第18話 実家

「タケル!

お帰り」

母親がすごい勢いでリビングから飛び出してきた。

セミロングの黒髪も、野暮ったい服装も以前とたいして変わっていないが、少し老けた気がする。


「お邪魔します」

ここはもう俺の帰る場所じゃない。

他人行儀な俺の受け答えに、母親の顔が一瞬凍りついた。

しかしすぐに一人で気を取り直すと、わざとらしく明るい声で言った。

「彼女は?

連れてきたんでしょ?」

「冗談だろ。

俺は二度とこの家と関わるつもりはなかった」

部屋に重い空気が流れる。

このまま決着をつけようと俺が口を開きかけた瞬間、和哉が間に割って入ってきた。


「ごめーん、義母さん。

俺が急に押しかけて有給まで取らせたもんだから義兄さん怒っててさ」

「しょうがない子ね。

弟に庇ってもらっちゃって」

「話はまだ…!」

「とりあえず、ご飯でも食べたら」

俺は二人に煙に巻かれてしまい、何事もなかったように、深夜の夕食が始まった。


「ほらっ、久しぶりでしょ」

食卓には唐揚げやサラダと一緒に地元の魚、ままかりが並べられていた。

開きの状態になった小ぶりの青光りした身が人参や玉ねぎと一緒に酢漬けにされている。


ままかりという魚は、まんま、つまりご飯をとなりから借りるほど美味しいというのが由来らしい。

初めて聞いたときは、借りてくるんじゃなくて一緒に食べればいいのにと思った。


美味しいものがあるなら、そばにいる人と分かち合いたい。

そして今、俺のとなりにいるのが先生じゃないのが忌々しくてたまらない。

この家で食事なんてとる気にもならない。


「明日は仕事もある。

長居するつもりなんかない。

今日来たのは、この家から俺の存在を消すためだ」

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