恩義

 カールが兵士たちに牢屋まで連行されていくのを見届けた二フラがブライアンに告げる。


「ブライアン、すまなかった。私の不徳の致すところだ」


 以外にも二フラからの謝罪の言葉に戸惑うブライアンは動揺を隠せないでいた。


「ちょ、ちょっと待ってください!隊長がなんで謝る必要があるんですか?」

「私は確かにお前たちが不仲であることは感じていた。だが、まさかカールがお前の命を奪うための行動にあそこまで躍起になっているのに気づくことが出来なかった。それがカールの暴走を加速させてしまったのかもしれん」

「だけど、カールが処分を受けるのならそれは隊長のおかげです。自分は無実さえ証明されれば問題ありません」

 ブライアンが強い言葉を二フラに告げるが、二フラに疑問を投げかけられる。

「本当にそうか?」

「えっ?それはどういう……?」

「確かにカールの父上にカールの件を報告させたのは私だが、マイクが計画を教えてくれたからだ。私はお前の為に動くことが出来なかった。だが、そこの旅のお方達はお前の無実の証明の為に力を尽くしてくれたのではないのか」


 ギン達のことをさした発言を二フラがするが、その発言に対してギンが言葉を返す。


「確かに自分達は彼の無実証明に力を貸しました。ですがそれは自分達も先程のカールという者から彼の脱走手引きをしたという冤罪をかけられたからです。彼の無実を証明することが自分たちの無実の証明になると判断したからです」


 突如、言葉を挟んだギンに対して二フラはギンに対して言葉を告げる。


「あなたのおっしゃることはもっともだと思います。ですが、あなた方だけでも逃げることはできたはず」

「それは無理です。彼らは強行な手段に出たんです。無理に逃げようとすれば自分たちの命はなかったかも知れません」


 二フラの見解を否定するギンであったが、二フラも言葉を続ける。


「確かに一時的におとなしくして様子を見る考えもあるかも知れない。ですが私にはあなたが脱走する算段があったからこそあえてカール達に捕まったのではないかと考えています」

「買いかぶりすぎです。自分はそこまで考えていません。彼らを甘く見ていたのに気づいたからとっさに彼女の熱の魔法で脱走することを思いついたんです。彼女が熱の魔法を使えなければおとなしく死を待つだけったでしょう」


 二フラはさらに言葉を続ける。


「では何故、証拠探しに協力したんです?」


 その言葉にギンは戸惑い言葉を選ぼうとするが、適切な言葉が見つからずしどろもどろになる。


「そ、それは……」


「あなたが何故ブライアンに対してそこまでしたかは分からない。それでも私はあなた方に感謝したいと思ってます」

 二フラとギンが会話をしている中、エイムが言葉を発する。


「あ、あの差し出がましいようですがよろしいいでしょうか」


 突然のエイムの発言であったが、二フラは動揺せず話を促す。


「ええ、どうぞ」

「私はギンさんがきっと、ブライアンさんを放っておけなかったからだと思います」

「何故、そう思うんですか」

「はい、ブライアンさんとお会いしたばかりのギンさんがとても楽しそうにお話しされていたので」


 エイムの発言に対してギンが反論をする。


「ちょっと待て、いつ俺がこいつと楽しそうに話をしていた?」

「コッポからここに来るまでギンさんは思い詰めていたのに、ブライアンさんとお会いした時なんというか少し力が抜けたように見えたんです」

「それはこいつがおかしなことをいうからだ。俺が楽しんでいたわけじゃない」

 おかしいという言葉を聞いて、ブライアンがギンに反論をする。

「何だと!だれがおかしいだと、コラ!」

「こんな安全な街で護衛を引き受けるというのはおかしいだろう。それを指摘されたら国を越えて護衛するだのどこをどう聞いてもおかしいだろう」

「何だと!お前の言い方だって俺をからかっていたじゃねえか」

「俺がいつお前をからかった?俺は当たり前のことを言っただけだ」

「うるせえ!言わせておけばいちいちむかつくやつだぜ」


 ギンとブライアンのやり取りを聞いて、突如二フラが大きく笑い出す。


「ふっ、ふふ……ははははっ!」


 笑い声にブライアンは驚き、戸惑いギン達も二フラの方を振り向く。


「た、隊長……」


 ブライアン達に振り向かれて二フラは我に返る。


「あっ、いや失礼。だがブライアン、お前のそんな顔を見るのは久しぶりだ。お前はその方達と一緒の方がいいのかも知れない」

「だ、だけど隊長、自分は……」


 少し悲しげな表情で二フラがブライアンに告げる。


「ブライアン、私はお前が兵として功績をあげたことで他の平民出身の者の希望になるよう私の騎士への昇格が決まった時に上の方に掛け合ってお前も騎士に推薦をしようと思っていた。だが、それを快く思わなかったカールがお前に冤罪をかけた。かえってお前につらい思いをさせてしまった」

「隊長のせいじゃありません。それに騎士に推薦なんて自分には身に余る光栄です。それだけでも感謝してもしきれません」

「ブライアン、私への恩義だけで兵士を続ける必要はもうない。今お前にはやるべきことがあるだろう」

「やるべきこと?」

「その方達の護衛だ。経緯はともかく命がけでお前の無実証明に協力したんだ、今度はお前がその方達に報いるんだ!」


 二フラの強い言葉にブライアンは応じ、感謝を述べる。


「はっ!今までありがとうございました!隊長から受けた恩は一生忘れません」


 二フラはブライアンの言葉を強く受け止め、ギン達の方に言葉を告げる。


「さ、お聞きしたいことがあります」

「自分にですか?」

「いや、剣士殿はいささか強情でなかなか本音を話してくれないようだからお嬢さんのほうにお聞きしましょう」

「わ、私にですか」

「はい、何故その剣士……、ギン殿は危険を冒してまでブライアンの冤罪を晴らす手助けをしたのか、そして何故あなたも反対しなかったのかをです」

「あの、先程隊長さんがおっしゃられた私達だけでも逃げることができたっていうお話ですけどもし逃げ切れたとしても私達がこの国にまた来るのが難しくなるからとギンさんは考えたからだと思います」


「確かに、1度逃げて再び戻るのは難しいでしょうがそうまでしてこの国に留まる理由は?」


 エイムは息を殺して自らの事情を二フラに説明する。


「私の父は病に倒れ、この国の僧侶様の治癒魔法で治せるという望みにかけてここまで来たんです。だからギンさんは私の父、ブライアンさんをどちらも助かる方法を考えてくれたんだと思います」


 その言葉を聞いて、二フラはギンに聞き返す。


「そうなのですか?ギン殿」

「はい、彼女の依頼は彼女を僧侶殿の所まで護衛すること。その障害を取り除くために最善の方法をとったまでです」

「何故、そのことをすぐにおっしゃらなかったのですか?」


 その疑問にエイムが答える。


「きっと私のことを勝手に話してはだめだと思ったんです。ギンさん、ブライアンさんのことを律儀だって言ってたけど。ギンさんも負けないくらい律儀な方だと思います」


 この言葉を聞いて二フラは微笑んでブライアンに言葉を掛ける。


「ブライアン、やっぱりお前はこの方達と一緒にいた方がいい、律儀なもの同士仲良くするといい」

「なっ、隊長、自分は別に仲良くは……」


 すぐさま二フラはブライアンに別れの言葉を告げる。


「ブライアン、達者でな、元気よくやるのだぞ」

「はい、では失礼します。さっ、行くぞ!」


 ブライアンは潤んだ眼を二フラに見られたくないのか早々と背中を向け歩き出す。そして二フラはギンにも言葉を掛ける。


「ギン殿、ブライアンのことを頼みましたぞ」


 ギンは軽くうなずいてその場を去り、エイムは丁寧に頭をさげてその場を去る。


 去っていく3人を見届け、うれしくも、さみしくもある二フラであった。


 

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