偉大な父

 ギン達の予想に反し、ブロッス帝国の水軍の船の1隻は補給拠点のある島まで後退しており、島に正面より乗り込むのは難しくなっているため、裏手に回る案をギンは提案するが、ウィルは撤退を提案し、どちらの意見を選択するかに迫られていたのである。


「このまま無理に突破しようとしたらあの船に俺達は潰されてしまうぜ。ここは退こうぜ」

「ウィル、この戦いにはプレツだけではなく世界中の命運がかかっているんだ」

「どういうことだよ?」

「お前達も知っていると思うが俺達はある村を襲った魔物達に関する調査をしていた。そいつらを従えていたのが魔族だったんだ」


 魔族という言葉を聞き、ウィルもミニルも驚きを隠せない。


「ま、魔族って魔物が集まって集団を作っているってやつか?」

「そんなのとも戦っているんですね」


 ウィルとミニルの驚きの言葉を聞き、ギンは話を続ける。


「今回の戦いで補給拠点を無力化し、次の侵攻まで時間を稼げれば、停戦や終戦の交渉もできるかも知れない。だから船を全速力で裏手に回してくれ、俺とジエイが敵の船の進行は遅らせる」

「あんたの言う事は分かるよ。だけど……」


 今一つ作戦決行に踏み切れないウィルにギンが強い言葉をぶつける。


「ウィル、お前の父であるボガード殿は海の傭兵として名を馳せた男だ。そんな人がこの大役をお前に任せたのはお前ならやってくれる。そう思ったからじゃないのか?」

「親父が俺に……」


 ギンの言葉を聞いて、ミニルもウィルに対し言葉を放つ。


「そうよ兄さん、父さんは兄さんならできるって思ったから私も任せたんだと思う。きっとギンさんやジエイさんも兄さんを信じているわ。私も手伝うし、この人達を信じましょう」


 ミニルの言葉を聞き、ウィルにも様々な思いが巡った。父は自分を半人前扱いし中々認めてもらえないことにいら立ちをおぼえていたが、妹の言葉、父と同じく傭兵を生業としている男の言葉にウィルの迷いが吹き飛んだ。


「ここで逃げたら親父を超えるどころか親父に追い付くことすらできねえ、ミニル!風の方はお前に任す!ギン、ジエイ、お前達に帝国の船は任す!」

「兄さん、初めて兄さんの言葉を信じる気になったわ。頑張ろう」

「当たり前だ!」


 ギン達のやり取りの中、ジエイがギン達に船の動きを知らせる。


「皆さん、敵の船が動き出しました!こちらに気付いたようです」

「来るか、ウィル!船を全速力で飛ばしてくれ!」


 ギンの言葉にウィルは強い返事をする。


「おう!任せろ!」


偉大な父の背中に追い付くため、子は自らの役割を今全力で全うしようとしている。これは希望を生むのか、それとも……

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