女優リーザ

 ピトリ国の港町アイルの広場でギン達は芝居の一団ミックサック団公演による邪龍伝承の舞台の始まりを今か今かと待っていた。


 そうしてしばらくすると進行役の女性が現れ、観客たちに呼びかける。


「本日はこのアイル広場にお集まりいただきありがとうございます!間もなくミックサック団による邪龍伝承を開演いたしますのでご観覧お願いします」


 そう言って女性は姿を消し、舞台袖より新たな人物が現れた剣士の男性が旅をしているようである。


 そこでどこからともなく声が聞こえる。


「彼の名はセリヌス、旅の剣士であり、邪龍がこの国に現れたという話を聞き、討伐すべくこの国を訪れたのです」


 舞台を観覧しているエイムがセリヌスという名前を聞いて、ギンに話しかける。


「ギンさん、邪龍を退治した剣士はセリヌスっていうお名前だったんですね」

「いや、おそらく……」


 ギンとエイムの会話を近くで聞いていたムルカが2人に声をかける。


「おそらくは舞台にするにあたって一団が名を決めたのだろう。伝承には名もなき英雄と書かれていたしな。芝居の上で名がないのは不便であるからな」


 ムルカがそう言ってるうちに舞台の場面は進み、セリヌスに1人の女性が声をかける。


「もしかしてあなた邪龍を退治しに来たの?」

「そうだが、あんたは」

「私はレイナ、この国の魔術師よ」


 レイナと名乗る魔術師の姿を見てミニルが反応を示す。


「あ、私あの人知っている」


 ミニルの言葉を聞いてエイムに疑問が生まれ思わずぶつける。


「え、ミニルさんは先程は伝承の事はしらないっておっしゃっていましたよね?」

「違うわよ、私が知っているのは女優さんの話。あのレイナっていう魔術師を演じているリーザっていう女優さんのことよ」

「そうなんですか、ごめんなさい私よくわからなくて」

「エイムは旅に出るまで村で住んでいたって聞いてるから無理もないわ」


 エイムとミニルのやりとりを聞いてルルーが声をかける。


「私も名前だけなら聞いたことがあるわ、もっともすごく有名な女優さんってことしか分からないけど」

「彼女はいまやミックサック団の看板女優であり、芸事に携わる者で彼女を知らないものはいない程です」

「ミニルは随分詳しいのね」

「私もいつか地元にミックサック団やリーザさんを呼んで、街を盛り上げたいと思っていますから」


 ミニルの言葉を聞いて、ルルーがある提案をする。


「舞台が終わった後、下交渉でもしてみる?」

「いいんですか?まだブロッス帝国との戦争は終わっていないのに」

「むしろこういう時代だからこそ人に希望が与えられるものが必要だと私は思うわ、話だけでもしてみたら」

「そうですね、私やってみます」


 ルルーは少しでも戦争に傷ついた人々を癒す手段として芸事の披露は重要なことであると考えていた。自分達は戦うことができる。


 だがそれができない者も何かで人の救いになるとルルーは考えるのである。

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