食事
突如、その場にエイムが倒れこんでしまう。ギンは彼女を抱え馬車に乗り込み、御者に声を掛ける。
「御者殿、急いで町まで飛ばしてくれ、彼女も僧侶に治癒魔法を掛けてもらわねばならない」
「あっ、はい。す、すぐに飛ばします」
2人の声を聞いてエイムが反応を示す。どうやら倒れこんだものの意識までは失っていなかったようである。
「だ、大丈夫です。そんなに心配されなくても…」
「だ、だが」
気丈にふるまってはいるものの、声は弱弱しく感じるため、ギンも戸惑いを隠せない。
「本当に大丈夫ですから。そ、そのそこまで心配をお掛けしたから少し、言いづらいんですけど。お、お腹が空いただけですから」
「えっ?」
エイムは少し、申し訳なさそうに自らの空腹を訴えると、ギンは少し気の抜けた返事をするが、次の瞬間ギンは語気を強める。
「倒れるほど、腹が減っていたなら何でもっと早く言わなかったんだ!そこまで遠慮する必要はないだろ!」
「ごめんなさい、でもこれは魔法を使った反動なんです」
「魔法?」
「はい、さっきの魔法は私が使える魔法のなかでも高位な方の魔法なので、魔力の消費も激しいんです。その反動でお腹が急激に空いてしまったんです」
思わぬ返答に戸惑うギンであったが、すぐに言葉を返す。
「そうだったのか、怒鳴って悪かった」
エイムの返答を聞いて、そもそも自分を救おうとして魔法を使用して空腹を招いたにも関わらず、知らずとは言え怒鳴ってしまったことについてうしろめたさを感じずにはいられなかった。
「いえ、ギンさんは私を心配してくださったんですよね。私ももう少し魔力コントロールがうまく出来ればお腹は空いてもいきなり倒れるようなことはなかったかも知れませんから」
結局、空腹になるのかと思いつつも、落ち着いた口調でギンはエイムに声をかける。
「とりあえず、馬車でゆっくり休んでいろ。町に着いたらすぐに何か食べよう」
「はい」
ギンの言うようにエイムは馬車に乗り込みなおして体を落ち着け、御者に馬車の操縦を委ねる。
魔物や野盗とも遭遇することなくプレツの都市である、スップまでたどり着くと、ギンたちは馬車から降りて御者に料金を支払う。
「毎度ありがとうございました。それじゃあ私はここで」
そう言って御者はその場所から去っていく。御者が去っていくのを見届けたギンたちは徒歩で食事のできる場所を探す。
「とりあえずこの店に入ってみよう」
「はい」
手ごろな店を見つけて入店するギンたちは店員に声をかけられる。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「2人だ」
「では、こちらのテーブルへどうぞ」
店員に案内されるままにテーブルに2人は座り、店員が注文を取ろうとしてギンが注文の品を告げようとしたときにエイムが注文をする。
「この豚肉の丸焼きとおすすめサラダとゆで芋とそれから…」
エイムが多く注文するのをあっけにとられてギンは思わず小声で注文する。
「揚げじゃがを…」
そうして時間が経過して注文の品が続々来ると2人の食事が始まる。
「いただきま~す。あ、これ美味しいですね。町中のお店で食事をしたことがなかったのでとても新鮮です」
先程まで生気を失いかけていたかのようなエイムであったが食事によって生気を取り戻していく。
「よかった……」
ギンのつぶやきにエイムは反応して聞き返す。
「何がですか?」
「さっきまでまるで死にそうにすら思えたぞ、それが一気に戻ってきたからな」
「そんなに私、危なそうでしたか?ごめんなさい、そんなに心配をかけてしまって」
「まあ、今はこうして元気にしているしもう気にするな。もう夜が遅いし、僧侶様には明日お願いしに行こう。それでいいな?」
「はい」
食事を終えると2人は食事処をあとにし、徒歩で宿を探す。その途中でギンから言葉が発せられる。
「お願いを聞いてもらえるといいな」
「えっ?」
「僧侶様が君の親父殿を救ってくれるというお願いをだよ」
「はい」
ギンが自分のことで親身になってくれていると感じたエイムは強く返事をする。
果たして僧侶とはどのような人物なのであろうか?
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