そして桜は花開く《姫子の事件記録<番外編>》
紗織《さおり》
プロローグ
第1話 桜咲く夜
「黒川さん、見て下さい。
もう桜があんなに咲いているんですね。」
青野が車の窓の外の景色を見て、黒川に話し掛けてきた。
「おお、そうだな。
事件の捜査中は、上なんてゆっくり見上げたりしないから、全然気が付かなかったよ。」
黒川がしみじみと答えた。
二人が居るのは、一つの事件が終わり警視庁へと戻る移動中の車の中だった。
車は、ちょうど千鳥ヶ淵の夜桜がライトアップされた桜並木の下を走っていた。
「…という事は、お前も捜査一課に来て、そろそろ一年が経つという事だな。
どうだ、もう仕事には慣れたか?」
黒川が青野に聞いてきた。
「いやぁ、まだまだですよ。
早く黒川さんのような一人前の刑事になりたいです。」
青野が謙虚に言った。
「なんだ、なんだ。おだてたって何にも出ないぞ。」
黒川が照れ隠しなのか、少し大きな声で答えた。
「おだててなんかいませんよ。
そもそも黒川さんって、事件で失敗をした事とかあるんですか?」
青野が唐突に聞いてきた。
「失敗?当たり前だ、そりゃあ、あるに決まっているだろ。
お前、知らないのか?俺は以前、派出所勤務に戻されそうになった事だってあるんだぞ。」
黒川が答えた。
「えっ、そうなんですか?
そんな話、初めて聞きましたよ。
じゃあ、どうやってまた警視庁に戻ってきたんですか?」
青野が驚きながら聞いてきた。
「まぁ、正式な辞令前に派出所勤務は取り消しになったんだがな。」
黒川が素っ気なく答えた。
「一体どういう事なんですか?
黒川さん、ちゃんと教えて下さいよ。」
「まぁまぁ。青野少し落ち着けって。
そうは言ってもすぐに話せるような簡単な話じゃないんだよ。
それじゃあ課に戻って、もしも何も無かったら話す事にするよ。
そうだな…、せっかくだから、どっか近くの店で今回の事件の打ち上げをしながら話すというのはどうだ?
とは言っても、給料前で俺の懐は非常に寂しい。
青野、話が聞けるお礼に、俺に晩ごはんを奢ってくれたりしないか?」
黒川がにんまりと笑いながら言った。
「はいはい。もちろん僕が払いますよ。
約束ですよ。だからちゃんと教えて下さいね。」
青野が二つ返事で答えた。
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