第32話 光さんの話 2

「なるほど。

 それは、良い経験を積まれたのですね。


 ところでこの『桜園』には、それまで勤めていた職場から、いつ頃変わられたのですか?」



「いいえ、変わった訳では無いです。


 努めていたホームの経営者が、追加で新たなホームを作る事にした時に、私がその運営を任されたのが、この『桜園』なのです。



 私が運営するからと、建設前にはどんなホームを作りたいかの希望も聞いてくれて、このホームの名前も私が決めました。」




「そうだったのですか。

 光さんは、随分経営者の方から信頼を得ていたのですね。



 ちなみに、その経営者というのは、もしかして桜井会長だったりするのでしょうか?」

姫子が光さんの目を見ながら確認していた。



「いいえ。

 こちらの経営者は、父ではありません。」

光さんは、サラっと答えた。



「でもこの先、父が経営に関わるという話は出て来ています。



 実は以前、『桜園』が理想のグループホームという事で、雑誌の記事になった事があるんです。


 その記事が掲載された後に、父から経営者の方に、桜井コーポレーションの傘下に入らないかという提案があったそうなんです。



 その話を経営者から聞いた時は、とても驚きました。


 今まで桜井コーポレーションは、介護事業の分野には、進出をしていなかったはずだからです。」

光さんは、その話を聞いた時の事を思い出していたようで、驚きの表情を浮かべながら話していた。




「そうですか。

 どうして桜井会長は、介護事業に進出しようと思ったのでしょうね?


 そういった事は、経営者の方とお話されましたか?」

姫子が確認していた。


「ええ、もちろんです。


 父は、経営戦略として需要が見込まれる分野への投資を惜しまないと説明したそうです。


 この介護事業は、これからも拡大が見込める分野で、非常に将来性があると話していたそうです。


 個人とグループ企業とでは、資本力が全然違いますから、やはり桜井コーポレーションが後ろ盾になってくれれば、経営がより安定するのではないかと、うちの経営者は嬉しそうに話していました。


 ですから、この話は進んでいくのだと思います。」

光さんは、淡々と話していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る