聖女

 教会についたギン達はシスターであるルルーと名乗る女性に声を掛けられる。声を掛けられ、エイムが返答をする。


「ええと、あのお願いがあるんですがよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょうか?」

「私の父が病に倒れたんです。あなたがたなら治せるかも知れないので来ていただけないでしょうか」

「えっと、どちらまで?」

「コッポの方まで来れるでしょうか?」


 エイムから突如コッポまで来てほしいという要望にルルーは戸惑って返事が遅れるが、しっかりと返事を返す。


「あの、コッポまで行くとなるとわたくし共としては少々難しい要望ですので、すぐにハイ、行きますという訳にはいかないのですよ」

「そ、そんな、ではどうすればよろしいんですか?」

わたくしが薬屋をご紹介して頂くので薬屋の主人に症状を説明していただければ…」


 エイムは少し顔を伏せながらルルーに言葉を告げる。


「だめ……、なんです。私の母は魔法で薬草を調合できるんですがそれでも症状を抑えるのが精一杯なんです。もう治癒魔法を直接かける他ないんです」

「え、ええと……」


 返答に困るルルーに対し、突如ブライアンが声を出す。


「ああ、もう!何なんだよあんたは、女の子が親父さんの為にわざわざ異国まで来てお願いしてるっていうのに、あんたら聖職者っていうより悪魔みたいじゃねえか!」

「し、失礼ですよ!我らは癒しの神ミッツ様より加護を受けその教えを忠実に守っている撲なのですよ。それを悪魔呼ばわりとはミッツ様より天罰が下りますよ」

「女の子を見捨てるのが教えってやつか!ろくでもねえ神様だな」


 ブライアンはエイムを不憫に思い、ルルーに抗議したのだがルルーは自分のみならず自らが信仰する神を侮辱されて怒りを露わにする。


「言わせておけば!教会に来てわざわざ私達が信仰するミッツ様を侮辱するなんて、なんの嫌がらせ⁉それに私はこの子を見捨てるわけじゃないわ。薬屋を紹介するって言ってるのに、なんでそこまで言われなくちゃならないわけ⁉」

「それじゃあ、ダメだってこの子自身が言ってんだろうが!分かんねえ奴だなあ!」

「わ、私は……」


 ブライアンとルルーが口論を続けている中、何者かが近づいて言葉を放つ。


「ルルー、客人に対して何たる失礼な態度をとるのですか」


 現れたのは物腰の柔らかそうな老人とおぼしき外見の男であった。


「し、司祭様!」


 驚くルルーを尻目に、司祭はギン達に話しかける。


「皆さんようこそおいでくださいました。私はミッツ教団の司祭です。我らが同朋が大変失礼を致しました。ミッツ教を代表して謝罪させていただきます」


 突如現れた司祭の第一声がルルーの発言に対する謝罪であり、一行は一瞬戸惑うが、ブライアン、続けてエイムが謝罪をする。


「あ、いや、つい感情的になっちまった。悪いわりい

「私も取り乱してしまいました。すみません」


 深々と謝罪するブライアン、エイムであったが、司祭は笑顔で受け入れる。


「いえいえ、我らが同朋に非礼があったからこちらが謝罪するのが筋でしょう」


 司祭はあくまでも非は自分たちにあるという考えだが納得のいかないルルーが抗議をする。


「ですが司祭様、こちらの少女はともかく、この男は我らが神を侮辱したのですよ。そんな者を許しておいてよろしいのでしょうか!」


 ルルーの抗議に動揺を微塵も見せず司祭はルルーに話す。


「ルルー、私はあなたの信仰心の強さを司祭として誇りに思います。それにあなたは魔力が強く、特に癒しの魔法の素養は我が教団で1、2を争う程でしょう。もしかしたら我らの中で最もミッツ様に愛されているのかもしれませんね」

「そんな、もったいなきお言葉を」


 ルルーは司祭より思わぬ絶賛を受け謙遜するが、次の瞬間、司祭より厳しい言葉を受ける。


「ですが、あなたはどうもミッツ教を信仰する者以外にあまりに狭量の態度が見える時があります。それは司祭として少し嘆かわしいですね」

「……」


 思わず黙ってしまうルルーを尻目に司祭はエイムに駆け寄り話す。


「さて、お嬢さん」

「はい、なんでしょうか?」

「あなたのお父上のご病気のことですが……」


 司祭がエイムに何かを告げようとしたところに、聖職者の1人が慌てて駆け込んでくる。


「た、大変です司祭様!」

「どうしました?」

「このスップに魔物が迫っています」


 魔物が迫っているという事態に司祭も驚きとともに、疑問も抱いた。


「何ですと⁉ですがお待ちください。スップの防衛兵団は?」

「それがトラブルがあった模様ですぐに出撃ができないようです」


 この言葉を聞いたブライアンはカールに対する憤りを露わにする。


「カールの野郎、身内同士の争いのせいで町を危機に陥らせやがって…」


 この言葉を聞いたギンがブライアンに同調しつつ司祭に尋ねる。


「全くだな。ところで司祭殿、あなた方は神官戦士を抱えてるはず。その方達は?」

「現在、別の地域の魔物討伐に向かっております」


 防衛戦力に乏しいスップをどうするかというところにルルーが言葉を放つ。


「司祭様、私が行きます」

「お、お待ちください。あなた1人では無謀です」

「防衛兵団が出れるまで時間を稼ぐことぐらいはできます」


 そう言ってルルーは飛び出していく。

 町の危機に立ち上がるルルー、町を守り抜けるのか。

 

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