32話 誤差じゃん。


 32話 誤差じゃん。



「……ニー……確か、お前の存在値は89億だったよな?」



「……う、うん、そうだよ……」


「ふっ……」


 センは、一度鼻で笑ってから、


「ちっせぇなぁ」


 と、遥かなる高みから、

 そう言ってから、



「俺のマックス存在値は……およそ90億だ」



「……いや、誤差じゃん。まあ、すごいけど、そんなドヤ顔でいうほど大差ないよね。すくなくとも、ニーのことを『ちっさい』と言えるほど大きくはないと思うんだけど」


「やかましい。俺は『戦闘力(同じ存在値で闘った時、どっちが勝つかの指標)』もお前よりは遥かに高いんだ」


「まあ、ニーの戦闘力はゴミみたいなものだからねぇ」


「存在値で上回っていて、戦闘力でも圧倒的アドバンテージを誇る。つまり、お前は死ぬ」


「そうだね。正直、今の君に、ニーが勝てるとは思えない。いったい、どうやって、一瞬のうちに、そこまで強くなったのかな?」


「ソウルゲートを使った。お前を叩き潰すために、1億年かけて修行してきた。どうだ、すごいだろ。えっへん」


「……ソウルゲート? ……ソウルゲートの波動は感じなかったけど……んー、まあいいや」


 そう言いながら、

 ニーは、全身にオーラと魔力を充満させていく。


「……ぶっちゃけ、ニーが現世で『本気で闘う機会』なんてないと思っていたよ。だから、今、ちょっと、ワクワクしている」


「まったく同じことを思っていたぜ。昨日、ソウルゲートから出てきた時には『もう、二度と、まともなタイマンはできない』と思っていた。普通に虚無感を感じていたから、お前や『1兆の敵』がいてくれて、実は、ちょっとだけ嬉しく思っている自分がいる」


「ん、ちょっとまって。昨日ソウルゲートから出てきたって……? え? もしかして、君、昨日と今日で、二回、ソウルゲートを使ったってこと?」


「そうだが?」


「ソウルゲートは、一生に一回しか使えないんだけど……」


「え、そうなの?」


「ソウルゲートはすごいチートだから……普通は一回しか使えないっていう縛りがあるんだけど……ほかにも、神様しか使えないとか、存在値は上がらないとかいろいろあって……あ、あと、ソウルゲートを使ったからって、ケガが治ったり、魔力が回復したりとかしないんだけど……」


「……へぇ……」


「……んー……君は不可思議でいっぱいな人だなぁ。……んー、んー、まあ、いいけどね。何にでも例外はあるものさ」


 そう言ってから、

 ニーは、さらに、 全身へ送るエネルギー量を増やし、


「ニーの全力、受け止めてくれると嬉しいな」


 心を整えると、

 そのまま、『自分の影』に飛び込んだ。


 それを見たセンは、わずかも動揺することなく、


(影移動系の魔法……探知されることを最初から想定して、フェイクのオーラドールを三つ走らせている……)


 すぐさま、『ニーのやりたいこと』を看破する。


 全部で『2億年』という、とてつもなく長い間、

 ずっと、CPUルームで『高次戦闘訓練』をしてきたので、

 『戦略』に関しては、もはや初動で完全に見抜くことが出来る。


(ぬるい手だ……読みが10万手たりねぇ)


 あえて、背後を奪わせて、

 『心の死角』を強制させるセン。


 ニーは、ギラついた目で、センの首を刈り取ろうとするが、

 センは、そんな安い手を通すほど甘くない。

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