剣を捨てた神官戦士

 プレツにあるミッツ教団の教会でルルーは、ムルカがかつて妻を亡くし、それがきっかけでミッツ教団に入信したという話をギン達に打ち明けていた。


 さらにムルカの妻は戦争が原因で命を落としたことも打ち明けていた。その話を聞いて疑問を抱いたギンはルルーに尋ねる。


「その戦争というのは?」

「その前にムルカ様の奥様のメイリー様についてお話させてくれる?」

「ああ、頼む」


 ギンより話の承諾を得て、ルルーはムルカの妻メイリーについて語りだす。


「メイリー様はプレツの貴族の家のご出身で、宮廷魔術師として王宮にお勤めになっていたわ。対してムルカ様は騎士の家のご出身ではあったけどメイリー様のご実家と比較すると身分は低めだったの」

「2人が結婚したきっかけは?」

「ムルカ様の猛アプローチが実った結果よ」


 ルルーの話を聞いて、ブライアンは感心しており、エイムは少し照れながらそれぞれが言葉を発する。


「旦那もお堅い顔してやるなあ」

「……ムルカ様……すごいですね」


 2人の話を聞いてルルーが詳しい話をする。


「あのね、確かにメイリー様ご本人にもアプローチはしたけど。ご婚姻をお認めになってもらう為に、ムルカ様は剣技や魔法もメイリー様のご実家に披露したの。かなり苦労したみたいよ」


 ルルーの話を聞いてヨナが口を挟む。


「結局のところそうまでして結婚したいほど惚れ込んでいたってことじゃん」

「まあ、私もそう思うけど……」


 本題がぼやけてきたことを危惧したギンはルルーに話を戻すよう持ち掛ける。


「ルルー、話の本題を戻さないか」

「あっ、そうね、ごめん。話を戻すわ」


 先程までと違い、ルルーの表情が少し悲しげになっていくがルルーはそれでも語りだす。


「お2人のご婚姻がなって1年も立たないうちにプレツの南にある大陸の1国家である、サイス国との戦争が起きたの」

「戦争の理由は?」

「サイス国ではミッツ教団を敵視するユーシ教団が力を持っていて宗教戦争の延長から国家間の戦争に発展したの」


 更にルルーは、ムルカの妻の死の真相に迫る話をしていく。


「ムルカ様は騎士団として前衛部隊に、メイリー様は魔術師団として後衛部隊にそれぞれ配属されたんだけど……」


 段々とルルーの語り口が弱々しくなっていくのをギン達も感じている。


「敵の陽動で部隊が分断されて、メイリー様のいた後衛部隊は壊滅状態に陥ったの」


 次の瞬間、ルルーは涙を流しながらも懸命に語る。


「ム、ルカ……様が……助けにいっ……た、時は……変わり、果てた……メ、イリー……様の姿があっ、たわ……」


 ルルーの涙ながらに語る姿にギン達もいたたまれなくなり、エイムも涙が止まらないでいた。


「ムルカ様……」

「そこから……ムルカ、様は……敵を……斬っていったわ、戦争に勝つためじゃない。メイリー様のかたきを討つために」


 涙を流しながら語るルルーを目にし、いたたまれなくなった司祭が続きを語りだす。


「もうよいです、ルルー、あとは私が話します」

「司祭様……申し訳ありません、お願いします」

「戦争はなんとか講和交渉にもちこみ、終戦はしました。ですがムルカはメイリー殿を失った悲しみ、そして憎しみに囚われ敵を斬った自身を許せず、騎士団を脱退し実家からも勘当同然の扱いを受け、ミッツ教団に入信しました」


 憎しみに囚われ多くの敵を斬ったムルカ、彼自身の今の心は?

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