」
「それはカイ……、皇帝陛下が既に触れを出させておるから問題はない。我らの役割は領主軍が集結するまで奴らの侵入を許さないことだ、余計な事は考えるな!」
「はっ!」
トーラスが部下に命令を下していると、突如何者かがトーラスに声をかける。
「余計な事は考えるな……か、まるで自らにそう言い聞かせているようだなトーラス」
「エンビデス宰相⁉」
トーラスに声をかけたのはエンビデスであり、更にエンビデスはトーラスの心情を見透かしたかのような発言を続ける。
「今のお前には迷いがあると見受けられる。そんな状態で戦場に行っても死ぬだけだ」
「宰相、帝国を維持する為とはいえ、彼らとの休戦協定を破り、反帝国同盟を敵視する国家と手を結ぶことが本当にギガス陛下の求めた理想に近づくのでしょうか?私には遠のいているようにしか思えません」
「トーラス、確かにお前の言うように今は遠のいているやもしれぬ。だが今はこの状態を耐える時なのだ」
「耐える時……」
エンビデスは今の状態を耐える時とトーラスに言い放ち、更に詳しい話を始める。
「私もカイスが傀儡の皇帝となってしまったことは不本意ではある。だがいずれは代替わりをし、ルードらの世代がカイスを支えるようになればカイスもギガス陛下の理想を求めやすくなる」
「しかし我らがその時間を待っている間に魔族共は台頭しますし、帝国に反抗する国だって増えてきます」
「さっきのお前の言葉ではないが、余計な事を考えずにカイスの敵を叩き潰す。それが今の我々にできる唯一の事だ」
「エンビデス宰相……」
エンビデスは来るべき領主達の代替わりを見越し、その間にカイスや帝国の敵を滅ぼす事こそギガスの理想の実現に近づくと考えている。
「分かりました、私もカイス様の為にこの身を賭して奴らを討ってみせます」
「うむ、我ら魔導師団も助力しよう。戦力は多いに越したことはない」
「ありがとうございます」
トーラスもエンビデスも帝国とカイスの為にギン達と戦う事を決意する。激突は迫っている。
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