第29話 グループホームにて
『桜園』
桜の模様が描かれた綺麗な看板にその名が記してあった。
「ここですね。」
黒川が言った。
黒川と姫子は、光さんと約束しているグループホームに到着した。
黒川が受付で、光さんと会う約束を伝えると、ロビーで待つように言われた。
広くて明るいロビーには、観葉植物の植木鉢が置かれていて、ゆったりとした空間が演出されていた。
ソファに座ると、すぐに奥の方から光さんと娘の桜さんが一緒にやって来た。
「あっ、黒川さん。
あんな報道を見たから、今日は会いに来ちゃいました。
大丈夫ですか?」
桜さんは、心配そうな顔をしながら話しかけて来た。
「ええ。」
黒川が答えた。
「でも驚きました。
お爺さんのお見舞いに行ったら、突然取材をされたりして…。
だからその事をお母さんに話して、録画をしてみんなで見たのに、放送されたのって、黒川さんについてだけでしたね。」
「ほらっ、話を始めると長くなるぞ。
刑事さんの顔を見たら、すぐに学校に行くんだろ。
もう行かないと、部活に間に合わなくなるぞ。」
光さんが言った。
「…そうだった。
もうっ!パパが『あの刑事さん、きっと左遷されるな』なんて言うから、心配したけれど、大丈夫だったじゃない。
でも、予想がはずれて良かったよ。
それじゃあ、行ってきます。
黒川さん、それじゃあ私はこれで失礼します。」
桜さんが嬉しそうにそう言って、小走りに出掛けて行った。
「慌ただしい娘で…。
お騒がせしてしまい、すみませんでした。」
光さんが言った。
「いいえ。
むしろ自分の事を心配して、わざわざ忙しいのに会いにまで来てくれたなんて、嬉しい限りです。
後で、お礼を伝えておいて下さい。」
黒川が答えた。
「娘は、『一人きりでお見舞いに行って寂しかった時間を楽しくしてくれて、自分の事を守ってくれた親切な人が、そんなピンチになってしまうのは、良くない』と言っていました。
私が余計な心配をさせてしまったみたいですね。」
光さんが答えた。
「いやぁ、あながち余計な心配とは言い切れないのですが…。
でも大丈夫ですから。」
黒川が笑顔を作って答えた。
「それより光さん、本日はお時間を作って頂き、どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅くなってすみませんでした。
警視庁捜査一課の黒川と申します。
そして今日は、二人で話を聞かせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
黒川が突然の桜さんの登場で遅くなってしまった挨拶を、ようやくここでした。
黒川の挨拶に合わせて、姫子も黒川と一緒に一礼してから、
「純情と申します。よろしくお願いします。」
と言った。
「はい。
初めまして、
こちらこそ、よろしくお願いします。」
光さんが答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます